現在位置:
  1. 朝日新聞デジタル
  2. エンタメ
  3. 将棋
  4. 朝日杯将棋オープン戦観戦記
  5. 記事
2012年8月22日23時20分
このエントリーをはてなブックマークに追加
mixiチェック

<  第6回朝日杯オープン戦第2局  > 1次予選1回戦 ▲伊ケ崎博アマ−△佐々木勇気四段

伊ケ崎アマ、新鋭破る

対局日:2012年7月7日

第1図拡大  

第2図拡大  

第3図拡大  

第4図拡大  

第5図拡大  

第6図拡大  

終了図拡大  

■昔の流行形

 第6回を迎えた朝日杯将棋オープン戦は7月7日、プロアマ戦を皮切りに開幕した。

 今回紹介する佐々木勇気四段−伊ケ崎博アマの一戦は、関西将棋会館「御下段の間」で行われた。

 伊ケ崎アマは午前9時40分には下座に着き、正座のまま気を静めていた。ほどなくして佐々木も入室。駒が並べ始められた。振り駒の結果、伊ケ崎アマの先手番となり、定刻の午前10時に対局が開始された。

 佐々木は1994年8月生まれで埼玉県三郷市出身、石田和雄九段門下。朝日杯に出場するのは昨年に続き2度目。前回は林隆弘アマの矢倉を、左美濃の陣形から攻め潰した。

 対する伊ケ崎アマは1970年4月生まれで長崎県在住。今年3月に行われた第35回朝日アマ将棋名人戦全国大会でベスト8に入り、朝日杯への出場資格を獲得した。

 本局はスラスラと相矢倉に進んだ。流行の▲3七銀戦法となったが、▲5八飛(第1図)に佐々木の手が止まった。現在は▲3八飛と寄る形が主流となっており、▲5八飛はその前に流行した指し方だ。

 若い佐々木にとって▲5八飛は「初めて指された手」という。手元の時計で20分以上考え、△9五歩と突き越した。

■いまのフィルター

 第2図は佐々木が△4二銀と引いたところ。ここまでは過去の実戦例をなぞっていたが、△4二銀で未知の将棋となった。佐々木は局後「△4二銀は普通だと思ったんですが」と語る。飛車先を通したのはもちろん、金銀4枚で玉を固める現代将棋のセオリーに沿った一手だ。

 過去の実戦では、類似形を含めて△3一金が多く指されていたことを記者が話すと「それは浮かばなかったなぁ」と興味深そうに頬を緩めた。△3一金は△3二飛を狙ったものだが、飛車と玉が接近する嫌いがある。

 佐々木の現代感覚と従来の定跡が交差したと言える場面。いまは下火となっている戦形でも、現在の若手棋士の目を通せばまだ新しい手が眠っているのかもしれない。そんな楽しみを感じさせる光景だった。

■先手、攻撃開始

 伊ケ崎アマは2度目のプロアマ戦。前回は2005年に本棋戦の前身である朝日オープン将棋選手権に出場し、安用寺孝功四段(現六段)に惜敗している。

 今回はまったく緊張することが無かったと、伊ケ崎アマは不思議そうに振り返る。対戦カードが決まると佐々木の棋譜を並べたが「勝ち目はまったくないことが分かりました」と真剣な表情で話す。「今日は佐々木さんに教わろうという気持ちで盤に向かった。それが良かったのかもしれません」と続けた。

 第3図は後手が△9三桂と跳ねたところ。この手に代えて△1九角成は▲4六角△2九馬▲6八飛△3五歩▲同銀△4七馬▲5七金で「自信が無い」と佐々木。△3五歩は△4七馬と引くためとはいえ、呼び込み過ぎとなる可能性が高い。

 佐々木はこの辺りの形勢を「少し指せるのではないか」と見ていた。が、すぐあとに誤算に気づくことになる。

 伊ケ崎アマは▲1五歩から総攻撃を開始。この攻めが強烈だったのだ。

■強烈な端攻め

 第4図は後手が△3七角成と馬を作ったところ。部屋を出ていた伊ケ崎アマは席に戻ると▲1五香。以下△同香に▲3三歩と打たれ、佐々木は劣勢に陥ったことを自認する。「端攻めが想像以上に厳しい。急に大差になってしまった」

 以下、△3三同桂は▲1三角成△2一玉▲1二銀で詰むので△3三同銀だが、▲1三銀から先手の攻めは勢いを増した。

 ずっと難しいと見ていた伊ケ崎アマも「いつの間にか自信のある局面になっていた」と局後に明かした。しかし、対局中の表情は冷静そのもの。後手が△3三同銀と成桂を取った第5図で好手が出る。

■公開対局

 今回のアマプロ戦は公開対局で行われた。普段から公式戦で使われている対局室とあってか、ファンは恐る恐る観戦用の座布団に腰を下ろしていた。

 気が付くと、観戦者の数は20人を超えていた。佐々木の苦しそうな表情に、ただならぬ気配を感じたのだろうか。

 ここで▲3五歩と打ったのが「決め手級です」と佐々木が白旗を上げた好手だった。

以下△同歩には▲同角(飛)と大駒を飛び出すことができる。1分将棋に入っていた佐々木は慌てた手つきで△2二銀と引いたが、▲3四歩と取り込んで伊ケ崎アマがリードを広げた。

■決め手の▲4三歩

 第6図は後手が△3一香と自陣を補強したところ。先手も駒を渡しすぎると、△9七桂成からの頓死筋が少なからずある。

 ここで▲4三歩と打ったのが決め手だった。伊ケ崎アマも「▲4三歩で勝ちを意識しました」と振り返る。△4三同玉は▲2二角成。放置していても▲4二金がある。

 秒読みに急かされた佐々木は△5三銀と打つと、すぐに脇息(きょうそく)にひじをついた。勝負が決しているのは明らかだった。伊ケ崎アマは迷うことなく、▲5三同角成から決めに出た。

■伊ケ崎アマ、快勝

 終局は午前11時45分。▲1三歩(終了図)を見た佐々木は「負けました」と小さな声で投了を告げた。消費時間はともに40分だった。終了図以下、△1三同銀には▲3一金△同玉▲5三角成△同桂▲4一飛からの詰みがある。

 佐々木はがっくりと肩を落とし、悔しさをにじませた。勝った伊ケ崎アマは、信じられないといった表情で盤を見つめ続けていた。

 感想戦では第2図の周辺が主に検討された。佐々木は「悪い手を指した覚えはないが、いつの間にか悪くなっていた。いまの段階では何が敗因だったのかは分かりません」と納得のいかない表情だった。感想戦後の控室では、山崎隆之七段と練習将棋を指す佐々木の姿があった。この敗戦をバネに、さらなる成長を期待したい。

 伊ケ崎アマは「自分が持っている以上の力が出せたと思います。勝てたのは幸運というか、それにつきます」と本局を振り返った。朝から表情を崩すことなく、謙虚に語る落ち着いた姿が印象的だった。

(池田将之)

検索フォーム


朝日新聞購読のご案内
新聞購読のご案内 事業・サービス紹介

将棋の本

第70期将棋名人戦七番勝負全記録(朝日新聞出版)

返り咲きを狙った羽生善治十九世名人を森内俊之十八世名人が破ったシリーズを観戦記で振り返る。決着後の両者へのインタビューも収録。

変わりゆく現代将棋 上巻(羽生善治著/毎日コミュニケーションズ)

七冠制覇を成し遂げた羽生が「将棋世界」誌上で連載した矢倉の壮大な研究。当時20代の羽生が将棋の真理に挑んだ渾身作。

powered by amazon

名人400年記念切手特製シート

将棋界最高峰「名人」の誕生から400年。大山、升田、谷川など、名勝負を繰り広げてきた歴代名人の写真が記念切手になった。