< 第6回朝日杯第37局6 > 本戦決勝 ▲渡辺明竜王―△菅井竜也五段
■真相
ここで終えるつもりだったが、一点だけモヤモヤ感が残った。長岡五段の抱いた第8図(=再掲)を巡る疑念についてである。これだけはどうしても真相を明らかにせねばなるまい。
衝動的な思いに駆られ、渡辺竜王には「▲1六歩に△6四歩ならどのような予定だったのか」、菅井五段には「▲1六歩にはなぜ△6四歩と突かなかったのか」という質問メールを送った。わずか1時間以内に届いたそれぞれの回答は以下の通り。それを最後に紹介して本稿の結びとしたい。
まずは渡辺。「△6四歩には▲3五歩のつもりでしたが、先手もリスクがあるかもしれません。この対局直後の村中−菅井戦では▲1六歩に△5四歩の強手でも後手が勝っていますし。先手としては▲1六歩が甘い可能性もあり、改良の余地がありそうです」
そして菅井。「▲1六歩に△6四歩は、いちばん無難で穏やかな進行です。△6四歩に▲3五歩なら△同歩▲同銀に△3二飛と回り、一局です。▲3五歩と突くと5筋の位とのバランスが悪いので、先手は▲3五歩ではなく、▲6五歩からゆっくりする方針だと思います。なぜ、△6四歩と突かなかったかと言いますと、本譜の△6二銀から穴熊を目指す順を、対局中に思いついたからです。決勝戦で思いつきを指すのはリスクが多いと思いましたが、自分を信じ後悔を残さないために本譜の順になりました。結果的にも、内容的にも、本譜の構想は失敗でしたが、新しいことに挑戦できたのは大きな収穫になったと思っています」
今回の取材を通じて、プロといえども考え方は人それぞれであることに、改めて驚かされた。そうでなければ、その気概なしでは、棋士という職業が成り立たなくなってしまうということだろう。現代将棋は、網の目のような情報戦をかいくぐりながら、いかにそこから一歩抜け出すかが勝負を分ける。いうまでもなく、最後に一局を支配するためにモノを言うのは個の力だ。トップ同士の争いでは、最後は自分を信じる力がより強い者が勝つ。棋士はつくづく孤独な生き物だと思う。
(小暮克洋)
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朝日新聞将棋取材班
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