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2012年8月13日19時47分
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<  第6回朝日杯オープン戦第1局  > 1次予選1回戦 ▲今泉健司アマ−△牧野光則四段

今泉アマ、会心の勝利

対局日:2012年7月7日

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■今泉アマ、初見参

「もちろん前日に大阪入りしていました」と対局前笑顔で記者に語ったのは、広島県在住の今泉アマ。元奨励会三段で年齢制限により退会したが、その後実施された奨励会三段リーグ編入試験で合格した唯一の人物である。現在は再びアマチュアとしてさまざまなアマ棋戦で活躍しており、ご存じの方も多いだろう。本棋戦には初見参。

 一方、牧野四段はデビュー3年目の若武者。昨年度は王位リーグに入り、リーグ最終戦まで挑戦者レースに加わるなど、徐々にその実力の一端を見せ始めている。

 公式戦では初手合いとなる両者だが、三段リーグでは牧野1勝、今泉アマ2勝の成績が残っていた。

■初手は▲5六歩

 先手番となったのは振り飛車党である今泉アマ。対局開始から10秒ほどで▲5六歩と突き出した。対プロ戦は経験豊富で、本局も落ち着いた所作に見える。対して牧野が△3四歩と角道を開けると、すらすらと振り飛車対居飛車の対抗形へと局面は進んだ。

 その後停滞することなく指し進められてきたが、11手目に▲7七角と角を上がった手で今泉アマは初めて時間を使った。「積極的に指す」という方針が見て取れる一手で、▲6六歩と角道を止めておけば穏やかな戦いへ進んでいたであろう。しかし牧野が△7七同角成と今泉アマの注文に応じたため、乱戦含みの序盤となった。こうした戦いは果たしてどちらの土俵だろうか。

 第1図は玉を4二のまま△3五歩と3筋の位取りに出た局面。あまり見慣れない一手だが、牧野は手持ちの角を生かす方向でポイントを挙げにいった。この手の意味としては、△6四角〜△3六歩を見せることによって、先手にすんなり美濃囲いを組ませないことにあり、先手にプレッシャーを掛けたものだ。ところが・・・。

 今泉アマは自陣に少し手を掛けたあと、力強い手付きで▲2八玉と玉を寄り、以下△6四角にも▲3八銀(第2図)と上がり美濃囲いに組み上げた。これは牧野の掛けるプレッシャー対し、「どうぞ攻めてきて下さい」と返したもので、今泉アマの強気な姿勢が見て取れるシーンだ。

■アマ、ペースを握る

 第2図から牧野は△3六歩とすぐに仕掛けた。しかしこの手は一気に先手陣を潰してしまおうという攻めではなく、先手の美濃囲いを崩して陣形を弱体化させ、持久戦にする狙いだったようだ。

 今泉アマは飛車を3筋に回り、3筋から逆襲に出た。第3図は牧野が△3三歩と打って銀を支えた局面。歩越し銀が2枚横並びになる珍しい形で、あまり好形とは言えないが、△3五歩は▲4四角△同歩▲3五銀の切り込みが気になったのかもしれない。以下△同銀▲同飛と進むと後手は歩切れで受けにくい形となる。ただ△3五歩と上から打てないようでは、先手がややペースを握ったようだ。

■プロ十分の形勢に

 △3三歩と打たせたことに満足した今泉アマは、▲3九飛△7四歩▲8九飛と8筋に飛車を展開させ後手の動きを牽制(けんせい)した。以下両者共に攻めは時期尚早と見たか、ここからは一転して自陣の強化を図りあう駒組み合戦が続く。

 戦端を切ったのは牧野。6筋から動いた手に対し今泉アマも強く反発。△6四同角(第4図)まで激しい駒の取り合いが行われた。果たしてどちらが得をしたのか。

 第4図は銀桂と角の交換で先手が駒得。陣形は先手が堅く、手番も先手で後手苦戦を思わせるが、「まずまずかと思っていた」と牧野。続く▲6一飛に△6八飛が良い感触の一手であり、次に△4六角▲6八飛成(▲4六同歩は△6一飛成)△同角成と銀を素抜く狙いがある。今泉アマはやや焦り気味の手付きで▲6五歩と角を追い、素抜きの筋を回避したが、ここで形勢は牧野へと傾き始めた。

■痛恨の一手

 局面は既に終盤戦を迎えている。83手目▲3六桂(第5図)と打たれた局面で、牧野は△7七角成。馬を作りながら桂を取る自然な一着だが、局後牧野はこの一手を大いに悔やんだ。ここでは△7七とがよく、△6七と〜△5八との攻めが間に合う局面だった。何より痛かったのは8六の角が動いたために、自陣への受けに利かなくなったこと。自然な角成が疑問だったのは牧野にとっては不運としか言いようがないが、形勢は一気に今泉アマ優勢となった。

■今泉アマの代名詞

 第6図は▲3八金打と自陣へ金を投入した局面。今泉アマは金使いに定評があり、手厚い棋風で知られているが、この金打ちなどはまさにその神髄と言える一着だ。局後、今泉アマが「この金を打って、相当負けにくい形になったと思いました」と手応えを述べ、牧野が「金を打たれてめまいがしました」と語ったように、本局の勝負はこの金打ちでついたと言える。

■アマの勝利

 第6図から牧野は懸命に粘るものの、もはや勝負所はなくなっている。今泉アマは着実に歩みを進め、勝利の手綱を引き寄せた。やがて131手目▲3六桂(終了図)を見て牧野が投了。以下は△3五玉に▲4六金△同歩▲同銀までの詰みがある。

 本局は今泉アマが持ち味を十二分に発揮した会心譜と言っていいだろう。局後のインタビューで、「自分の力は出せたと思います」と語ったことからも、本局への充実感が感じられた。一方敗れた牧野は、「途中はまずまずかと思っていたのですが、△7七角成(84手目)がひどかったです」と語り、悔しげな表情を見せた。

 本局に勝利し、2回戦で桐山清澄九段との対戦が決まった今泉アマは、次戦に向けて「奨励会時代からずっと見てきた偉大な先生。ものすごく楽しみですし、なかなかない機会なので全力を出し切りたい」と目を輝かせながらその意気込みを語ってくれた。2回戦でも今泉アマの持ち味である金使いが見られるか、大いに注目したい。

(雲井宏)

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