現在位置:
  1. asahi.com
  2. エンタメ
  3. 映画・音楽・芸能
  4. コラム
  5. 小原篤のアニマゲ丼
  6. 記事

監督の更年期

2008年5月19日

印刷

ソーシャルブックマーク このエントリをはてなブックマークに追加 Yahoo!ブックマークに登録 このエントリをdel.icio.usに登録 このエントリをlivedoorクリップに登録 このエントリをBuzzurlに登録

写真07年6月の会見に現れた押井監督は、体も引き締まり若返った印象でした写真富野監督の以前の作風を「黒富野」、近年の明るい作風を「白富野」と言うらしいです写真宮崎監督の次作「崖の上のポニョ」はどんな色気を発するのでしょう?

 5月生まれの私は先日41歳になりました。「よんじゅういっさいのはるだから〜」と「元祖天才バカボン」のエンディングテーマをつい口ずさんでしまいます。2年前はぎっくり腰を患い、昨年はメガネのレンズを遠近両用に替えました。「老眼じゃないやい、遠近両用だい」などと意味不明なことを自分に言い聞かせても、店から貰ったレシートには「シニアグラス」の文字が……。あぁ、私もローガン卿なのね。というわけで、今回はトシの話、「男の更年期」のお話です。

 昨年6月、押井守監督が新作「スカイ・クロラ」の製作発表会見で「更年期が終わったんだと思う」と発言しました。「イノセンス」(04年)のころ極めて不調だった体力、気力も今は充実、「色気というものが自分の中にあることに初めて気づいた」そうです。ペダンチック(衒学的)でシニカルな作風を切り替え「スカイ・クロラ」で若者の恋物語をやろうという気になった背景には、そうした自身の心身の変化があったというお話でした。

 その押井監督、ラジオ番組で宮崎駿監督について「『もののけ姫』はパサパサして枯れていたけど、『千と千尋の神隠し』から色気が戻ってきた」というお話もしていました。私も同感で、実は押井監督の会見を聞きながら、宮崎監督の作品に感じていた「変化」を連想しました。そしてもう一人、「機動戦士ガンダム」の富野由悠季監督のことも。95年頃から心身の不調に悩まされ、「ターンAガンダム」(99年)を作りつつ回復へ向かっていった過程を、著書「ターンエーの癒し」(角川春樹事務所)で明らかにしています。その後の「OVERMANキングゲイナー」(02年)は、鬱屈をはらんだ作風が消え、驚くほど明朗な活劇でした。

 押井監督は51年生まれ。「イノセンス」の頃は53歳、「スカイ・クロラ」公開の今年は57歳です。宮崎監督は41年生まれ。「もののけ」(97年)は56歳、「千尋」(01年)は60歳、色気全開の「ハウル」(04年)は63歳です。富野監督も41年生まれ。「ターンA」は58歳、「キングゲイナー」は61歳ということになります。どうも50代半ばから後半あたりに更年期の谷間があるのでは――。

 面白くなったので実写の監督をちょっと調べてみましょう。小津安二郎は、とことん暗い「東京暮色」(57年)が54歳、初めてのカラー作品「彼岸花」(58年)が55歳。まさに色気が沈んで戻って、という感じ。黒澤明は、「赤ひげ」(65年)が55歳、「どですかでん」(70年)が60歳。おや、ここでも白黒からカラーへ移っています。この2作の間には「トラ・トラ・トラ!」解任事件があり、71年には自殺未遂、次の「デルス・ウザーラ」(75年)は65歳。さすがクロサワ、映画史に残るスケールのでかい「谷間」ですが(ちょっと不謹慎かな)、果たしてこれには更年期が関係しているのでしょうか?

 私にとって50代後半なんてまだ先の話ですが、仮に「更年期」が来るとして、それを抜けるとどんな気分のものなのでしょう? 次に宮崎監督に取材する機会があれば「もののけ」から「千尋」あたりの体調の変化について聞いてみたいものです。ちなみに、「千と千尋」の舞台である湯屋の玄関のついたてには、「回春」と書かれています。オクサレ様が入ってくるシーンで確認できますので、ご興味のある方はどうぞ。

プロフィール

写真

小原 篤(おはら・あつし)

1967年、東京生まれ。91年、朝日新聞社入社。99〜03年、東京本社版夕刊で毎月1回、アニメ・マンガ・ゲームのページ「アニマゲDON」を担当。08年4月から編集局編集センター員。

検索フォーム
キーワード:


朝日新聞購読のご案内