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2012年2月23日18時38分
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<  第5回朝日杯オープン戦観戦記第27局  > 本戦2回戦 ▲行方尚史八段−△菅井竜也五段

19歳菅井、4強へ

対局日:2012年1月20日

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■菅井流

 ここ数年、新しい振り飛車党の台頭が目覚ましい。その中の一人が菅井だ。1回戦では久保利明二冠を見事に破った。2回戦では第1回優勝者の行方と対戦。両者の対戦は昨夏のNHK杯だけで、その時は菅井が勝っている。

 菅井得意のゴキゲン中飛車となり、第1図の△4四歩が「菅井流」の一着だ。1年くらい前から温めており、公式戦での初採用は昨年の11月。その日の東京の控室ではこの手が大きな話題となった。▲4六銀に△4五歩から駒を引っ張り込む狙い。1歩損でも乱戦になれば戦えるという判断で、左銀の出動を後回しにするのが斬新だ。

 本局の10日ほど前に、後手を持った久保利明二冠が羽生善治二冠と佐藤康光九段相手に菅井流を採用したことで注目された。行方は「後手の左の金銀が逆形なので居飛車悪くはならないのではと羽生−久保戦を見て思っていた」と言う。18手目△3二金で△3二銀も有力で、新鋭が発見したアイデアに新しい世界が広がっている。

■定跡最前線

 第2図で△5六歩と仕掛けてから新しい将棋となった。前例の羽生―久保戦は陣形整備が先手の利となったので、早めに動くべしという判断だ。菅井は△5六歩以下▲同銀△8八角成▲同玉△2七角▲2八飛△5四角成と先手陣を乱しながら△5五歩の銀取りを見せる。先手の歩得と後手の馬のどちらが大きいかという将棋で形勢判断が分かれそうなところだ。

 菅井は「(△4四歩からの進展は)居飛車持ちの棋士が多いが、自分は馬ができて軽いので後手も戦えると思う」と自信を見せる。行方は「本譜は2歩得でも、さえなかった」と振り返った。△5四角成の後に、▲4七銀〜▲3七歩と駒が下がったことが気に入らない。さらに「(第2図の)▲6八銀では▲4六歩が先だったかもしれない」と続けた。▲4六歩を突いておけば、本譜の△5四角成のときに右銀の進退が楽だ。

 本局は定跡最前線。行方の感想を聞き、実戦で試行しながら、細かいところが修正されて定跡手順は洗練されていくのだと感じた。

■ミスが好手に

 第3図はどちらがさばけるかが焦点となっている。ここで△5六歩▲同歩△同馬としたのは菅井のミス。▲5七歩に△4七馬では1手パスに近い。しかし、すでに1分将棋の行方にとっては想定外の進行であり、読みが狂った。1三の銀を相手にしない大局観で▲3四銀から桂得を果たしたものの、後手の駒がさばけて結果的に菅井のミスが好手になっている。後日の行方の検討では、△4七馬に▲2四歩△2五桂▲2三歩成△3五飛▲1三とと攻め合い、△2七歩▲同飛△5五銀▲同角△同飛(△同金は▲4四銀)▲5六銀△3八馬▲5五銀△2七馬▲6四銀で先手が良かったとのことだった。本譜は1三の銀が2八の飛のさばきを押さえており、先手から攻めにくい。行方苦戦の時間が始まった。

■チャンスを逃す

 行方は堅さを生かして何とか食いつこうともがくが、第4図では攻めが細い。菅井としては受けるなら△6一金打、攻めるなら△4六角(次に△7九金の詰めろと、6四の桂を取る含みがある)が分かりやすかった。本譜の△6一銀は駒の連結力が弱い。行方は▲5二桂成△6三歩▲7一角成(△6一金打なら角を切れなかった)から必死に攻めを続ける。攻めが途切れてしまっては終わりだ。

 菅井は先手をとって受け切ろうとしていたが、行方の粘りに手が続いた。小ミスがいくつか出て、第5図では先手が逆転のチャンスを迎えていた。後手はたくさん駒を持っているが、よく見ると角と桂香の交換なので駒得というほどでもない。それならば、堅陣の先手が息を吹き返していてもなんら不思議ではない。

 第5図の△6二玉は▲5九香の田楽刺しを避けたものだが「負けたら敗着」と菅井が振り返った危険な一着で、先に△6六竜と歩を早く補充しておくべきだった。「流れはやってきたけど、ひっくり返っていると思っていなかった」と言う行方は▲5九香△6六竜に▲5八飛としたが、△5五歩から△5四金と受けられて手段に窮した。

 ▲5八飛では▲4八飛が好手だった。(1)△4六歩ならそこで▲5八飛とすれば受け止められないし、(2)△3三角の攻防手も▲9八玉と角筋を避ければ大変だった。しかし、▲5九香は▲5八飛を想定して打たれたものであり、途中下車の▲4八飛は気付きにくい。「粘りに行くつもりでやっていたが、▲4八飛があったのか」と行方は天を仰いだ。辛抱を重ねてめぐってきたチャンスは、自然な指し手によってすり抜けていった。

■菅井がベスト4へ

 実戦の進行は第6図の△4八飛が決め手。自陣に利かして△2八飛よりも勝る。攻防の飛車打ちから先手玉の寄り形が見えるようになり、形勢がはっきりした。終了図以下は▲7七銀なら△7六桂▲7八玉△6八桂成から、▲7八玉も△7七銀▲同金△5八飛成▲6八歩△8八金▲同玉△6八竜という手順で詰んでいる。

 行方は新鋭に連敗を喫した。後日「結果は残念ですが、NHK杯のときよりは熱戦になったし、いい刺激を受けた。また鍛え直します」というメッセージが届いた。二人の再戦が楽しみだ。

 菅井は局後のインタビューで「攻め合って勝ちだと思ったが、受けに回っておかしくした。予選の対湯上真司アマ戦でも受け切ろうとして失敗した。反省点で直さないといけない」と振り返った。羽生善治二冠との対戦について「前回の対戦はネット対戦だった。今回は盤を挟んでの対局で楽しみ。準備して臨みたい」と話した。一次予選から怒濤(どとう)の8連勝を果たした新鋭がどう戦うか注目したい。

(君島俊介)

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