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森内俊之名人(41)が羽生善治二冠(41)の挑戦を退けて防衛を果たした第70期将棋名人戦七番勝負(朝日新聞社、毎日新聞社主催)。直前までの不振を跳ね返し、通算7期目の名人位を獲得した森内名人に、シリーズ中の心境や現在の将棋観などを聞いた。
■第5局拾って「風吹いた」
――今回の七番勝負を振り返ってください。第1局は相矢倉で、81手目まで昨年の第4局と同じ展開でした。
「その場その場で読み進めていましたが、結局なぜか同じになり、意外でした。第2局は事前に考えていた手に自信が持てず、別の手を指しましたが、全然ダメでした」
――第3局は矢倉で、後手が急戦策をとりました。
「羽生さんはこういう攻めをつなぐのがうまいので、楽しみ半分怖さ半分という感じでした。明らかに優勢でしたが、どんどん差が詰まって。危ない将棋でした。第4局は中盤で手拍子があり、大差になってしまいました」
――第5局は後手の羽生さんの横歩取りでした。
「羽生さんは大一番で横歩取りが多いので、そろそろ来るかなと。終盤、▲4一飛に対して△4三桂ならはっきり負けだと思います」
――しかし、羽生さんは△3五玉。
「錯覚でしょうね。まだ時間は28分あったのに、わずか4分で。驚きましたね」
――防衛まであと1勝。第6局を迎えた時の心境は。
「第5局で負けの将棋を勝ったので、自分に風が吹いているのかなと思いました」
――第6局では、新構想(68手目△3六金)を見せました。
「第2局の時に試そうと思っていた手です。途中からは攻め合うしかなくなり、偶然進めてみた局面がぎりぎり勝っていたという感じでした」
――全体を通して、どのような将棋が指せましたか。
「ミスもありましたが、自分が今、持っているものを出せたと思います」
■持ち時間9時間 極める道
――防衛を果たして、今の心境は。
「今年も7局指すのを覚悟してました。一つの大きな仕事ができたかなと思います」
――昨年の秋以降、白星に恵まれませんでしたが、開幕前のインタビューでは「面白い勝負になると思いますよ」と話していました。
「願望もありましたが、たくさんの方が期待しているので、何とか盛り上げたいと思っていました」
――今シリーズの勝因は何だと思いますか。
「戦前は苦戦という評判だったでしょうし、自分自身そう思っていました。自分の勝つべき将棋を全て勝った上で幸運を待つ、という心境でしたね」
――このシリーズを通して何を学びましたか。
「勝負はやってみないとわからない、と改めて感じました。厳しそうなことに挑戦するのが面白さでもあります」
――持ち時間9時間の名人戦は、他の持ち時間の対局とは違いますか。
「かなり違うんじゃないですか。スペシャリストとしてやっていければ、一つの道なのかなと思います」
――持ち時間9時間の将棋で勝つコツはありますか。
「全然わかりません。時間に追われると弱いですから、たくさん時間があるとありがたいですね」
――今シリーズで、将棋観は変わりましたか。
「将棋はやればやるほどわからなくなります。今はスピード化の時代で、若手がどんどん新たな問題提起をしてくる。最先端の将棋に、いけるところまでついていきたいですね」(聞き手=村瀬信也、小川雪)
◇
第5局の終盤。図から△3五玉▲4五飛成△2四玉▲3四金△1三玉▲2四歩△同歩▲4三竜△3三歩▲3二竜と進み、羽生挑戦者が投了した。△2二香なら▲2三金以下詰む。羽生は後日の取材で「投了した局面で△2二香と受け、▲2三銀と打たれた後の局面を掘り下げていた」と話し、▲2三金を見落としていたことを認めた。
返り咲きを狙った羽生善治十九世名人を森内俊之十八世名人が破ったシリーズを観戦記で振り返る。決着後の両者へのインタビューも収録。
七冠制覇を成し遂げた羽生が「将棋世界」誌上で連載した矢倉の壮大な研究。当時20代の羽生が将棋の真理に挑んだ渾身作。