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「崖の上のポニョ」 すべて世は事も無し

2008年7月7日

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写真「崖の上のポニョ」から、ポニョ(右)と妹たち (C)2008 二馬力・GNDHDDT写真クラゲに乗って町の近くへ写真ポニョを見つけた宗介写真宗介の崖の上の家

 宮崎駿監督の新作「崖の上のポニョ」を7月19日の公開に先駆け、試写で見てきました。至福の101分でした。

 さかなの子ポニョがジャムのビンにはまって苦しんでいたところを、5歳の宗介に助けられます。宗介が好きになったポニョは人間になろうと、自らに秘められた力と父の魔法を解き放ちます。そのため、たくさんの妹たちが巨大な魚と化し、さらに大津波となって町に押し寄せます。人間の女の子になって宗介と再会したポニョですが、崖の上の家で目覚めれば、町はふくれあがった海に飲み込まれていました――。

 というのが前半までのあらすじで、お話自体はごくシンプル。「人魚姫」の翻案ですが、まん丸目玉に下ぶくれのヒロインの顔を見れば察しがつく通りのハッピーエンド。いやもう実に他愛ない。でも楽しくてしょうがない。それは、この映画にあふれる動き、動き、動きのもたらす喜びです。「カリオストロの城」のルパンの大飛翔、「となりのトトロ」のブワッと飛び出すマックロクロスケ、「ハウルの動く城」のヨレヨレ階段のぼり。あの脊髄反射的な快感が、「ポニョ」ではこれでもかこれでもかと続くのです。

 冒頭から、クラゲの大群、ぽんぽこ湧いてくるプランクトン、網が引っかき回す海底のゴミ、ポニョの周りを泳ぐ無数のちっこい妹たち……。モブシーンの連打で、手がきアニメの極致を見せてくれます。その上さらに、灰色の大津波と化した妹たちを従え、「ワルキューレの騎行」にも似た金管の咆吼(ほうこう)に乗り、進軍してくるポニョ(これは宗介が与えた名で、本名はブリュンヒルデ!)。人間だって負けちゃいません。宗介の母リサは小さな車に宗介を乗せ、豪雨を突っ切り波を蹴散らすカーアクションを展開(介護職員ですが、元はレディース?)。何度も何度も押し寄せる怒濤のアニメーションにのまれ、幸福感でおぼれてしまいそうです。

 「となりのトトロ」は、トトロたちのファンタジー世界と大人たちのリアルな世界が交わらないようにできていました。それが普通の映画の「お約束」です。ところが「ポニョ」では、リサは「さかなの子」に平然とインスタントラーメンを振る舞い、魔法を操るポニョの父や海の女神である母も人間側にズカズカと入り込み、大人たちは洪水もひっくるめて風変わりなお祭りでも始まったかのように受け入れてしまいます。戸惑ったり、嘆いたり、疑ったり、警戒したりしません。つまらん段取りと小理屈は大波で蹴散らしてくれるわ、という宮崎監督の高笑いが聞こえてきそうです。

 かたつむり枝にはい  大津波、町をのみ  さかなの娘、息子に添う

 神、海に知ろしめす  すべて世は事も無し

 5歳児の映画なんだから5歳児の感覚と思考で作ればいいんだ。それで映画ができるかって? できるよほら!――私の頭の中の宮崎監督が、楽しそうにがなっています。確かに、5歳児の目から見た世界はとってもシンプルで、驚きと幸福感に満ちています。そう信じられる映画です。

 試写は勤務が休みの日に行きました。もう1本見る予定でしたが試写の日付を勘違いしていたとわかり、ふらふらと公園へ。この気分をじっくり味わおうと、木陰のベンチで缶ビールをブシュッ! 現在41歳のオジサンなので、勘弁してください。もし5歳だったら、目の前の噴水に飛び込んでいたかもしれません。隣のベンチで体育座りしてソフトクリームを食べていたおばあさんが、コーンをちぎってスズメにやり始めました。すべて世は事も無しです。

プロフィール

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小原 篤(おはら・あつし)

1967年、東京生まれ。91年、朝日新聞社入社。99〜03年、東京本社版夕刊で毎月1回、アニメ・マンガ・ゲームのページ「アニマゲDON」を担当。08年4月から編集局編集センター員。

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