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2011年12月15日14時27分
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<  第5回朝日杯オープン戦観戦記第14局  > 2次予選決勝 ▲谷川浩司九段−△阿部隆八段

谷川、快勝で本戦へ

対局日:2011年11月22日

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■谷川の矢倉

 谷川は定刻の10分以上前に、対局室へ入った。阿部がまだいないこともあり、あぐらで座布団に腰を下ろした。午前の対局では、新鋭の澤田真吾四段に完勝。リラックスした雰囲気で、かばんからハンカチ、扇子、アナログの腕時計を取り出した。

 谷川が部屋を出ると、入れ替わるように阿部が入室。午前の対局では村田顕弘四段を破っている。ほどなくして谷川が部屋に戻り、今度は正座で上座についた。両者は大橋流でゆっくりと駒を並べた。記録係を務める荒木隆二段の振り駒は歩が3枚出て、谷川の先手番に決まった。

 定刻の午後2時に対局開始。谷川は静かにお茶をすすったあと、▲7六歩と角道を開けた。阿部が△8四歩と応じると、谷川は▲6八銀と上がり、矢倉を目指した。

 谷川と言えば角換わりの名手として知られているので、矢倉の採用は珍しい。後日話を聞くと「本局の2日前に東京で行われた、▲渡辺明竜王―△羽生善治二冠戦(JT日本シリーズ決勝)を現地で見て、矢倉を指したいなと思いました」と語った。

 第1図は谷川が▲2五桂と跳ねた局面。2日前の将棋と同一局面で、羽生は△3三桂とぶつけ、▲1五歩△同歩▲3五歩と進んだ(羽生勝ち)。

 本局で阿部は△4五歩と突いた。▲3七銀も有力だが谷川は「気合が悪いので」。本譜は▲4五同銀として以下、△2五銀▲同歩△5三桂▲3四銀△同金(第2図)となった。

■理事との両立

 谷川は49歳を迎えた4月から、日本将棋連盟常務理事・渉外担当として、棋界の運営に携わっている。夏に行われた専門紙のインタビューでは、「随分前からですが、『50歳』が目安かなと思っていました。私は将棋界に育ててもらった人間です。いつかは運営の方で力になりたいという考えはありました」と話している。

 理事になってからは生活が一変した。対局がない日でも関西将棋会館に出勤し、月に何度かは上京している。全国各地でのタイトル戦やイベント、スポンサーへのあいさつなどの公務も多い。当然、将棋の研究時間は激減したが「理事という仕事は直接将棋の勉強に関係ありませんが、将棋界に関わると言うことは将棋の研究をしているのと同じことになります。それを少しでもプラスに変えていければ」と語る。

 前述のJT杯決勝も、理事の公務で東京に足を運んだ。対局を観戦したわずかな時間に、新たなアイデアが浮かんだのだろう。

第2図から谷川は▲4六角とぶつけたが、ここでは▲8八銀と穴熊のハッチを締める手がまさったと語る。「本譜はこのあと攻めが細くなってしまったので、▲4六角は早かったかもしれません」

 阿部は△4三銀打と自陣を補強する。後手が△8六歩▲同歩と突き捨て、第3図となった。

■奨励会幹事

 阿部は昨年の4月から、関西奨励会の幹事を務めている。奨励会員に厳しく指導する立場が、その姿勢は自身に対しても同じだ。「奨励会員が気の抜けた自分を見て『あんなので良いんだ』と思うようなことがあってはならない」と熱く話す。

 第3図は阿部が8筋を突き捨てた局面。「ここは相当迷った」と阿部は振り返る。△1八角成と香を取るのも有力で、以下▲3四歩△4四銀▲3五銀△5五歩▲4四銀△同金▲5五歩△6五桂で後手も十分戦えた。

持ち時間を使い切った阿部は△1二玉と角筋を避け、▲1九飛△3八角成▲1五歩△2八馬(第5図)と進んだ。

■両者自信あり

 第5図は後手が△2八馬と寄った局面。▲7九飛と逃げているようでは△1八馬で先手の攻めは切れる。谷川に迷いはなかった。ノータイムで▲1四歩と端を取り込み、飛車を見捨てた。△1九馬の局面で1分将棋に入ると、▲1三銀と打ち込んだ。

 ほぼ飛車損の猛攻。谷川は対局中「穴熊が生きる展開になったので、何とかなるのではないか」と見ていた。実際は攻めが細かったようで、阿部も形勢に自信を持っていた。とはいえ、秒読みでは精神状態が大きくものを言う。谷川のしなる指先にも、その自信は表れていた。

 第6図は先手が▲2四歩と突いた局面。次の一手で形勢が大きく開くことになる。

■阿部にポカ

 第6図で△1一歩と打った手を阿部は「ひどいポカでした」と嘆いた。▲2三歩成△1二歩に▲2四桂が痛打。仕方の無い△同銀に▲2二成香で先手の攻めが切れなくなった。

第6図では△2四同歩とするべきだった。▲2三歩には△4四歩と角筋を遮断。以下▲3四桂には△4一玉▲2二歩成△同金▲同と△1三飛成▲4二桂成△同銀で後手が持ちこたえていた。

 「ホント、何やってんだか」。阿部はあきれたように吐き捨てた。

■谷川勝勢に

 谷川が優勢になって迎えた終盤戦。第6図は後手が△6五桂と跳ねたところ。谷川はお茶を飲もうとしていたが、△6五桂を見ると「はー」と息を吐き、盆に湯飲みを戻した。谷川にそのことを話すと「そうでしたっけ(笑)。ここは時間があれば勝ちを読み切れそうですが、秒読みなので何が起こるか分かりません。自玉が詰まないかを確認していました」と振り返った。

 実戦は▲6四歩と後手玉に詰めろをかけ、△7七桂不成に▲8八玉と上がった。先手玉に詰みはない。先手の勝勢がはっきりした。

■谷川本戦進出

 午後4時1分。▲6二銀を見た阿部が「負けました」と頭を下げた。後手玉は▲7一金が受けにくく、投了もやむを得ない。

 谷川は終始攻め続け、「前進流」の愛称通りの内容で二次予選を突破。「最近はトーナメントでの勝率が悪く、対局数が少ないのが気がかり」と話すが、復調を十分に感じさせた。3年連続となる本戦へは「最近は理事として大きな舞台に携わることが多いので、対局者として登場することができるように頑張りたいです」と意気込みを語った。

(池田将之)

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