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2012年2月14日13時18分
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<  第5回朝日杯オープン戦観戦記第24局  > 本戦2回戦 ▲佐藤康光九段―△郷田真隆九段

郷田が辛勝

対局日:2012年1月12日

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■熱戦の余韻

 午前の戦いは、どちらも力のこもった熱戦だった。郷田は高橋道雄九段を相矢倉で、佐藤はゴキゲン中飛車で谷川浩司九段を下してのベスト8進出。特に佐藤―谷川戦は200手を超える大激戦となり、終局も午後1時21分と遅かった。本局の開始時刻は、相手の郷田の了承もあり、午後2時から午後2時30分に変更された。

 対局開始前、佐藤は駒を並べる前に熱を逃がすように大きく息を吐き出した。郷田は最初から上着を脱ぎ、青のセーター姿になっていた。

 佐藤のキャッチフレーズは「1秒間に1億と3手読む男」。棋戦優勝10回のうち9回は、テレビなどの早指し棋戦。郷田もかつて「(詰みを読み切るのに)羽生なら1分。郷田は30秒」と言われたことがあり、やはり棋戦優勝6回のうち5回が早指し棋戦だ。朝日杯でもそろそろ結果を出したいところだろう。

■佐藤、リードを奪う

 先手となった佐藤は、午前の対局に続いて振り飛車を採用。対する郷田は早めに左銀を繰り出し、5筋から積極的に動いていく。

 第1図の▲5九飛は、8筋を放棄する思い切った指し方。次に▲5三銀や▲4四歩△同歩▲5四角を見せている。着手後に佐藤はグイッと栄養ドリンクを飲み干した。

 ここですぐに△8六歩は危なく、▲同歩△同飛▲6五桂で、次の▲5三桂成と▲7七角の両狙いが受からない。

 郷田は4分ほど考えて△5三歩としたが、「これでは軟弱すぎる。しかし代わる手も難しいですね」と局後に話した。後手が5筋から動いた順は、結果的に無理筋だったようだ。まずは佐藤がリードを奪った。

■王手は追う手

 以降、しばらくは先手ペースで進み、迎えた第2図。佐藤は▲6六歩と馬の利きを止めて寄せを目指したが、これは緩かった。すかさず銀を見捨てて△3三銀と引かれ、以下▲6五歩△2四香打で先手玉が危険に。先手が2手かけて6五の銀を取る間に、後手が銀を引き付けて2枚香を打ち立てる。この取引は銀1枚では追いつかないほど後手が得をした。

 第2図からは先に▲3四桂を利かし、いつでも2二の香を取れる形にしておくべきだった。ただ本譜で先手が苦しくなったわけではなく、ヨリが戻ったという程度。まだまだ戦いは続いていく。

 第3図からの▲4三銀△同玉▲3五桂も迫力十分だが、△5二玉▲4三金△6二玉▲5三角成△7二玉▲3三金△同馬▲6三銀△8三玉と、スルスルと左辺に逃げ込まれてはっきりしない。上の手順中、▲3三金に代えて▲5四飛。また▲6三銀では▲8五歩と突く感じで玉を包囲する順がまさった。

 佐藤はこのあたりを振り返り、「将棋は王手しちゃいけないものだと知っているのに、手が王手にいってしまう。最悪でした」と語った。プロ棋士、それもトップクラスの佐藤でも、秒に追われると「王手は追う手」や「玉は包むように寄せよ」といった基本的なセオリーを忘れてしまう。こういう言い方は失礼かもしれないが、アマチュアと同じようなミスをしてしまう佐藤に親近感を覚えた。

■難解すぎる終盤戦

 さらに手は進んで、第4図は△1六桂の王手に▲3九玉と逃げ、そこで左右挟撃を目指すべく△6六歩と打ったところ。厳密には郷田の△1六桂の王手は形を決めすぎだったが、実戦ではこう指してしまうところだろう。

 第4図からは▲5六飛△2七香成▲同金△同香成と進んだ。説明より先に手順を示したのは、このあたりの形勢の揺れ動きがジェットコースターのように激しく、一手ずつ変化を挟み込む方法で伝えるのが難しいから。ひとつずつ整理しながら進めて行こう。

 まず▲5六飛は最善ではなく、先に▲8二銀成と飛車を取っておくべきだった。以下△同玉に▲5六飛と浮き、△6七歩成▲1六飛△2七香成▲同金△同香成に後手玉を詰まして先手勝ち(▲8五香△8三銀▲7二飛以下)。

 先に▲8二銀成と飛車を取らなければいけない理由は、本譜の▲5六飛のときに一回△3二飛と逃げられると先手が負けだからだ。以下▲4三桂成に、△6七歩成が△2八金からの詰めろで後手勝ち。佐藤は早めに飛車を取るべきだった。

 また、△2七香成▲同金には△3八歩と打つ手がまさった。以下▲同玉なら△7一金と補充し、▲同馬△2七香成で先手玉が詰む。したがって△3八歩には▲4九玉の一手となり、△6七歩成(6筋に歩が利くようになった)▲8二銀成△同玉▲8五香△8三銀(△8三歩は▲7二飛△同金▲同銀成△同玉▲5四馬で、合駒が悪く詰み。△8三金は▲7二飛△同金▲同銀成△同玉▲7一金△8二玉▲8一金△同玉▲8三香不成△8二歩▲5四馬から詰み)▲1六飛△8四歩▲2三歩となれば、そこからまた長い戦いが続いただろう。

■佐藤、詰みを逃す

 上記の難解なやりとりだけでもおなかいっぱいだが、本譜は変化よりも奇なり。まだ物語は終わらない。

 第4図から▲5六飛△2七香成▲同金△同香成▲8二銀成△同玉▲8五香△8四歩▲同香△8三銀と進んで第5図。佐藤も郷田も細部までは読み切れないまでも、後手玉に詰みがあると感じながら指していた。そして実際に後手玉は詰んでいた。佐藤が不幸だったのは、有力な詰み筋が二つ見えてしまい、どちらでも詰むと思ってしまったことだった。

 第5図からの▲8三同香成が敗着。△同玉と取られて後手玉が詰まない。佐藤は王手をかけ続けたが、嫌な予感から汗が噴き出てきたのか、しきりに額と首のまわりをハンカチでぬぐっている。詰まされたと思っていた郷田は、首をかしげながら慎重に玉を逃げる。手が進むほどに自玉が詰みにくい形になっていく。

 佐藤は138手目△7一玉を見て投了を告げた。3三の馬がよく利いており、後手玉は不詰め。駒をたくさん渡したため先手玉は受けなしになっている。

 第5図からは▲7二飛△同金▲同銀成△同玉▲5四馬△6三銀▲同馬△同玉▲6四金(参考図)と進め、以下△6二玉▲5三飛成△7一玉▲6二銀からの追い詰めだった。また、参考図の▲6四金では▲6四銀から入っても詰んでいる。

 終局直後は、どちらも負けたような表情だった。少しずつ言葉をかわすうちに状況が整理されていき、郷田は勝者の、佐藤は敗者の顔になっていく。

 郷田は2年連続のベスト4入りを果たし、2月11日に有楽町マリオンで行われる公開対局に駒を進めた。

(後藤元気)

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