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2012年9月24日18時22分
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<  第6回朝日杯オープン戦第6局  > 1次予選1回戦 ▲門倉啓太四段―△古屋皓介アマ

古屋アマ、快勝

対局日:2011年8月8日

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■最後の1局

 プロ5勝、アマ4勝。7月7日に行われたプロアマ戦9局の結果は、アマチュア選手の強さを改めて示すものとなった。プロ側に有望な若手が多くいた中でこの数字は、快挙というほかない。1回戦のプロアマ戦は残り1局。プロが勝って意地を見せるか、それともアマチュアがタイに持ち込むか。結末を委ねられたのが、門倉啓太四段と古屋皓介アマの2人だった。

■初手に込められた思い

 本局は上記の一斉対局の約1か月後、8月8日に行われた。延期の理由は門倉の体調不良によるもので、多くの関係者が門倉の身を案じていた。盤の前に座り、将棋を指す。棋士として当たり前のことだが、門倉はその喜びを誰よりも感じていたことだろう。

 振り駒で先手番を得た門倉は、ためらうことなく飛車を動かした(第1図)。「将棋は最初に歩を突くもの」という観念があるだけに驚かされるが、これが門倉の得意戦法。表の顔は石田流、裏の顔は角交換振り飛車で、2手目△3二飛の親戚のような指し方だ。現状では広く受け入れられているとは言えないが、門倉はこの手の可能性を信じて指し続けている。既存の手順をただなぞるのではなく、自分で将棋を創造したい。この▲7八飛には、そんな思いが感じられる。

■シミュレーションが生きる

 古屋アマは学生時代に立命館大学将棋部で活躍し、プロ棋戦への出場経験も複数回ある。現在は山梨県で将棋の講師を務めており、まさに将棋一筋の生活だ。今回は朝日アマ名人戦全国大会で準優勝したことで、プロアマ戦への出場資格を得ている。

 そんなアマ強豪も、初手▲7八飛にはさすがに面食らっただろう。そう思っていたが、古屋アマは淡々と指し手を返す。その後も角交換を経て、右玉を左右反転したような独特の陣形へと、迷う様子もなくすいすいと指し進めていく。先手からすれば相手からの角交換を利用して手順に向かい飛車にでき、作戦通りで不満なし、といったところ。ところがこの展開、古屋アマが事前に想定していたものだったのだ。駒組みが進むと、後手の意図が徐々に明らかになってくる。

 第2図、後手は飛車先の歩をまったく伸ばさず、逆に1筋、2筋の歩を伸ばして玉頭に圧力をかけている。争点を消してスキをなくし、いつでも強烈なカウンターがあるぞと主張しながら待つ。これが古屋アマ用意の構想だった。対する先手はとにかく堅いものの、バランスのいい後手陣に対し攻めの手がかりがつかめない。ここではすでに、後手が作戦勝ちを収めていた。

■手厚い後手陣

 門倉は4筋で歩を手持ちにすると、果敢に仕掛けていった。第3図から▲8四歩△同歩▲3五歩△同歩▲8四飛。持ち歩を増やし、後手陣の弱点である桂頭を狙う。しかし対する△4四角が、攻防の要所を占める急所の角打ち。先手の狙いを消して、はっきり後手がよくなった。先手は第3図では作戦失敗を認めて、仕掛けずに待つほかなかったようだ。本譜、後手が△7五歩(第4図)と反撃に出た局面を見てほしい。後手は1筋から4筋までの位を取り、目もくらむような手厚さだ。もちろん先手も黙ってやられるわけにはいかない。不利は承知、▲9六角から攻め合いを目指した。

■先手、勝負手で迫る

 と金を作られて形勢の苦しさは変わらないが、先手は一発のパンチを狙って攻めを繰り出していく。頼みの綱は陣形の差。後手の玉頭を荒らすことができれば、攻守逆転も十分あり得る。そして飛び出したのが▲3六金(第5図)。桂の利きに飛び込む勝負手だ。△同桂▲同飛と進み、古屋アマは悩んだ。受けるなら△3五歩が自然なところ。以下▲同桂△4六金と進めば受け止めた形になるが、△3五歩の瞬間▲4五銀は大丈夫か――。古屋アマの視線がチェスクロックをとらえる。持ち時間はあと数分残っている。ここは最後の「長考」になるだろうか。盤側でそんなことを考えていると、ふいに古屋アマの手が動いた。

■決断の踏み込み

 △2六歩(第6図)は、それまでの手と同じように静かに突き出された。玉頭の急所の銀を見捨てて穴熊相手に攻め合いを挑む、驚愕(きょうがく)の選択。だが、結果的にはこれが最短の勝ちに結びついた。以下▲3四飛△2七歩成▲2四桂△4三玉▲4五銀△2六歩と進んだとき、先手から迫るうまい手段がなかったのだ。門倉は後手玉を詰ますべく追ったが、駒が足りない。最後は57秒まで読まれ、「負けました」と駒台に手をやった。終了図の後手玉に詰みはなく、先手玉は必至だ。

■第一感を信じて

 「勝ちだとわかって指したわけではないです」

 後日、古屋アマは△2六歩についてそう語った。あの局面では△3五歩以下、正確に指せば先手を切れ筋にできると。では、なぜ攻め合いを選んだか?

 「指したい手、第一感でした」

 一歩間違えれば、逆転につながりかねない危険な状況。しかし、だからこそ自分の第一感を信じた。運がよかった、と古屋アマは言ったが、その運は、彼自身の心の強さがもたらしたものだと、私は思う。

 古屋アマが勝ったことで、プロアマ戦の結果はプロ5勝、アマ5勝のタイになった。昨年、一昨年とプロに圧倒された年が続く中、久しぶりにアマチュアが逆襲した格好だ。

 予選を勝ち進んだ古屋アマは、次に田中寅彦九段と対局する。「どう戦えばいいのかまだわからないですが、マイペースでいきたいと思います」。踏み込みのいい攻め将棋は、早指し戦との相性もいい。今後の期待大、である。

(松本哲平)

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