< 第6回朝日杯第36局4 > 本戦準決勝 ▲羽生善治三冠―△渡辺明竜王
■長岡・金井対談(3)
――40手目△1五歩(第7図)の局面で、先手にいい受け方があるかどうか。感想戦では▲3六歩△3四飛に▲7五歩(第1図=再掲)が失着で形勢を損ねたという結論になりました。
長岡 ▲7五歩に代えて▲1五歩には、△1六歩▲2五桂△1五角でやはり後手が指せると思います。以下▲2九飛△2八歩▲同飛△1七歩成▲同香△4八角成▲同金△1七香成(参考図1=再掲)▲2六飛に、重くても△1五銀と打ってどうでしょう。
金井 △1五銀は感触はよくない手ですけれど、▲2九飛△1八成香▲2七飛△3六飛▲3七歩に△7六飛(参考図5)と進めば、次は△6五桂と△2六歩の両てんびん。後手が指せる気がします。
――結局、先手は32手目△8五飛(第4図=再掲)への対処を誤ったということですね。
長岡 ▲4九金〜▲3八金は堅さがなくなるのでやりたくない手でした。
金井 △8五飛に▲2四歩は確かに有力です。△2三歩なら▲同歩成△同銀となりますが、この銀の当たりが強くなって後手も強く決戦に出られないうらみが生じます。ただ▲2四歩の局面からはさまざまな変化が考えられ、これで本当に先手よしになるかはよくわかりません。本譜△1五歩(第7図=再掲)の場面はおそらく後手がいいでしょう。渡辺竜王にとっては、本局は時間の短い将棋で激しく動き攻め倒した会心譜になりました。▲7五歩(第1図)ではまだ▲1五歩だったでしょうが、後手に手段が豊富なのでこの手を選べなかった気持ちもわかる気がします。5二玉型には▲7五歩と突けば勝負になることが多いので、早指しの将棋でそこに頼りたい心理が働いたのも十分に理解ができます。平然と▲1五歩と取って「さあどうぞ、お好きなように」というのも、いかにも指しにくい手だったと思いますから。
長岡 △1五歩の局面が後手有望なのは、つくづく先手の中住まい玉がさえないからなんですね。昔の感覚だと1手得して中住まいなら先手十分なのでしょうが、先手陣は飛車に対する弱さが半端ではありませんから。本譜はそのあとの44手目△8五桂(第8図)という手が意表をつく好手。羽生三冠はこの手を軽視したのではないかという気もします。
金井 △6五桂のほうが自然ですが、▲5六角がイヤですからね。△8五桂と跳ねても▲8六歩と突かれる展開にはなりづらく、負担にならないと見たわけです。まさに「場合の好手」ですが、それを確実に拾ったのが、目立たないようでもすごいなと僕も思いました。
長岡 ▲5六角(第3図=再掲)に代えて▲5五角でも、先手は全然自信がありませんね。粘りにいっているようなもたれ指しですから。これは感想戦用の手で、既にかなり先手が苦しい。△1六歩▲2五桂△同桂▲同飛△2四歩に▲4五飛の感触が悪すぎます。最も罪が重かったのは▲7五歩(第1図)ということでいいのではないでしょうか。
金井 △8五飛(第4図)の局面はバリエーションがまだいろいろ考えられそうです。
長岡 誰もまねしないし評価はされていないけれど、▲3六飛にも復活の可能性はある(笑)。形としてはバランスがいい。寄ったのをまた戻すのでやりづらいというところはありますが。
――△8五飛の手損にさんざんケチをつけておいて、自分だけ手損が許されるのは(笑)。
長岡 まあ、相手が手損したので戻りやすくなった、場合の手ということで(笑)。ただ▲3六飛ではなく、ここはもう少し欲張りたいところではありますよね。なんとなく相手が損をしてくれているという感覚があるので、もっとしっかりとがめたい。
金井 後手は作戦勝ちが大きかったですね。玉の堅さの差が出ました。羽生玉の右金を3八に呼び、そこで渡辺さんがうまく戦いを起こして直線一気で決めた一局でした。
(小暮克洋)
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