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2012年9月6日19時24分
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<  第6回朝日杯オープン戦第3局  > 1次予選1回戦 ▲阿部健次郎五段−△秋山太郎アマ

秋山アマが押し切る

対局日:2012年7月7日

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■奨励会の思い出

七夕決戦、プロアマ一斉対局で顔を合わせたのは阿部健治郎五段と秋山太郎アマ。秋山アマは第35回朝日アマチュア将棋名人戦全国大会で優勝し、堂々の1次予選への登場だ。

 対局前日に誕生日を迎えた。1967年生まれで45歳だ。1993年まで奨励会に在籍しており、三段で退会している。

 一方の阿部は1989年生まれの23歳。秋山アマが奨励会在籍時を知るよしもない。阿部は山形県酒田市の出身、奨励会の例会には地元から電車で通っていた。酒田市から東京へは、新庄へ出て山形新幹線へ乗るか、新潟へ出て上越新幹線に乗るしかない。いずれにしても冬は風雪がひどく交通機関がまひしてしまうことがまれではない。当時のことを阿部は「動かなくなった電車の中に閉じ込められることもありましたよ。ホント、対局している方が楽でしたよ」と懐かしむように笑顔で話す。

■序盤巧者「アベケン」

 対局が始まり早々に戦型は後手の一手損角換わりに。秋山アマによれば、後手番ならば「これ」と決めたきていたそうだ。

 5筋を突き▲4六銀〜▲3五歩と動いたのが序盤巧者の阿部らしい動き。△同歩▲同銀でポイントを稼ぐ。

 対する秋山アマは△7五歩▲同歩に△7三桂(第1図)。本来なら△7五同飛と走りたいところだが、▲2四歩△同歩▲同銀△同銀▲同飛と銀交換され、▲6六角の筋が残ってしまう。しかし△7三桂と跳ねるようでは「作戦的によろしくなかった」と秋山アマが話すように、先手がうまくやった格好だ。

 △7三桂に▲6六角△4二金右▲5八金上△5四銀▲3四歩と進む。秋山アマは△5四銀で、阿部は▲3四歩で1分将棋に突入する。この秒読みがクセモノで、こののち勝負に大きな影を落とすことになる。

■待っていた桂跳ね

 △1四歩▲1六歩△9二香に▲3七桂(第2図)だが、阿部は「▲1六歩は甘かった」と話す。単に▲3七桂なら本譜と同様に進めたときに9一で香を拾える。▲1六歩△9二香の交換を入れたため、香にあらかじめ逃げられてしまっている。

 ▲3七桂が秋山アマが待っていた瞬間。△3六歩の桂頭攻めが可能になった今、動くしかないのだ。▲3七桂について阿部は「桂を跳ねないと局面が動かない。まさか△6五銀から△8五桂をやってくるとは思わなかった」と話している。

 ▲3七桂以下△6五銀▲5五角△8五桂▲8六銀△7六銀▲6四角△5四角▲5五歩△8七銀成と進む。△8七銀成の局面を阿部は「まだこちらが良いはずだが、差が詰まってきている」と冷静に分析する。たしかに後手を壁銀にして、攻めの糸口を与えていなかった阿部としては不本意な進行だっただろう。

■狂った歯車

 第3図の▲8八歩が阿部の失着。ここでは▲7四歩なら明快だった。以下△7四同飛▲7五銀△7一飛▲7二歩△6一飛▲8二角成(変化図)で後手の飛車に仕事をさせない順だ。大盤解説会場でこの順に触れ、「本譜と3手は違う」と話していた阿部だが、感想戦に戻った阿部は「5手は違います」とキリリとした表情で修正した。

 本譜は△3六歩〜△3七歩成と後手のと金が迫っている。そこで▲7四歩は証文の出し遅れだと言っているのだ。

 「秒読みになってから(指し手の)乱れ方がひどかった」と阿部は語る。ここで勝負の流れは秋山アマに傾いた。

 本来なら「飛車は敵陣に馬は自陣に」がセオリーだが本局の秋山アマは逆。だが△4九馬(第4図)で優勢を意識したという。

 秋山の飛車は自陣に封じ込められたが、受けに利いており、いつの間にやら鉄壁のバリケードとして立派に機能している。

 ▲6八金に△7五金と打って上部を抑えつつ飛車を責める。▲6二飛成に△8五金と銀をノータイムで取る秋山アマの駒音は高く、自信に満ちあふれていた。

■秋山アマ、寄せきる

 △7九銀(第5図)と打たれた局面が最後の勝負所。本譜は▲8七玉と逃げ△8八金▲9七玉に△9五歩で寄せられてしまったが、△7九銀に▲9七玉と逃げていれば先手玉は妙に寄せにくい。阿部の嗅覚(きゅうかく)は最後の最後まで戻らなかった。

 してみると△7九銀ではどう指すのが正着だったか。感想戦で調べると△7八銀と打つのが正解で、以下▲9二馬に△3六とで銀を取りにいくのが好手。▲同竜なら△7七歩とスペースを埋める。▲同桂なら△7九馬▲9八玉△9七金までの即詰みだ。

 秋山アマも△7八銀は考えたようだが、「詰めろじゃないので指しにくかった」と漏らしている。

 最後の△9八金(終了図)は華麗な収束。大盤解説会場の阿久津主税七段が何度もたたえるものだった。勢いのある若手を下した秋山アマ。1日遅れの見事なバースデ―勝利。

 次は早指しに定評のある田村康介六段が相手。2回戦も目が離せない勝負になりそうだ。

(滝澤修司)

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