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人形に目玉を張りつけるのは邪道なのか

2008年8月25日

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写真受賞者会見での山村浩二監督(左)と加藤久仁生監督=広島市で写真「カフカ 田舎医者」から DVDは松竹から発売中写真「つみきのいえ」から DVD「pieces of love vol.1 つみきのいえ」が10月24日にロボットから発売されるそうです写真「ミセス・ジー」写真「オクタポディ」は広島で国際審査委員特別賞を受賞しました写真「マダム・」トゥトゥリ−プトゥリ」も国際審査委員特別賞写真会見するクリス・ラビス監督(左)とマチェック・シェバウスキ監督=広島市で

 前回に続き第12回広島国際アニメーションフェスティバルの話です。映画祭のメーンは、56の国・地域の1656本の中から選ばれた短編76作品が競うコンペティション。結果は、グランプリが「カフカ 田舎医者」(山村浩二監督)、「愛と平和」という大会テーマにふさわしい作品に贈るヒロシマ賞が「つみきのいえ」(加藤久仁生監督)と、日本作品のワンツーフィニッシュでした。しかもこの2人は、世界最高峰のアヌシー国際アニメフェスのグランプリ受賞者。いやはや、こんな時代が来ようとは。

 「田舎医者」はすでに国内公開されDVDも出ていますのでご覧になった方も多いことでしょう。震え、ゆがむ描線は、見る者の神経をぴりぴりと刺激するような感じがして、額は燃えるように熱くしかし背筋は凍りそうに寒い、そんな病的な絶望、焦燥、不安を醸し出します。私としてはユーモアがあった方が山村さんらしい気がするのですが、わずかなゆるみもない画面と構成で、完成度の高さにはうならされます。

 「つみきのいえ」は、6月にアヌシーのグランプリ受賞をすでに記事にしましたが、この広島が初見でした。海面が上昇し続ける世界で、海の上に突き出た家を上へ上へと建て増しして暮らすおじいさんが、ある日、潜水具を身につけ階下へ潜っていきます。息子夫婦との暮らし、子供の誕生、そして妻とふたりの若き日……部屋を一つくぐるたびに思い出がよみがえり、人生をさかのぼる旅となります。積み重ねた時間の鮮やかな視覚化、そして感傷を押しつけない抑制のきいた演出が見事。おじいさんは表情を変えませんが、そのはき出す泡が、涙のしずくにも見えてきます。

 「10分で泣ける話を」というのがプロデューサーの注文だったそうですが、「泣ける」というより「ジーンとする」感じ。31歳独身の加藤監督は「孤独死が問題になっているし、人生の終わりにさしかかった人の孤独とはどんなものだろうと思った。自分には実感としては湧かないけど、半身不随になって亡くなった祖父のことや、たまに会うたびにどんどん年をとっていく田舎の両親のことを考えたりして、想像を膨らませた」と話してくれました。「上昇する水面と、上へ積み上がった家、という断片的なイメージが出発点で、アヌシーでも聞かれましたが環境問題は意識していません」とのこと。ちなみに赤塚不二夫さん似の加藤監督は、大学時代の恩師・片山雅博さん(このフェスの実行委員でもあります)の厳命により、コンペ上映後の舞台挨拶で「シェー!」をさせられました。

 コンペではほかに、命が宿ったダッチワイフとさえない男の純愛が観客に大受けだったチェコの人形アニメ「ミセス・ジー」、タコが素晴らしいスピードとバネを持ったアクションスターであることに気づかせてくれたフランスのCGアニメ「オクタポディ」などが印象に残りました。

 そして76本目に上映された大トリは、アカデミー賞短編アニメ部門にノミネートもされたカナダの人形アニメ「マダム・トゥトゥリ−プトゥリ」。NHKハイビジョンで5月にその作品とメーキングがいち早く放映されたので、注目していました。不思議な夜行列車に乗り込んだ女性の幻想体験がホラーめいた雰囲気で描かれます。

 目を奪われるのは、人形のようで人形でなく、人間のようで人間でない、生々しくなまめかしい人形の演技。クリス・ラビス、マチェック・シェバウスキ両監督によると、人間の役者に演技をさせた上でそれを基にアニメートして細かな仕草を拾い、さらにあとから役者の目を一コマ一コマ人形の顔に合成していったそうです。タネを明かされると「なあんだ」と思うところもありますが、第一印象は見たこともない異次元的な世界です。

 ただ人形アニメというものはつきつめれば、制約され様式化された表情や動きから人間の感情のエキスのようなものがにじみ出し、そこに独特の神秘性が立ちのぼるもの、と思います。なのでこの作品は一つの映像作品としては面白いものの、人形アニメの本道からは逸脱している気がします。閉会式後のパーティーで、知り合いの人形アニメ作家の方が何やら渋い顔でこの作品の話をしているので、「やっぱりあれは邪道ですか?」と声をかけたら「邪道ですよお」。うーん、そうなのか。

 日本でもやがて見る機会が来るかと思いますので、その折は逃さずご覧下さい。

プロフィール

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小原 篤(おはら・あつし)

1967年、東京生まれ。91年、朝日新聞社入社。99〜03年、東京本社版夕刊で毎月1回、アニメ・マンガ・ゲームのページ「アニマゲDON」を担当。08年4月から編集局編集センター員。

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