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<  第7回朝日杯第8局  > 1次予選1回戦 ▲入江明アマ―△高見泰地四段

入江アマ、好機生かせず

対局日:2013年7月6日

第1図:  拡大  

第2図:  拡大  

第3図:  拡大  

第4図:  拡大  

第5図:  拡大  

第6図:  拡大  

終了図:  拡大  

■学生対決

 東京・築地にある朝日新聞東京本社ビルの「レセプションルーム」で、駒を並べる音がひそやかに響く。7月6日、午前9時50分。この日行われる10組のプロアマ戦のうち、3局の対局準備が進んでいた。高見泰地四段と入江明アマ、2人の顔立ちにはどこかあどけなさが残っている。入江アマは学生名人枠での出場。対する高見も現役の大学生で、学生対決という構図になった。

 入江アマは東京大学の4年生で、東大将棋部のエースとして活躍している。今年6月に行われた第69回学生名人戦で初優勝し、朝日杯への出場権を得た。大学では農学部に所属、植物細胞の研究に携わる。研究室に通い実験に明け暮れるかたわら、高見の棋風を研究して本局に臨んだ。

 一方の高見は立教大学の2年生で、文学部に所属し日本史を勉強中。将棋界とは違う価値観に触れられることが楽しみという。ゼミでは「紫式部日記」を読み、当時の貴族の暮らしについて学んでいる。棋士の中には数学が得意な人間も多く、将棋といえば理系のイメージを連想しやすいが、実際には文系の学部に進学している棋士も増えているのが現状だ。

 事前に準備を進めてきた入江アマは、高見のゴキゲン中飛車に対し▲5八金右と上がった。これは「超急戦」と呼ばれる戦いを誘う形。第1図で△5六歩と突けば、この決戦に突入する。以下▲同歩△8八角成▲同銀△3三角▲2一飛成△8八角成▲5五桂△6二玉と進み、いきなり終盤になる過激な戦型だ。受けて立つか否か。プロの意地を試される局面を突きつけられ、高見は決断を下した。

■超急戦を回避

 第1図から△3二金。後手が超急戦を避けた格好になったが、やや意外に感じた。というのも、現在プロ間で超急戦が指されることはほとんどないのだが、それは「超急戦は振り飛車よし」の結論が出ていると思っていたからである。研究量でアマチュアにまさるプロが、なぜ有利な定跡をわざわざ避けるのか。高見にこの質問をぶつけてみた。

 「持ち時間の短い将棋で、研究にはまって負けるのはいやでした。超急戦は新しい手が出ているので、対応できないかもしれない。長い将棋であれば受けていました」

 入江アマはどう思ったのか。超急戦の秘策について聞くと「ないわけではなかった」と話しつつも、本譜の展開について「高見四段の棋風から(超急戦は)受けてこないと思っていました」と、想定どおりに進んでいたことを明かした。

■はっきりさせる

 駒組みが進んで第2図。入江アマは▲5六歩と動いた。以下△同歩▲同銀△5五歩▲6五銀と銀をぶつけて開戦。銀交換後の▲4五銀を見たものだが、▲6五銀の次の△3三角が飛車の横利きを通して味のいい手になった。

 第2図では後手の5四銀型が好形で、すでに手を出しにくくなっている。直前に戻って、先手は▲6六歩〜▲6七金を省いてすばやく3筋から動くほうがまさった。

 手応えを感じた高見は、「どちらがいいかはっきりさせる順」を選んだ。飛車を取られたものの、△4七角(第3図)と急所に据える手が大きい。▲2八飛には△6五角成と守りに引きつける手も考えたが、「攻めがなく自信が持てない」と判断、△5六歩と伸ばして2枚の角で先手陣攻略を目指した。

■好手を逃す

 入江アマは▲4一飛(第4図)と飛車を下ろして反撃する。▲6三歩や▲6二歩、▲2一飛成で桂を取っての▲7五桂があり、かなりの迫力だ。この手を見て、高見がぴたりと手を止めた。5分、10分と時間が過ぎていく。「読み進めるうち、この飛車打ちが厳しいと気づいた」と高見。本譜で選んだ△6九角成▲同銀△5二銀(第5図)は金を入手して飛車を捕獲する振り飛車の常套(じょうとう)手段だが、ここが問題の局面だった。

 高見が長考した理由は、第5図で▲6二歩という手があるから。以下△7一金は▲同飛成△同玉▲3五角で▲6一歩成を狙う必殺の筋がある。そこで△4一銀と飛車を取るが、▲6一歩成△同銀▲3五角△7二金▲6八飛△5五角▲7一銀△8三玉▲5三角成の進行は「自信なし」と高見。次に▲6四飛△同角▲同馬から▲6五角が厳しい攻めになる。この展開は先手有望だった。

 しかし本譜は第5図から▲6一飛成。以下△同銀右▲3五角△7二金と進み、後手が安心できる形になった。▲6二歩の変化に比べると後手の金銀の連結が違う。「手応えを感じていた」という入江アマだが、▲6二歩には気づくことができなかった。それでも対局中は△7二金に▲8五歩と突き「まだ難しいと思っていた」が、その考えは次の一手で消されることになる。

■入江アマ、力及ばず

 △6五飛(第6図)が攻防の決め手。銀取りを受けて▲6六歩なら△8五飛〜△4五飛とさばく筋がある。手順に玉頭を受けている点がポイントで、ここさえ収めてしまえば横からの攻めに強い形が生きる。第6図から▲7八玉△4五飛▲2六角△5七歩成と進んで、急所にと金ができては後手優勢だ。以下は高見が手堅くまとめた。

 終了図で▲同飛は△2六飛、▲2七飛は△3七歩成があり収拾不能。後手玉に迫る手段もなく、最後は差がついた。

 高見は昨年のプロアマ戦に続いての勝利。実は前回の対局の経験が、本局で慎重を期した理由につながっていた。「昨年の細川さん(大市郎アマ)との将棋は途中苦しくて……」。結果は幸いしたが、序盤でリードを許したことに危機感を抱いた。そこで今年は「序盤から丁寧に、落ち着いて指す」と決めていたのだ。がっちり組み合って中終盤で力の差を見せた本局の展開は、方針の勝利といえるだろう。

 入江アマは「プロは終盤で読んでいる量が違うと改めて感じた」と、棋士と盤を挟んだ感想を話した。敗れたとはいえ、この貴重な経験は必ず生きる。今後は大学院に進学、将棋はこれからも続けていくという。来年は学生対決のリベンジマッチが見られるだろうか。

(松本哲平)

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