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<  第6回朝日杯第36局3  > 本戦準決勝 ▲羽生善治三冠―△渡辺明竜王

渡辺、羽生を破り決勝へ

対局日:2013年2月9日

第4図:  拡大  

第5図:  拡大  

第6図:  拡大  

第7図:  拡大  

■長岡・金井対談(2)

――横歩取りは総じて先手指しやすいとされながら、本局は後手の完勝に終わりました。

 長岡裕也五段 渡辺竜王の作戦に対して、羽生三冠が油断していたところがあるのではないでしょうか。私見ですが、この後手の指し方は完勝につながりはしたものの、実は非常にさえないのではないかと僕は思うんです。なんといっても後手は32手目△8五飛(第4図)と1手パスをしている。この手自体、非常にやりづらいはずですからね。渡辺竜王は、王将戦の▲渡辺―△深浦康市九段戦(2012年11月)で深浦さんにやられて、けっこう難しかったからやってみようという気になったのかと思いますが。

 この△8五飛の1号局は▲長岡―△及川拓馬五段戦(棋王戦・2012年5月)で、及川君にヒョイと飛車を浮かれてビックリしたのを覚えています。ただそのときの及川君はいかにもノリで指したという雰囲気で、その前に跳ねた▲1七桂という作戦の存在すら知っていたのか疑わしい様子でしたからね(笑)。意味合いは徐々に変わってきているとはいえ、その後5局もこの手が指されていることに驚かされます。先手が無駄な手を指していない状況での1手損には、非常に抵抗がありますね。

 金井恒太五段 前例の一つにC級1組順位戦の▲糸谷哲郎六段―△稲葉陽六段戦(2012年10月)があり、その将棋は自分の対局の隣で行われていたので強烈なインパクトを受けました。△8五飛〜△3五飛の構想には、僕はセンスを感じたんですけどね。なるほど、稲葉君はこういう感じで指しているんだな、と感じ入ったものです。飛車を8五に浮いた後、▲7七角△3五飛▲6八銀に△3八歩(第5図=本譜も同様の進行)と垂らしたのが稲葉君の優れたアイデアでした。▲4九金と取りにこられて大事な持ち歩が1枚少なくなるんですが、その1歩の犠牲で端を絡めて攻める形が実現できるということなんです。先手に堅い玉形をキープさせずに戦えるという感覚がすばらしいと思いました。

 ▲糸谷―△稲葉戦の次に△8五飛が指されたのが王将戦の▲渡辺―△深浦戦。その将棋は△8五飛以下▲6九玉△3五飛▲7五歩△3六歩▲同歩△7五飛と進んでまったく違う展開になったんですが、本局では羽生三冠が、渡辺竜王が選択した▲6九玉ではなく(稲葉六段が選択した)▲7七角を採用したのが面白いところです。渡辺竜王のほうは、▲7七角なら後手もまずまずと見ていたのかもしれません。

――本局は横歩取り定跡の最新形といえるのでしょうか。

 長岡 先手の陣形は最新といえば最新ですが、27手目▲1六歩(第6図)に後手が△7四歩〜△7三桂と進めたのは最新の指し方ではありません。現在の一番の流行は2三銀―1四歩型から角を換えて△3三桂と跳ね、▲1六歩をとがめて端を攻める指し方です。△7四歩と突いたのはちょっと前の指し方という感じですね。僕が後手番を持って指す場合は、8四飛型は飛車の横利きが通っているのがメリットなので△7四歩は突かないという方針を採っています。

 金井 2三銀―1四歩型の構想のほかに、後手には△9四歩〜△9五歩と端を詰めて△9六歩〜△9七歩の仕掛けを狙う指し方もありますね。本譜の△7四歩〜△7三桂も桂を活用する指し方で、自然は自然です。

 長岡 2筋方面から攻めるか反対側から攻めるかは、この戦型における重大な分岐点。△9四歩を突いて飛車の横利きを維持しつつ、間合いを測って△7四歩を突く深浦流の指し方もあります(参考例・2月1日のA級順位戦▲三浦―△深浦戦)。△7四歩は少し古い印象がありますが、渡辺竜王のことですから相当な事前研究があったと思います。

 金井 対深浦戦の経験がベースにあったのは間違いありません。先手を持って思いのほか大変だったので後手を持って指してみたということでしょう。

 ▲1六歩(第6図)に対する△7四歩に、先手は▲1七桂と跳ねました。スピード感にあふれ、いかにも現代風ですね。稲葉君が対糸谷戦の感想戦で言っていたんですけれど、△3五飛がその素早い▲1七桂をいちばんとがめている気がした、と。その感想戦を隣で聞いていて稲葉君のセンスを感じましたね。

 長岡 でも、僕はやっぱり△8五飛はどうなんだろう、と思ってしまう(笑)。後手の8五飛―5二玉型に対し、先手が7七角―6九玉型で対抗し、後手が△3五飛と回った後に先手が▲1七桂と跳んだ▲羽生―△屋敷伸之九段戦(2011年12月・A級順位戦)というのがあるんですけど、その将棋は後手の評判があまりよくありませんでした。とすれば、その一局と同じように組んでも先手には不満がないはずで、僕は根本的に後手の指し方がさえないと思うんですよ。極端な話、後手がどうしても△8五飛〜△3五飛を指したいのなら最初から8五飛―5二玉型に構えれば、先手はほぼ確実に7七角―6九玉型でくるわけだから、飛車の転回は確実に実行できる。後手は最初から飛車が五段目にいるぶん1手得だけど、先手も玉が5八に上がらず、すぐに▲6九玉と寄っているから手数は同じです。微妙な兼ね合いがどうなのかはよくわかっていないのだけれど、ほぼ同じじゃないのかな。▲渡辺―△深浦戦のような▲6九玉と引く選択肢を先手が採った場合と同じような進行になるということです。8四飛型から△8五飛と浮くくらいなら、最初からこれをやればいいじゃないかと思うんだけれど。

 金井 微妙にアヤが違ってくるということじゃないですかね。繰り返しになりますが、稲葉流は▲1七桂に敏感に反応したところと△3八歩(第5図)の1手がすごいと僕は思う。後手は手駒に2歩ないと手にならないと、この戦法の名手である高橋九段は言っています。にもかかわらず、△3八歩と垂らして1歩になっても、なんとか手を作ってやりくりしてしまう感覚が斬新です。長岡さんは手の損得に敏感でどうしても許せないということなのでしょうけれど(笑)、相手の形を見て自分のポジションを変えて得な形に誘導しようという、そういうタイプの人もけっこういるわけです。ちょっとした駆け引きで手損してもうまくいくのか、それとも手損は手損としてとがめられてしまうのか、というのは二つの将棋観が真っ向からぶつかり合う非常に現代的なテーマですよね。君はどっち?と聞かれれば、僕はその中間派ですかね。

 長岡 将棋観の相克ということでいえば、いまはやりの角交換振り飛車にも同じような事情がうかがえます。そもそも僕は横歩取りの現状について、先手によくなる順があるはずだけどちゃんと解明されていないだけ、と認識しています。先手が悪手を指した覚えがないところで1手損の△8五飛で手を渡されて、指し手の選択権は広いのに先手がそれほどよくないなんてことがあるとは思えません。僕は対及川戦では△8五飛に▲3六飛と寄ったんですけど、△3五飛と回らせないという手で、これもけっこう有力だという気がしています。▲羽生―△屋敷戦も羽生三冠がやれそうだったので、それと合流するような形にするのも一案。もう一つ、△8五飛(第4図)には▲2四歩と打つのが最強の手段で、後手にとっては怖い変化だと思います。以下、△3五飛なら▲3三角成△同桂▲3六歩△3四飛に▲2三角が狙いです。ただ先手としても後戻りのできない▲2四歩は、よほどの研究がないと踏み込みにくい。先手は、いろいろとよくできそうなだけに△8五飛の局面でどう指すかはかえって難しい。本譜▲7七角は無難な一手のようでも、△3八歩(第5図)に▲4九金の局面は後手ノリと思います。

 金井 部分的には▲7七角と上がれば、先手は次の▲6八銀が大きな手ですからね。

 長岡 7九銀型で戦うのと▲6八銀と上がって戦うのでは終盤で玉の堅さが違います。

 金井 ただ△3八歩まで進むと、後手が楽しめる局面という気がしますね。1七の桂と中住まい玉の相性が悪いという主張です。40手目△1五歩(第7図)と突いて、手になっていますね。

 長岡 △3八歩は先手の1七桂―5九金型のバランスの悪さをついています。後手からすると、自分の陣形のよさを先手にパクられているのを解消する手段ですね。1七の桂は、活用できるのか、不発で終わるのかが分かれ道なんですが、こう進んでみるとイヤな感じなんですよね。歩を取りきって後手の攻めをしっかり受け止めるビジョンがあれば先手持ちなんですけど、ちょっとその手段が見えません。やはり△8五飛には、▲2四歩と打つ筋がうまくいけばそれをやりたいところですね。現時点では攻めきれるかどうか怪しいんですが。

 金井 △3八歩により、先手は玉の堅さが吸い取られてしまいました。先手を持ってこの局面にするかと聞かれれば、僕もしないかなという気がします。

(小暮克洋)

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