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2012年1月20日21時42分
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<  第5回朝日杯オープン戦観戦記第20局  > 本戦1回戦 ▲羽生善治二冠―△深浦康市九段

羽生が好発進

対局日:2011年12月27日

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■一手損角換わりに

 羽生と深浦の対局で印象に残っているのは、2004年5月に行われた朝日杯の前身、朝日オープン将棋選手権の決勝五番勝負第5局だ。

 後手の深浦・朝日オープン選手権者が横歩取り△8四飛型に構えたのに対し、中盤、挑戦者の羽生が意表の玉立ちから厚みを築いて勝ち、新しい選手権者になった一戦。この時の羽生の対局姿は鬼気迫るものがあった。

 両者はその後も度々対戦し、一時は羽生28勝、深浦27勝と対戦成績が伯仲していた。だが、一昨年の6月から羽生が7連勝。深浦としては、ここらで一発返しておきたいところだ。

 後手の深浦が一手損角換わりを選択。持ち時間が少ないこともあり第1図の▲7七角までよどみなく進む。▲7七角の局面は先手2勝、後手1勝、1千日手、1持将棋と5局ある。ほぼ互角と見てよいデータだろう。▲7七角に△4四角が一局あるが、他はすべて△6五歩。

 ▲7七角に深浦の手が初めて止まる。前例を呼び起こしていたのだろうか。腕組みをして右手は口もとへ。微動だにしなくなってしまった。

■羽生の新構想

 ▲4六銀に深浦が△5四銀と打って迎えた第2図。ここで▲3四角が羽生の新構想である。▲4五銀や▲2三角成が狙いで推進力のある一手だが、先手だけ角を手放すことになるので具体的な戦果が必要となってくる。羽生は「受ける発想の展開ではありません」とハッキリとした口調で語った。一方の深浦は「厳しい手で来られて、こちらも収める手段がないです。角をぼやけさせる展開にしたかったのですが……」と話した。

 戻って△5四銀では、△4四銀打も深浦は考えたという。「△4四銀打でも本譜と同じく▲3四角と打つつもりでした」と羽生が応じ、局後に調べられる。以下△4六銀▲同歩△3七桂成▲同桂△3六歩▲4五桂△3七歩成▲3三歩△同銀(変化図)で難解との結論に達した。

 激しい展開となって迎えた第3図。今3七の桂を4五に跳ね出したところだが、これを△同銀と取るのは▲同角△3七歩成▲2六飛△4四角▲3五歩△4七とに対し、▲6三角成と後手に手を渡すのがうまい手で、後手が少し困っている。本譜は▲4五桂に△3七歩成▲2五飛の交換を入れてから△4五銀と食いちぎった。

■深浦の誤算

 第4図は△2七角に▲3三歩とたたいた局面。△2七角は4九の金に狙いをつけているが、「4九の金を取られても、その瞬間だけ一手の余裕があります」と羽生は話す。▲3三歩は狙いすました一着だったのだ。

 ▲3三歩に深浦は自陣に視線をさまよわせながら15分ほど時間を使う。持ち時間が40分の本局では長い長い考慮と言える。深浦の構想に誤算があったと感じさせる時間であった。

 △3三同金に対し、先手は▲4三角成と斬り込む。3三へ金を呼んだのは王手で▲3三馬と取る手を用意したものだ。すなわち▲4三角成に△同金を強要したとも言えるだろう。

 殺到された深浦は「まずい手順だった」と局後につぶやいた。打たれた角に仕事をされてしまったことに対する深浦の思いが伝わってくる。

 ▲4三角成△同金▲同飛成△5二銀▲3二竜に△4一歩と打たせ、攻めるだけ攻めてから悠然と5九へ金を寄せる。目標にされていた金をうまく逃がし、形勢の針は先手に傾いた。▲5九金に深浦は△4七とで待望のと金の活用だが▲4三銀が羽生らしい細心の注意を払った一着。△5四角成と急所に成り返られるのを防いでいる。△同銀は▲8二竜で飛車を素抜かれるので後手は取れない。

■左右から包み込む

 羽生の攻めに対し、深浦は自陣に馬を引きつけて粘る。さすがに一気の攻略は難しく、羽生も玉を7九に逃がして自玉を安全にした。戦いの合間にタイミングを見計らって自陣に手を入れるところは、さすがは羽生の勝負術と言わざるを得ない。

 手筋の△8八歩に対し、▲同銀は壁になるし、▲同玉は3三の角のラインに間接的に入って気持ちが悪い。相手にしていられないと羽生は▲6三銀(第5図)と打った。居玉の後手にとって、この手が厳しかった。以下、十数手指し進め、深浦が駒を投じた。

 感想戦のあと、▲3四角について羽生は変化図の辺りを気にしつつ、「今後の課題ですね」と短く語った。その顔は、また一つ楽しみが増えたと言っているようなうれしそうな表情に見えた。

(滝澤修司)

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