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2012年2月2日22時50分
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<  第5回朝日杯オープン戦観戦記第22局  > 本戦1回戦 ▲谷川浩司九段―△佐藤康光九段

二転三転の熱戦

対局日:2011年1月12日

第1図拡大  

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終了図拡大  

■ゴキゲン中飛車の表裏

 谷川は名人通算5期獲得による十七世名人、佐藤は棋聖6期獲得による永世棋聖の称号資格を持つ。本戦1回戦から重量級の組み合わせとなった本局は、200手を超える大熱戦となった。見どころが多すぎて本欄では紹介しきれないので、上にリンクがある棋譜再生(観戦記掲載に合わせてコメントを追加済み)を参照しながら読み進めていただきたい。

 戦型は後手番佐藤のゴキゲン中飛車から相穴熊へ。ちなみに佐藤は王将戦第1局で、居飛車を持って久保利明王将のゴキゲン中飛車を破っている。今回居飛車を持った谷川もゴキゲン中飛車を多用しており、互いに指されたら嫌な形を選んだと考えられそうだ。

 第1図の△1二香は振り飛車党の基本手筋。具体的には▲5五銀△同銀▲同角のときに、香取りにならないよう先逃げする意味がある。

 谷川は▲3五歩△同歩と味付けしてから▲5五銀。3筋を突き捨てることによって、あとで▲3五飛と走る手を作っている。△1二香や▲3五歩は、本格的な戦いの前のひと工夫。穴熊は陣形が偏りやすく手数もかかるため、より丁寧に駒を配置しなければいけない。

 ▲5五銀のあとは△同銀▲同角△9七角成▲1一角成△3一馬と進んだ。途中の△9七角成に▲同香は、△5五飛と角を取って後手十分。本譜は互いに馬を作って長期戦の様相を呈してきた。

■我が道をゆく

 手が進んで第2図は、佐藤の△5八とに谷川が▲2八竜と引き付けたところ。先手は竜と馬、後手は馬とと金の存在が主張。だから次に▲5八竜と取ってしまえば先手優勢になる。

 佐藤は第2図から△4八銀。いかにも重い銀打ちだが、局後に「この局面は、と金が大きく少し指せると思った。打ってしまえばこちらの指し手はわかりやすいので」と佐藤。次に△5七銀成から金をはがす手が受けにくい。

 △4八銀に対し、谷川は▲9四歩△同歩▲9五歩と端攻めを敢行。中央からの佐藤の攻め、9筋からの谷川の攻め。どちらも我が道をゆく。

■揺れ動く形勢

 かなり手が進み、▲2三角と打ったのが第3図。この少し前に谷川に疑問手があり、形勢は佐藤優勢になっている。2七竜の位置取りが悪く、攻めの目標になってしまっているのが痛い。

 佐藤は第3図から△5六歩。▲同角成なら△8九と▲同玉△7八角▲7九玉△7七金▲7八馬(▲7七同銀は△5六角成)△同金▲同玉△4五角の王手竜取りで勝負ありとなる。

 しかし△5六歩は、うまそうに見えてそうではなかった。▲4六歩と竜の利きを通されてみると、思いのほか先手陣に迫る手が難しいのだ。実際には△7七金▲同銀△7九角なら後手がリードを保っていたが、佐藤はその順を逃し、△7七と▲同銀△同金▲同竜と進めてしまった。この順は竜がくっついて先手玉が安全になり、逆に後手の攻めが切れ模様に。はっきりと谷川が優位に立った。

 戻って第3図では、△3四歩とこちらに打つ手があった。▲同角成なら△8九とからの手順で決まるし、本譜のように▲4六歩なら、そこで△5七歩とここで竜の利きを止めることができる。これなら明快に後手勝ち筋だったのだ。

 

■さらに二転三転

 第3図以降も佐藤は、先手陣に必死に食らいつこうとする。途中で完全に後手の攻めを切らす手(125手目▲1八竜に代えて▲8八竜。詳細は棋譜再生参照)があったが、それを逃したため混戦となり、第4図では佐藤が有利になっている。

 第4図の△9五馬を▲同香と取ると、△9六香▲8九玉△6七金で寄り筋だ。馬を取れない谷川は▲7一と。佐藤は△同金。当たり前に見えるこのやりとりで後手の優位が消えているのだから将棋は怖い。▲7一とには△同銀が正しく、その理由は第5図まで進めてようやくわかる。

■谷川、寄せを逃す

 ▲7一とを△同銀と取っていれば、第5図で7一に残っているのは金だった。ところが本譜は銀になっているので、ここで▲9三歩成からの寄り筋が生じていたのだ。

 佐藤は局後に「▲9三歩成と指されていたら負けだったと思います。△同香は▲7四銀で受けなし。△同桂▲8一金△同玉▲7三銀△7二金▲6一金で、やはり後手玉は寄りでした。168手目を△7一同銀と取っていれば、7一には金が残って▲9三歩成からの寄せが成立せず、勝ち筋だったと思います」と振り返った。

 本譜は再び逆転。ただし差はそれほどついておらず、ここまでの二転三転の流れを考えれば何が起こってもおかしくない状況だ。

■佐藤が勝ち上がる

 両者が時間を使いきってから、もう100手以上指されている。第6図の△9五歩は詰めろではないが、手駒が増えれば△9七銀からの詰み筋が生じる。

 秒に追われた谷川はスッと▲3五馬と引く。この手は▲9三銀からの詰めろになっており、攻めに働いていなかった馬を使う味の良い手に映った。しかし皮肉なことに、この▲3五馬が敗着となった。佐藤に△4四香と打たれ、この香が先手玉を狭くする攻防手になってしまっているのだ。

 第6図からは単に▲9三銀と打ちこむべきだった。以下△同桂▲同歩成△同玉▲7五桂に、△9七銀▲同玉△9六歩から上部を手厚くすれば後手がわずかに残しているようだが、秒読みのなかではどう転んでいたかわからない。

 投了図からは▲6八玉△6七銀打から追っていけば詰む。とにかく4四の香がよく利いている。

 終局は午後1時21分。敗れた谷川は佐藤の午後の対局を気遣い、わずかに言葉を交わしただけで駒を片付けはじめた。そこに手合課の職員が入室し、「対戦相手の了承を得ましたので、午後の開始時刻は14時30分になります」と伝える。いまさら改めて感想戦という雰囲気ではなかった。

(後藤元気)

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