現在位置:
  1. 朝日新聞デジタル
  2. エンタメ
  3. 将棋
  4. 朝日杯将棋オープン戦観戦記
  5. 記事
2012年2月8日14時52分
このエントリーをはてなブックマークに追加
mixiチェック

<  第5回朝日杯オープン戦観戦記第23局  > 本戦1回戦 ▲高橋道雄九段―△郷田真隆九段

郷田、華麗な収束

対局日:2012年1月12日

第1図拡大  

第2図拡大  

第3図拡大  

第4図拡大  

第5図拡大  

第6図拡大  

終了図拡大  

■矢倉か横歩取りか

 郷田は定刻の30分前に入室して下座についた。対局開始の数分前に入室する棋士も多い中、30分前の入室は異例といえる。高橋は早めに入室するタイプなので、先に下座で待つことで先輩に敬意を示したのかもしれない。

 高橋は定刻の20分前に入室した。いつもの高橋のペースである。荷物を置いて、しばらくしてから上座についた。高橋と郷田が盤を挟む姿は迫力がある。見ている方まで緊張感が伝わってきた。

 対戦成績は高橋8勝・郷田11勝。過去の戦型は相懸かりが1局あるのみで、それ以外は矢倉と横歩取りで占められている。高橋先手なら矢倉、郷田先手なら横歩取り。この予想が外れることはまずないだろう。

■将棋を楽しむ

 振り駒は歩が4枚で高橋が先手番を得た。そして予想通り▲7六歩△8四歩▲6八銀から矢倉戦へ。高橋の得意戦法を郷田が受けて立った格好だ。

 第1図は矢倉戦の中でも少し古い形。戦型選択について高橋は「少し古い将棋ですが、それが逆に新鮮で楽しく指していました」と語っている。高橋は最新形を指しこなす棋士だが、そればかりでは食傷してしまうのだろう。普段とは違う刺激を求めていたのかもしれない。

 それにしても「楽しく指していた」とは恐れ入る。他人の将棋であれば楽しく検討することもできるだろうが、これは実戦である。感想戦で棋士から「楽しい」という言葉が発せられることはまずない。高橋の懐の深さを感じさせる一言だった。

■種を植える

 第2図で前例は△6四同銀。しかし郷田は△6四同角として角交換を挑んだ。相矢倉戦は互いに金銀3枚で囲って玉は堅いが、駒が偏っているため角打ちの隙が多い。しかも△6四同角▲同角△同銀で先手が先に角を打ち込む権利を得る。もっとも後手も角を手にすれば反撃の楽しみは多い。虎穴に入らずんば虎児を得ず。この踏み込みの良さが郷田将棋の魅力である。

 角交換に応じた高橋はすぐに▲6三角と打ち込んだ。桂取りを受けて△8二飛に▲4一角成が見えているが、▲7四歩(第3図)が細かい利かし。以下△6二銀▲5二角成△4二金引▲6一馬△4三角で馬を消されてしまうが7四の歩が拠点として残る。高橋はこの歩がいずれ大輪の花を咲かせると期待している。

■金縛り

 第4図は▲8六歩と突いた局面。先手は6〜7筋に厚みを築きつつあるが、現状では歩を支える駒が少なく、安定していない。そこで郷田は先手が陣形を整える前に△8五歩と仕掛けた。この仕掛けについて郷田は自信を持っていたようで「△8五歩で悪くないと思っていた」と語っている。しかし▲9六歩に対する応手を誤った。

 郷田は△4九角と打ち込んだが、△8六歩▲同銀△8二飛と飛車を立て直すべきだった。本譜は△4九角に▲2八飛△9六歩▲同香と進んで、先手の飛車と桂が金縛りになってしまった。縛りを解消するなら△8二飛や△7二飛だが、いずれも▲6三歩成が厳しい。ちなみに郷田の飛車が次に動いたのは△4九角から40手後のこと。感想戦で「9筋がひどい形」と郷田が嘆いたのも無理はない。

■開花

 第5図で▲6三歩が軽妙な一着。△6三同金なら手堅いが5図の直前に△6四金と出たところで戻るのは「辛抱できなかった」と郷田。本譜は▲6三歩に△5三銀▲7三歩成と進んで先手優勢。第3図の▲7四歩が見事に開花した。

 しかし高橋も勝ちを焦った。と金を作ってから、すぐに▲3四歩と敵玉に迫ったが、後手の反撃の呼び水になってしまった。激しい攻防の結果、先手は後手玉を下段に落とすことに成功したが、その代償として角金交換の駒損を強いられた。先手優勢から少しずつ形勢が揺らぎ始めている。盛り返したという点では流れはむしろ後手にあるか。

■逆転

 第6図は△3九角の飛車金両取りが掛かっている。王手で金を取られてはいけないので金取りを受けるしかないが、その受け方も難しい。高橋は悩んだ末に▲6七歩と節約して受けたが失着。すかさず△6六角成▲同歩△7六角成と攻め込まれて逆転を許した。この位置に馬を作られては先手玉の上部脱出は難しい。自玉上部に咲いた花もむなしくなった。

 戻って▲6七歩では惜しまず▲7七金打とすべきで、持ち駒の金を投入しておけば先手玉は安泰だった。2八の飛車を取られて心細いようだが、▲5四歩から▲5三歩成が厳しい攻めで先手が残していた。

 それにしても本来▲7七金打はいかにも高橋好みの一手である。時間があれば必ず打っていただろうが、秒読みがそれを許さなかった。早指し戦の恐ろしさと面白さが現れた場面といえるだろう。

 ようやく確かな優位を手にした郷田は、華麗かつ最速の収束を披露する。1分将棋の中、27手詰めを読み切って先手玉を即詰みに打ち取った。勝った郷田はベスト8進出。2年連続のベスト4が見えてきた。

(岩田大介)

検索フォーム


朝日新聞購読のご案内
新聞購読のご案内 事業・サービス紹介

将棋の本

第70期将棋名人戦七番勝負全記録(朝日新聞出版)

返り咲きを狙った羽生善治十九世名人を森内俊之十八世名人が破ったシリーズを観戦記で振り返る。決着後の両者へのインタビューも収録。

変わりゆく現代将棋 上巻(羽生善治著/毎日コミュニケーションズ)

七冠制覇を成し遂げた羽生が「将棋世界」誌上で連載した矢倉の壮大な研究。当時20代の羽生が将棋の真理に挑んだ渾身作。

powered by amazon

名人400年記念切手特製シート

将棋界最高峰「名人」の誕生から400年。大山、升田、谷川など、名勝負を繰り広げてきた歴代名人の写真が記念切手になった。