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2012年1月16日20時51分
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<  第5回朝日杯オープン戦観戦記第18局  > 本戦2回戦 ▲木村一基八段―△広瀬章人七段

広瀬、初の準決勝へ

対局日:2011年12月22日

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■両者得意の戦型

 前回優勝者の木村と初の本戦入りからベスト4を狙う広瀬の対戦。

 2011年、木村は朝日杯で優勝したものの、A級順位戦で陥落してあまり振るわなかった。優勝経験のある本棋戦を復調の足がかりにしたい。広瀬も高い勝率を挙げているものの、羽生善治二冠に王位を奪取されたのは痛い。実力は高く評価されている。早いところ、王位獲得以外の実績を欲しい。

 本局はゴキゲン中飛車対二枚銀急戦となった。四間飛車穴熊がトレードマークの広瀬だが、ゴキゲン中飛車も得意で高い勝率を挙げている。また、ゴキゲン中飛車に対して、居飛車の急戦策では「超速」と呼ばれる形が流行しているが、木村はこの二枚銀を得意にしている。▲3六銀(第1図)と銀を繰り出して3四歩を狙う作戦だ。▲2六歩型がポイントで、▲4五銀だけでなく▲2五銀と出られるようにしている。

 後手が△3二銀と上がって対応したのが珍しい。もっとも、この場合△4二銀では角が狭い。木村は▲4五銀から▲3四銀と銀のドリブルから局面を動かしていく。△3二銀型は実戦例が少ないため、本局の指し方も今後の課題だ。

■うっかりしたが

 第2図。小競り合いから広瀬は木村相手に木村美濃に組み替えたが、▲2四歩△同歩▲2二歩をうっかりしていた。△3三桂なら▲2一歩成△同銀▲4三銀成や▲2四飛がある。プロなら難しくない手筋とあって広瀬は局後に苦笑していたが、致命傷にならなかったのは幸運だった。△5二金左▲2一歩成△同飛と辛抱してみると、2筋逆襲の含みだけでなく、陣形や持ち歩の数の差も大きいためはっきり先手良しとはいえないのだ。感想戦では▲2一歩成と桂を取らずに▲7五銀△7四歩▲8六銀△3三桂▲2四飛△5五歩という変化が検討されたほどだ。しかし、この手順は先手の味が悪い。木村は直前に△5四歩と歩を打たせて、手堅く指していたのだが、「(▲2四歩からの攻めを)うっかりか。それでも大変とはねぇ」と局後にぼやいた。

■揺れる形勢

 ▲3六歩(第3図)に△5五歩が軽快な棋風の広瀬らしい手筋。先手の角道を止め、▲同角なら△4四金と角銀両取りに出られる。

 ただし、次の△2六歩は攻め急ぎで、△5四金と押さえる手が有力だったようだ。本譜は木村が▲2五飛や▲2二歩(第4図)で攻めをしのいで持ち直した。

 ▲1七桂と跳ねて小康状態を得た木村は1分将棋の中、急いで席を立った。囲碁では秒読みのときはトイレにいっても秒を読まれないそうだが、将棋はそういうことがないのでかなりの勝負手。相手がすぐ指した場合は、時間切れ負けの恐れがあるからだ。なお、本局が行われている特別対局室はタイトル戦が行えるように作られており、部屋が広いだけでなく専用のトイレが設けられている。

 広瀬は読みを入れて△4二銀を着手。時間攻めをしたところで悪手を指しては仕方がない。木村は足早に戻り、対局は継続された。▲5六金と歩を取り払い、先手の駒がうまく使えてきた。

■暴発で形勢傾く

 2筋の攻めを何とかしのぎ、先手の駒が勢い付いてきた。しかし、好事魔多し。第5図での▲4四金は判断ミスだった。角をさばいたが、△2八歩成から△4七歩のと金攻めがあまりにも厳しい。木村は攻めを急がされ、▲9四桂から端攻めを敢行したものの、△9八飛の王手香取りがあっては形勢がはっきりした。

 戻って▲4四金では▲5七歩と受けたり▲5四歩△5二金▲4五歩と攻めたりすればまだまだ難しい将棋だった。1回戦の対阿久津七段戦では辛抱よく指していた木村だったが、本局は勝負どころで暴発してしまった。局後、「(▲4四金を)指した瞬間泣きたくなりました」「勘弁してよと思った」など何度も▲4四金を嘆いた。

 広瀬は△8四香と打ち据えて先手陣の急所を狙う。このあたりから何度か木村が舌打ちするようになった。

■あふれ出た感情

 木村は119手目の▲6二金(第6図)を指す直前、顔をしかめて怒ったような表情を浮かべた。それは一瞬の出来事だったが、普段温厚な木村なだけに盤側で見ていてどきりとさせられた。押さえ込んでいた感情があふれ出たようだった。

 広瀬は序盤でも終盤でも表情や所作がほとんど変わらない。静かに△8七香成と香を成った。木村は広瀬が指すところを見詰め、泣き出しそうな表情を隠すかのようにうつむいた。その後、身を正してから投了を告げた。筆者は数年にわたり棋士の対局を見てきたが、これほど生々しく対局者が敗戦を受け入れる場面を初めて見た。

 終了図は後手玉が詰まず、先手玉は△7六竜▲7八歩△8八金▲同角△同成香▲同玉△8七金▲7九玉△8八角までの詰めろでしのぎ切れない。

 木村が「▲4四金はなかった」とうめいて感想戦が始まった。よほど自分に腹を立てていたのか、終局直後にパンとひざをたたいていたのが印象的だった。それでも感想戦が終わると、木村は1回戦の▲広瀬―△伊藤真吾四段戦の見解を聞くなど落ち着いてきた様子だった。

 広瀬は初のベスト4進出。有楽町マリオンでの公開対局の切符を手に入れた。

(君島俊介)

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