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2012年1月6日18時0分
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<  第5回朝日杯オープン戦観戦記第16局  > 本戦1回戦 ▲木村一基八段―△阿久津主税七段

木村、辛抱の勝利

対局日:2011年12月22日

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■優勝経験者同士の一戦

 前回優勝者の木村と第2回優勝者の阿久津の対戦。共にこの棋戦との相性は抜群。それだけに1回戦で一人消えてしまうのは惜しい思いもある。

 午前9時40分ごろに対局室入りした木村は扇子やポケットティッシュ、のどあめなどを用意する。記録係の三枚堂達也二段がお盆やお茶を運ぶために何度か席を外している間に、木村は棋譜用紙をチラチラのぞき込んだ。三枚堂二段が直前の奨励会で二段昇段を果たしていたことに気付いた木村は、本人に祝福の声をかけた。対局前にもかかわらず、周囲の人に気配りするのが木村だ。

 阿久津は対局開始数分前に到着。早指し棋戦だからか、ペットボトルのお茶だけを持参した。

■軽率な仕掛け

 本局は後手の阿久津の一手損角換わりとなった(第1図)。阿久津は先手でも後手でも序盤で角交換になる戦型を好む。4手目の角交換は丸山忠久九段が最近よく指している形で、第24期竜王戦七番勝負では大きなテーマとなった。△8四歩や△3二金を後回しにして他の手を指せるメリットがある。相居飛車戦で守りの要といえる△3二金を保留するというのがユニークなアイデアだ。木村は早繰り銀で対抗した。

 第2図で▲3五歩は勇み足。△4五歩とされて木村は固まった。▲3四歩△4六歩▲3三歩成△4七歩成の攻め合いは4一金型が生きているし、次の△4六角が厳しい。苦慮の末に▲2四歩と突いたものの、これでは失敗だ。先手は序盤早々に1歩損を喫した。

 戻って▲3五歩では▲5六歩と逃げ道を作り、機を見て▲3五歩と仕掛けるべきだった。木村は「4手目角交換作戦は、先手乗りの認識が強いと思う。後手は何らかの工夫をしなければならない」と言う。そして、「阿久津さんの工夫が見られるせっかくの機会を凡ミスで逸した」と反省も口にした。

■阿久津の打開

 対局開始早々しくじった木村だが、それでも致命傷にならなかったのがせめてもの救いだ。そして、過ちを繰り返さなかった。被害を最小限にとどめ、千日手含みの手待ちで辛抱を重ねる。踏み込む勇気は大切だが、暴勇は害悪だ。序盤の失敗なら挽回(ばんかい)はしやすい。「うまくやられたらダメと思ったけど、はっきり決めるとなると大変。開き直っていた」とは木村の局後の弁。

 阿久津はチャンスとみれば踏み込むタイプ。残り時間が少ないものの、第3図で△3六歩と積極果敢に打開した。次の▲4七金で考慮中に阿久津は1分将棋に入った。細い攻めだが、△6六歩まで巧みに拠点を作る。

 局面は後手が十分。しかし、実戦の面白いところで、阿久津は模様がいいと思いながらも「(第2図で指した)△4五歩の流れとしては、その後の序盤戦でもう少し突っ張りたかった」という。そのモヤモヤがミスを誘う。

■差が詰まる

 阿久津は風邪気味なのか、時折鼻をグズグズとさせている。木村はのどあめを口に入れて燃料補給する。

 △9四角(第4図)は6六の歩を生かしたものだが、▲6六金から▲5六角と切り返されてみると案外効果が上がらなかった。角が後手陣を狙うだけでなく、2九や3八の守りにも利いているからだ。そして木村は▲3四歩(第5図)△2二銀▲2五歩と反撃を開始する。▲3四歩を△同銀左は▲2二歩△同金に▲3六飛△2八馬▲3四角や▲2三歩△同銀▲3五銀がうるさく、▲2五歩を△同歩も▲3六飛△2八馬▲3五銀で▲2四歩が厳しく先手が指せる。先手良しの変化がいくつもあるということは、形勢に差がほとんどないことを意味している。途中で▲6六金と歩を取り払えたことで戦場が右辺に絞られ、後手陣周辺で戦いになっていることも大きい。

 △9四角では△6九角が勝った。▲4八飛なら△8七歩▲7九玉△7八角成▲同玉△8八歩成▲同銀△8六飛で手が続く。△6九角に▲6六金も△4七角成が銀取りで厳しい。「▲5六角で忙しくなった。先手が引き締まって難しくなった」と阿久津。

■2発目の角打ちで逆転

 戦果を挙げられなかった後手には、次第にプレッシャーがかかってきた。秒読みの中、2三の銀で△3四銀と歩を払う。自然な一着に思えたが、3手後の▲6七角(第6図)があまりにも厳しかった。▲5六角に次ぐ2発目の好打だ。3四の銀取りが受けにくいだけでなく、2四の歩と連動して2三を狙い、状況次第では▲1五歩から端を攻める含みも生じて見事に後手陣を射抜いている。ここで形勢が傾いた。後手は桂得だが、それを有効に使う手立てがない。「▲6七角で堅い上に攻めが切れなくなった。角打ちは△2九角成とした時に気付いたが、軌道修正できなかった」と阿久津は悔やむ。

 △3四銀では△2九角成▲3五銀△2八馬と開き直る方が良かったという。以下▲2四歩には△同銀▲同銀△2三歩と受ければまだ大変だったようだ。これなら穴熊の遠さが生きた。

 本譜の先手の攻めは歩を使って上から押しつぶすものなので、途切れる心配がない。気付けば一方的に先手が攻めつぶす展開に進んでいる。▲4三歩成から▲4四歩が「金は斜めに誘え」や「ダンスの歩」の応用で、巧みに穴熊を弱体化させた。2回目の▲4三歩成も軽手で△同銀なら▲1五歩が間に合う。

 終了図の▲2七飛は遊んでいた飛車を使う最後の決め手だ。次の▲2二成銀△同歩▲2三歩成△同銀▲同飛成の寄せが受けにくい。△2五桂打としても▲同飛△同桂▲2二成銀△同歩▲2三桂で受けにならない。

 感想戦は駒を動かさずに口頭で行われた。木村は軽率な序盤を反省。阿久津は「自爆しないで、いい辛抱された」と振り返りながら、序盤のリードを保てなかったことを悔やんでいた。木村は辛抱の勝利で、2連覇へ一歩進んだ。

(君島俊介)

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