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2012年2月28日15時51分
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集中力 私の心得

写真:およそ2時間の長考の応酬があった1月の郷田真隆九段(右)―丸山忠久九段の順位戦=東京・将棋会館拡大およそ2時間の長考の応酬があった1月の郷田真隆九段(右)―丸山忠久九段の順位戦=東京・将棋会館

写真:加藤一二三九段拡大加藤一二三九段

写真:渡辺明竜王拡大渡辺明竜王

写真:羽生善治二冠拡大羽生善治二冠

 頭脳の格闘技といわれる将棋。持ち時間の長い対局になると、朝から晩まで一日中、時には日付が変わっても、盤に向かい続ける。数時間の長考に沈む棋士もいる。勝敗のかぎの一つが、集中力をいかに保ち、勝負どころで発揮できるかだ。

■「長考 チーズ食べて盤上へ」 加藤九段

 郷田真隆九段と丸山忠久九段が対局した1月19日のA級順位戦。持ち時間は各6時間だ。この日は中盤で、1手に約2時間かけた長考が3手続き、正午から夜8時まで、休憩もあるが、わずか3手しか進まない珍しい展開となった。

 長考派の郷田は長時間の集中も自然なリズムになっている。「時間をかけて構想を練るのが楽しい。ただ、無駄なことを考えている時もある」

 72歳で、内藤国雄九段と並び現役最高齢の加藤一二三九段も長考派。「不器用なので、相手の手番の時も、90%くらいの力でずっと集中している。相手と一緒に考えている気持ちになることも。ただ、ペース配分で失敗した将棋も百局を下らない」と苦笑する。

 「美しい旋律は集中力を高める」と、対局前日は自宅でモーツァルトなどを2時間ほど聴く。さらに健啖(けんたん)家らしく「エネルギー補給も重要。おやつにチーズなどを食べて、改めて盤上に集中する」。

 そんな集中力が、逆転を生んだ。昨年末、39歳下の千葉幸生六段との順位戦C級1組では、終盤で局面がもつれ、両者1分将棋の熱戦に。午前0時55分、加藤が143手でねじり合いを制した。

 「集中が切れなかったのがよかった」と加藤。ちなみにこの夜、コートを対局室に忘れて寒風の中を帰ってしまった。「意識がまだ盤上に残っていたのか……。50年以上の棋士人生で初めてのこと」

■「相手の手番で考えすぎず」 渡辺竜王

 対照的に、めりはりをつけて集中し、時間を合理的に使うのが渡辺明竜王だ。

 「相手の手番でも少しは読むが、自分の時の半分以下」という。棋士を「後々に生きるかもしれない」と常に集中して読むタイプと、「面倒だから自分の手番以外は考えない」タイプに分けると、「僕は後者」という。

 「面倒」には、リスク回避の意味がひそむ。「選択肢を増やしてあれこれ考えると、理論的にミスが出やすくなる」。トップレベルの将棋はある程度まで想定通りに進むことも珍しくない。ならば余計な思考をそぎ落とし、勝負どころに力を注ぐ考えだ。

 渡辺は対局中でも控室に来て、居合わせた棋士と、ほかの対局の検討や雑談をすることがある。「相手の手番で間がもたない時に席を外すが、気が散る雑談はしない。疲れたら、研究中なら眠り、対局の休憩中なら目をつむって、完全な空白をつくります」

■「局面によって必要な種類や深さが異なる」 羽生二冠

 やはり「集中には、ある程度のすきまや空白が必要」と語ってきたのは、羽生善治二冠だ。「長時間、考えすぎると息切れする。白紙に戻して見つめ直す方が、いいアイデアが浮かぶ」と話す。

 集中が必要だと感じるのは形勢が拮抗(きっこう)し、ルール上は指す手があっても自分のプラスにならず動きがとれない時。羽生は「局面に楽しさ、面白さが見つからない時」と言う。盤上にそれらを見いだすため、視点を様々に変える柔軟さは「助走をつけた集中から生まれる」。助走とは、その局面にかかわる記憶を呼び起こすこと。対局全体の構造にもかかわるという。

 序盤では過去の経験や研究データを思い出し、中盤で構想力を働かせ、終盤は計算力がものをいう。「局面によって必要な集中の種類や深さが異なり、めりはりをつけて指すことにつながる」

 「空白」はもっぱら、対局室を離れた時間。電車などで何もしない時間を意識的に持つ。気分転換には大きすぎない書店へ。一通り見て回り、様々な分野の本を手に取る。もっとも「一気に、集中して」読むのだそうだ。

 集中力にも表れる棋士の個性。そのぶつかり合いが、盤上の魅力となる。(小川雪)

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