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紙面の囲碁将棋ページでは毎週詰将棋を出題しています。「私の考えた手順も正解か?」などと、読者の方からよく質問をいただきます。最近の出題と質問を題材に、どう味わったらいいのか考えてみます。普段は指し将棋専門の方も、時には奥深い詰将棋の世界をのぞいてみてはいかがでしょうか。
■「一間竜」ひらめくと早い
詰将棋は、基本的には正解手順が1通りになるように作られている。「この手順以外は詰まない」という厳密さは、美しささえ感じさせる。別の攻め方で詰む場合は「余詰(よづめ)」と言い、不完全な作品。ただ、玉方(ぎょくかた=守る側)の応手によっては、正解手順が複数存在することもある。
7月10日の紙面に掲載した作品を見てみよう。
正解は初手▲1三桂成と、何も利いてない空間にタダで捨てる手。玉方が△同銀なら▲2三竜寄、△同桂なら▲2一角△同玉▲3二竜△1二玉▲2三竜上で詰む。攻め方が玉方の弱点である2三の地点を狙う手段が状況次第で変わるのが面白いが、前者は3手詰め、後者は7手詰めとなって正解(11手詰め)より手数が短く、「玉方は最長手順に」に反するので不正解。
結局▲1三桂成には△同玉と取るしかない。そうしてから▲2二竜と銀を取る手が好手。△同角なら▲1四銀から▲2三銀成とやはり2三を攻めて詰むので、△同玉に▲3一角△1二玉と進む。
出題後、読者から「いきなり初手▲2二竜でも詰むのではないか」という質問が寄せられた。もしそうなら余詰だ。しかしこれは△2二同角で詰まない。続いて▲1三桂成としても△1三同角とされて手が続かない。これに対し正解手順は、玉を1三に呼んで△2二同角とできなくしているのがミソだ。
途中図からは▲1三角成と打ったばかりの角を再び空間に捨てるのが鮮やかな手。△同桂▲3二竜で終わりが見えてくる。玉と竜が一ます間において近づいた「一間竜(いっけんりゅう)」と呼ばれるこの形は詰みの基本。逆に、この形に持ち込めそう、とひらめけば早く解ける。
△同桂で△同玉は▲1四銀△2二玉▲2三銀成で詰むが、攻め方の歩を余らせるので正しい逃げ方ではない。▲3二竜には△2二香と合駒をするが、▲2一銀まで11手詰めとなる。10手目は他の合駒でも正解だ。
作者の飯島栄治七段は「攻撃力が強いが、意外と簡単には詰まないのでは。駒が少なくて、解きたくなるような配置の作品になったと思う」と話している。
■主なルール
・攻め方は王手の連続で、最短で詰む手順を選ぶ。
・玉方(守る側)はなるべく最長手順になるように、攻め方の持ち駒を使い切らせるように応じる。
・玉方は無駄な合駒をしてはいけない。
◇
■作品集で実戦力磨く
詰将棋は、指し将棋派にとっても身近なトレーニングの一つ。実戦に役立つ詰将棋の本をいくつか紹介したい。
手数が短いものでは、「脳トレ5手詰」(北浜健介七段著、マイナビ、1260円)や「新版 5手詰めハンドブック」(浦野真彦七段著、浅川書房、1260円)がお勧めだ。詰将棋の名手として知られるプロの作品だけに解きごたえがある。初心者の方には1手詰めから7手詰めまでの768問を収録した「ひと目の詰み筋 初級編」(渡辺明竜王監修、マイナビ、1050円)。上級者でも、例えば1問10秒とか1冊1時間とか、時間を決めて解くといい練習になる。
飯島七段は「実戦に役立てるなら、11〜15手ぐらいの詰将棋をたくさん解くといいでしょう」と話す。
さらに難問に挑戦するなら、谷川浩司九段の「月下推敲(すいこう)」(マイナビ、2100円)はいかがだろうか。実戦型から長手順の趣向作まで100題。昨年出版され、「永世名人による作品集は200年ぶり」と話題になった。最近では内藤國雄九段の「新装版 図式百番」(マイナビ、2310円)。「攻め方実戦初形」など驚くべき作品が収められている。
最後に忘れてはいけないのが、通巻677号に達した月刊の「詰将棋パラダイス」(650円)。毎月、短手数から数十手まで、時には数百手の作品が、全部で約70〜80題。詰将棋作家のエッセーや変則詰将棋なども載っている。(村瀬信也)
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