駒に漢字を使っているから「国内向け」。戦いの激しさは「男性的」――。そんな将棋のイメージが近年、変わりつつある。国際化や女性ファンの拡大、コンピューターの進化。変化の波は、将棋本来の魅力をより多くの人に気づかせている。
対局の舞台はブラジル・サンパウロ。日本人の女流棋士と、金髪で青い目の日系ブラジル人少女が盤を挟み、記録係は日本でプロを目指す中国人少年――。昨年度の小説すばる新人賞を受賞した「サラの柔らかな香車」の冒頭には、こんな描写が登場する。
将棋が世界へ飛び出し、女性が男性と伍(ご)していく。作者で元奨励会員の橋本長道さん(27)は「現実には達成されていないが、リアリティーのある近未来を描こうと思った」と話す。
アニメやマンガなど日本文化への関心をきっかけに、将棋を始める外国人が増え、2年前に開設された英語でのネット対局サイト「81Dojo(道場)」には、欧米を中心に約85カ国の7400人が登録する。
日本将棋連盟は昨秋、初の海外での「国際将棋フォーラム」をフランスで開催。森内俊之名人や羽生善治二冠らも訪れ、チェスの強豪選手と好勝負を展開して話題になった。
日本でプロを目指す中国人もおり、相撲のように外国人の覇者が生まれる日がくるかもしれない。
かわいいデザインのフリーペーパーや、女性向けの教室や将棋カフェなど、おしゃれに楽しめる空間も広がる。対局のネット中継の増加は、指さずに「見る」ファン層を押し広げる。
コンピューターソフトの進歩も著しく、昨年は米長邦雄・元名人がソフト「ボンクラーズ」に敗れた。来年には棋士5人による「雪辱戦」が予定される。
100年後。将棋はどこまで世界に広がっているだろうか。「500年目の名人」は、どんな存在なのだろうか。夢想は、果てしなく広がる。
返り咲きを狙った羽生善治十九世名人を森内俊之十八世名人が破ったシリーズを観戦記で振り返る。決着後の両者へのインタビューも収録。
七冠制覇を成し遂げた羽生が「将棋世界」誌上で連載した矢倉の壮大な研究。当時20代の羽生が将棋の真理に挑んだ渾身作。