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宮崎アニメは「ねじれたラッパ」?

2008年8月4日

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写真「もののけ姫」から、矢を射るアシタカ (C)1997 二馬力・GND写真「スタジオジブリ・レイアウト展」には多数のレイアウトが展示されている=東京都江東区の東京都現代美術館写真「千と千尋の神隠し」から、階段を駆け下りる千尋。奥から手前へ噴出するパワーを感じませんか? (C)2001 二馬力・GNDDTM写真圧倒されるほどの数の「千尋」レイアウト写真「ハウルの動く城」から。玄関前のソフィー(左下)に覆い被さるような建物が、彼女の背負ったものの重さと孤独を感じさせます (C)2004 二馬力・GNDDDT写真レイアウト展会場には一般のお客さんが撮影できるポイントもあります

 「スタジオジブリ・レイアウト展」に行ってきました。場所はおなじみ、夏に必ずアニメ展をやる東京都現代美術館。膨大な展示物に圧倒されますが、じっくり見ていくと実に面白いです。「うーん、肉筆アニメ」とか「ラッパの口」とか「こっちは緊縛ラナ!」なんてブツブツつぶやきながら楽しませていただきました。

 ちょっと説明しますと、映画全体のカット割りと各カットの構図やカメラワーク(アニメではカメラは動かず絵が動くのですが)を書いたものが絵コンテで、これが映画全体の設計図なら、レイアウトは各カットのより精密な設計図です。どこにどんな大きさでキャラクターを置き、どんな背景かが描かれ、どんな演技やカメラワークをするかが指定されています。いわば絵作りの要。これを基に、美術スタッフが背景画を描き、作画スタッフがキャラクターを原画・動画にするわけです。

 ジブリ作品のほか、高畑勲、宮崎駿の両監督が過去に手がけた作品を加え、展示されているレイアウトは約1300点! 「レイアウトのシャワーだ、それー!」「あつあつあつ、もっとうめてちょうだいよ〜」という感じですね。え、どんな感じか分からない?

 欠けた剣を見つめるナウシカの優しい目、戦車の無骨な重量感、アシタカにかすかにほほえむサンの切ない表情、「ガラクタ」ぎっしりのハウルの寝室……。強弱のついた鉛筆の線は生々しくニュアンス豊かで、小物のディテールには想像力があふれ、メカには愛が満ちています。各作品ごとにたっぷり展示された絵の数々をながめていくと、何度も見たシーンなのにドキドキするほど鮮烈、これは「肉筆アニメ」とでも呼びたい迫力です。レイアウトに書き込まれた宮崎駿監督の指示を見つけるのも楽しみの一つ。腐海の俯瞰(ふかん)カットには「雄大に!!」、油屋に入ってくるオクサレ様には「けっこうやさしいカオ」と書き添えてありました。

 ジブリでの高畑監督と宮崎監督の作品のレイアウトは、ともに密度が濃いのですが別の味わいがあります。ナマの線がその違いを際だたせています。高畑作品の方は端正で写実的で居住まいを正した風ですが、宮崎作品はちょっと行儀が悪くダイナミックで画面にグイッと引き込まれそう。宮崎監督本人が「僕のレイアウトはパース(透視図法)が合ってない」と認めるように、空間に誇張やゆがみがあって、それがうねるような流れを生み出しているのだと思います。

 言葉にしづらいですが、画面の中の手前にあるものがグッとせり出し張り出し、奥のものは重なりすぼまっていく。たとえれば、観客に向けてラッパの口が向けられているような、そんな空間と言ったらいいでしょうか。しかもその管は、奥に向かって曲がったりねじれたり。いくつものレイアウトに、そんなねじれた「ラッパの口」が見えた気がしました。それが、観客の顔に強烈なエネルギーを浴びせかけたり、画面の中に吸い込もうしたりするのではないでしょうか。

 この「ゆがみとうねり」は画面の隠し味ですが、それが具現化してしまったのが油屋やハウルの城のような奇怪な建物や湯婆婆の大きすぎる顔ではないか、「崖の上のポニョ」にいたってはもう世界全体が不定型なぐにゃぐにゃになってしまったのでは――。と様々に妄想が膨らむ展覧会ですが、ジブリ以前の「アルプスの少女ハイジ」や「母をたずねて三千里」などのレイアウトがけっこうたくさん展示されているのもうれしいところです。

 「三千里」のヒロイン、フィオリーナのスカートが風にあおられるロングショットについて、担当アニメーターに動きを指示する11枚もの絵が展示されていて、そこに「サイズ小さいのですがいいカットにして下さい! カオも出来るだけかきこんで下さい」という宮崎さんの熱い思いのこもった書き込みが。ぱっと振り向いたらすぐ後ろの壁に「未来少年コナン」のヒロイン、ラナがマストに縛られながらもりりしく前を見つめているいい絵があってドッキリ。…まあ何というかこの展覧会、量だけでなくチョイスも心憎いばかりにお見事だこと。

     ◇

 「スタジオジブリ・レイアウト展」のチケットは日時指定の予約制。問い合わせはハローダイヤル03−5777−8600、ローソンチケット0570−000−777。

プロフィール

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小原 篤(おはら・あつし)

1967年、東京生まれ。91年、朝日新聞社入社。99〜03年、東京本社版夕刊で毎月1回、アニメ・マンガ・ゲームのページ「アニマゲDON」を担当。08年4月から編集局編集センター員。

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