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2012年9月20日14時18分
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<  第6回朝日杯オープン戦第5局  > 1次予選1回戦 ▲井上輝彦アマ―△斎藤慎太郎四段

井上アマ、勝ちきる

対局日:2012年7月7日

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■対照的な両者

当日真っ先に対局室に姿を見せたのが、午後から対局を行う井上アマ。26歳の公務員で、第35回朝日アマチュア将棋名人戦全国大会で4位となり本棋戦出場資格を得た。井上アマは本局が初の公式戦。朝から対局室の辺りを落ち着かない様子で行ったり来たりしており、緊張の度合いが見て取れた。

 一方、斎藤も初のアマプロ戦。今年4月に四段昇段を決めたばかりで、奨励会三段時代にアマとの対戦があるものの、プロになってから公式戦でアマと戦うのは初めてだ。しかしこちらは対局10分前に姿を見せ上座に着くと、緊張した様子もなく落ち着いた所作で駒箱に手を掛けた。この辺りはプロの貫禄といったところか。

 振り駒で先手番になったのは井上アマ。午後2時、一礼して対局が開始されると、震える指先で初手▲7六歩が指された。

■波紋を呼んだ一手

 井上アマが振り飛車党、斎藤が居飛車党で、予想通りの対抗形に進んだ本局。ただ斎藤の作戦が一風変わっており、井上アマが▲6六歩と角道を止めるまで△3四歩と角道を開ける手を保留した。どうやら角交換振り飛車を警戒していた様子。

 19手目に▲1八香と上がり、先手の作戦が穴熊と決まった。振り飛車穴熊は井上アマの得意戦法であり、まずは堅く囲って戦いたいという意思が感じられる。以下持久戦模様に進むと思われたが、斎藤の△7二飛(第1図)が波紋を呼ぶ一手で、思わぬ大乱戦の幕開けとなった。

■アマ優勢に

 「△7二飛は▲7八飛と受けてもらえるなら得かと思って。そこで△3三角から持久戦にするつもりでしたが甘かったです」と局後の斎藤。第1図から▲8六歩と8筋からの突破を目指したのが好判断で、このタイミングでの攻め合いを斎藤は軽視していたようだ。以下先手が8筋、後手は7筋をと互いにわが道を行く展開になったが、「本譜は自信がありました」と井上アマが語ったように、これなら先手不満のない進行か。井上アマはこの辺りで、対局開始直後まで続いた緊張も解けた様子だった。

 数手進んで▲8三歩成(第2図)に対し、△7五飛と逃げた手が疑問で、△7七歩成と攻め合う順が勝った。以下▲7二と△8八とと飛車の取り合いになるが、難しい戦いだった。本譜は△7五飛に対し▲6八金と受けに回った手が落ち着いた好手で、井上アマがはっきり優勢となった。

■決め手を逃す

 井上アマ優勢のまま局面は進み、第3図は△4九桂成と斎藤が攻め掛かったところ。以下▲6八角に△6六角▲同金△3九成桂▲7五歩△3八成桂▲同玉が実戦の進行で、守りの金銀を2枚はがした後手も戦える形になってきた。

 手順中、▲6八角では▲7四桂と飛車を取ってしまう手があり、以下△5九成桂▲8九飛打と自陣飛車の受けに出れば後手の攻めを切らすことが出来た。「▲8九飛打は見えていませんでした。ただいかにも感触の良さそうな一手で、見えていれば当然その順を選んでいたと思います」と井上アマ。本局はここから二転三転の戦いとなる。

■アマの粘り

 井上アマは優勢な将棋が難しくなってきたことで、焦りの色が見え始めていたが、70手目に△6六歩(第4図)と突き出され思わず天を仰ぐ。見落としていたのである。以下▲6六同金△同飛▲同銀は△5八金で寄り形。万事休したかに思えたが、△6六同飛に▲同銀ではなく、▲7七角ととっさに間接王手飛車に出たのが切り返しの妙手。剣が峰で踏みとどまった。

 その後井上アマは最善手を逃すシーンもあったが、決め手を与えず粘り強く指し進める。斎藤も手を焼いている様子で、時折「うーん」とうなり声を発する。しかし最後に勝つのはプロではないか。そう周囲に思わせるだけの信用を、棋士デビュー間もない斎藤は得ている。ところが・・・。

■ プロの逸機

 局面は後手優勢で終盤を迎えている。井上アマは97手目▲5八金(第5図)と打って自玉の詰めろを受けたが、以下△同銀成▲同銀△6六角なら詰めろ飛車取りが掛かり後手勝勢である。しかし斎藤は第5図から△1五金。以下間髪入れずに▲4六銀と打たれ、一瞬にして体が入れ替わってしまった。局後△5八同銀成以下の順を指摘された斎藤は、「ほんとですね」とつぶやき、がっくりとうなだれた。

 再び棋勢をつかんだ井上アマは、中盤とは打って変わり強気な順で後手陣に迫る。そして120手目△6四金(第6図)に対して、▲4五金△同歩▲6二銀△5二玉▲5一成桂と迫った順が冷静な寄せで決め手順となった。▲4五金では▲4四金△同玉▲6四竜と先手で迫りたくなるところだが、それは△5四金とはじかれて難しい。また▲5一成桂を入れずに▲6四竜は△4一玉と成桂を取られ、桂を渡すと先手玉に頓死筋が生じる。この辺りは本局を観賞した棋士達が、「井上さんは終盤がとても強いね」と感心した手順だった。

■井上アマ、初陣を飾る

 その後も着実な手を積み重ね、ついに井上アマは後手玉を受けなしに追い込んだ。以下斎藤の王手ラッシュにも正確に応じ、143手目▲3九玉(終了図)と玉を逃げたところで斎藤が投了。井上アマが見事勝ちきり、公式戦での初陣を飾った。

 井上アマは終局後のインタビューで、「序盤は良くなったと思いましたが、中終盤で悪手を連発して敗勢になりました。ただそれで逆に開き直れたのが結果につながったと思います」と本局の感想を述べた。2回戦では畠山成幸七段と対戦するが、強敵に勝利した余勢を駆って、快進撃を続けることが出来るか。引き続き白熱した戦いを期待したい。

(雲井宏)

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