メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

09月19日朝日新聞デジタル朝刊記事一覧へ(朝5時更新)

新着記事一覧へ

このエントリーをはてなブックマークに追加
mixiチェック

<  第7回朝日杯第7局  > 1次予選1回戦 渡辺誠アマ―上村亘四段

指し直しの熱戦、渡辺アマ及ばず

第1図:  拡大  

第2図:  拡大  

第3図:  拡大  

第4図:  拡大  

第5図:  拡大  

第6図:  拡大  

終了図:  拡大  

■相穴熊に

 午後6時14分。渡辺誠アマ―上村亘四段戦は千日手指し直しの末、決着がついた。朝日杯のプロアマ戦史上で一番遅い終局だった。千日手局も含めて振り返る。

 渡辺アマは横浜市在住。奨励会員の渡辺愛生三段の弟で、高校2年生のときにオール学生選手権戦で優勝した。今春の朝日アマ名人戦全国大会では3位決定戦で2回千日手となり、規定で抽選をして3位となった。その直後に行われた支部名人戦東日本大会でもベスト4進出。ここ2、3年ほどで力をグングン伸ばしてきた若手強豪だ。

 平井奈穂子研修会員の振り駒で先手に決まった渡辺アマは、角交換振り飛車模様の出だしから四間飛車穴熊を採用した。愛生三段も四間飛車穴熊を得意にし、2011年の新人王戦で中村太地六段を破ったことある。上村は「得意戦型だけでなく、対局中の雰囲気も愛生三段と似ていて驚いた」という。

 振り飛車側が普通に指すと、飛車側で優位な居飛車が作戦勝ちしやすいとされる。なので、右四間飛車に振り直して攻勢を狙うのが定跡となっている。

 第1図の▲9六歩は振り飛車が先手番なので突きやすい。何げないようで9七に角や桂、香を移動できるようにして価値が高い。続く△3二金右▲4九飛に、△7四歩だと▲6五歩△4二銀▲4五歩△同歩▲3三角成△同銀右▲6四歩△同歩▲5三角で後手は飛車を狙われる。これは相穴熊の基本定跡だ。

 上村は△9四歩と受けて8八から9七への角の転換を牽制(けんせい)したが、△1四歩との比較は難しい。愛生三段は佐藤天彦七段との新人王戦(愛生三段の先手)で、第1図から△1四歩▲1六歩△7四歩▲6五歩…という進行を経験していた。渡辺アマは兄のその将棋も織り込んでいる。

■局面は千日手模様に

 上村は昨年10月に四段昇段。11歳で6級入会したが、直後に7級へ降級。その後も昇級のペースは早いとはいえず苦労した。23歳で三段。四段昇段時は25歳。奨励会を抜けるのに14年かかった。

 棋士になって1年がたとうとしている。四段昇段から本局まで5勝8敗。「成績は大いに不満が残るが、慣れつつ結果を残したい」という。上村は慶応大の学生でもある。棋士になるためにしばらく休学していた。現在は復学して来春の卒業を目指している。

 上村が先攻。渡辺アマは手に乗って反撃する。双方の囲いが同じなので駒の性能差が形勢を分ける。渡辺アマは2四角が働く前に激しい流れにして強襲をかけた。指し慣れた戦型とあって持ち時間を残しながら戦う。「作戦勝ちと思っていた」と局後に振り返っていた。

 第2図。上村が気にしていたのは▲3七銀引。鉄壁の穴熊にしていれば先手十分だった。本譜は▲5三竜△4六飛▲4四歩△5七桂成と後手の駒も急所に来た。

 後手もその後の▲3一銀に△4八銀ではなく△4九銀が正着。以下▲4三歩△同飛▲4四歩△同飛▲5三角には△4三飛と受けて後手よしだった。本譜は千日手模様に進んだ。

■打開を逃して千日手

 双方1分将棋の終盤、16手一組の循環手順の中で打開を模索する。後手玉周辺の駒や持ち駒の関係で、微妙に局面や手段が変わるのでややこしい。

 後手からは第3図で△3九銀成▲同金△5六角打が有力だった。以下▲2二金△同玉▲7二飛△3二金▲7四飛成△同角は、▲4一銀と絡めず先手の攻めが薄い。先手が金を持っていない瞬間がよいタイミングで、金があると△5六角打に▲4七歩△同角成▲3七金と受けられる。

 「端歩を生かす(先手より玉が広い)意味でも、玉が引っ張り出される順で勝ちにいくべきだった」と上村。上記の△4九銀の筋もそうだったが、穴熊の玉を引っ張り出されるのは、絶対に玉が詰まない長所を捨てることになり、決断しきれなかった。

 午後4時14分、千日手が成立した(第4図)。渡辺アマは朝日アマ名人戦に続いて千日手。上村は棋士デビュー戦の対早咲誠和アマ戦に続き、アマ戦で2戦連続の千日手となった。朝日杯での千日手は、準備が整い次第すぐに指し直し局が行われる。しばらく前から千日手を予想していた関係者の準備はスムーズで、7分後に指し直し局が開始された。

■指し直し局は上村ペース

 指し直し局は千日手局の持ち時間が引き継がれる。本局は初手から双方1分将棋だ。2人してうつむいたり、天をあおいだりして気息を整えながら作戦を決めて、序盤を指し進めた。

 渡辺アマの作戦はゴキゲン中飛車。上村は丸山ワクチンで対抗した。作戦勝ちになったのは上村だ。本局の1カ月ほど前に類似形を指していたのが生きた。速攻をちらつかせ、渡辺アマを守勢にさせて主導権を握る。

 第5図は後手の指し方に乗じて歩を3枚も手持ちにして先手好調。陣形も堅く、攻めがつながればいい。このころ、時刻は午後5時を過ぎた。他の対局はすべて終わり、残るは本局のみ。郷田真隆九段と金井恒太五段による大盤解説会は5時終了の予定だったが、終局まで延長された。

 第5図から▲2二歩△同金▲4三歩△3二金▲2六飛に△4一飛▲7五歩と技が入った。△同歩なら▲7四歩△同銀▲5二角の筋がある。△4一飛では△4一歩の辛抱なら、まだ大変だった。さかのぼって、第5図で▲2二歩の成否は微妙で、単に▲4三歩や▲4六飛△4三歩▲2六飛の方がよかったようだ。

 その後、▲5一角の強打が入って、上村は後手陣を突破。渡辺アマはいよいよ苦しくなった。遠く離れた2二金の離れ駒がつらい。

■着実に寄せて上村勝利

 局面は序盤から先手良しで推移している。ただ、上村は渡辺アマの粘りに手を焼いた。第6図で▲4五歩と5四銀を助けながら銀取りをかけたが、▲7六歩や▲7六銀右、あるいは▲4四飛〜▲7六銀右などと、4四の銀を取って7五に打つ詰みを狙えば早かった。

 「▲4五歩は狙いもさえず、とんでもない悪手」と上村は厳しく反省した。とはいえ、玉形差が大きく、逆転には至らない。序盤から押されていたからか、粘りを見せる渡辺アマの表情はさばさばしているように見えた。

 上村は着実に後手玉を寄せた。千日手局より1手多い139手目▲7四飛(終了図)を見て渡辺アマは投了した。以下△同銀に▲8六金打までの詰みだ。

 4時間以上に及んだ戦いが終わり、若い2人にも疲れが見えた。上村は打ち上げの席で、ようやくホッとした表情を浮かべた。

(君島俊介)

検索フォーム

朝日新聞 将棋取材班 公式ツイッター

※Twitterのサービスが混み合っている時など、ツイートが表示されない場合もあります。

将棋グッズ

注目コンテンツ