< 第6回朝日杯第37局4 > 本戦決勝 ▲渡辺明竜王―△菅井竜也五段
■長岡・金井対談(3)
――「△5三歩(第1図=再掲)は打たざるをえなかった」という菅井さんの感想がありました。
長岡 ▲5四歩△同金に▲5五銀右を防いだということですが、いやあ、この辛抱にはさすがに驚かされました。やはり僕とは将棋観がまったく違うんだなと思います。この歩を打ってもそれほど悲観していないとすれば、新感覚ですけれども。
金井 ここは打つしかないと思っても絶対にこの手は指せないという人もいるでしょうね。ただ菅井さんも、こんな歩を打たされるようでは、穴熊を目指してもうまくいかないかもしれないという悪い予感がしたのではないですかね。ここまでの折り合いで、後手はどこかバランスを崩した可能性が高い。次の▲5七角に△7四歩と突いた手で、△9二香なら▲3五歩ということですね。本譜△7四歩に▲3五歩なら、一例ですが△同歩▲同銀に△8四角とぶつけて一転、これは後手がやれそうです。
しかし、ここから▲4八角と引いて揺さぶった渡辺竜王の構想がすごいと思いました。この時間の短い将棋で、指し手が急所をついて的確。さらに、ここからの動きには菅井君もけっこうダメージを受けたと思います。
――▲5七銀(第10図)に、藤井猛九段は△9二玉を推奨していました。
長岡 本譜の△7三桂は、普通と言えば普通ですけれどね。僕なら追悼の意味で「米長玉」です。
金井 なるほど△9二玉ですか。なるほど、守備力はこちらのほうがありますね。ただ、菅井君としては既に模様が悪い将棋なので、終盤で先手玉の弱点をつく△9五歩や△8五歩に逆転の一撃を託したいという気持ちがあったのではないでしょうか。△9二玉〜△8二銀と組むのは、その反撃手段を失うのと引き換えですから指しづらかったのかもしれません。
――△3一飛(第2図=再掲)が本局の敗着ということになりましたが。
長岡 ほかの手でも、先手が有利に見えます。後手の駒が前に進んでいませんから。
金井 まだ△1四歩と突き、▲3六飛に△3一飛だったということでしたか。ただ▲3四歩と伸ばされ、△4三金に▲2四歩△同歩▲5四歩くらいで、陣形が厚い先手が指せるのは間違いありませんね。調子よく攻めているうちにカウンターということもあるので、勝負となるともちろんわかりませんが。いずれにしても後手は△1四歩しかなかったですね。
長岡 この将棋に関しては渡辺竜王の指し回しが完璧でした。菅井君は完封されそうになって、持ち味が出ない展開になってしまいました。めったに指さない位取りでも結局、渡辺竜王は局面の急所を押さえるのが本当にうまいということですね。感服しました。
金井 後手は模様が悪くなり、思い通りに組めなくなって不本意な展開を強いられました。
――1点だけ。先手が攻め合いを買って出た△2四同歩(第11図)の場面で、誰がどう見ても筋中の筋と見える▲6四歩を、渡辺さんが一瞬も考えていないというのが不思議でした。
長岡 本譜は▲5三桂不成ですが。少し楽観したところがあったんですかね。ただ本譜の順でいけるという確信が持てたのでしょう。そこらへんの割り切りはすごいですから。
金井 歩突きが間に合わないというなら別ですけど、考えないのは驚きますよね。この歩が切れれば▲6九歩が打てるようになって先手玉は盤石なのに。ただ本局は局後のコメントを読む限り終始、渡辺竜王は意外なほど慎重だったということですよね。紛れなく一直線に決めたいという気持ちの表れだったのでしょうか。
(小暮克洋)
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