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強引だって、底抜けだって

2008年11月17日

  • 筆者 小原篤

写真DVD「カンフー・パンダ」は角川エンタテインメントから12月5日発売予定写真DVD「ハッピーフィート」はワーナー・ホーム・ビデオから発売中写真ブルーレイ「アイ・アム・レジェンド」はワーナー・ホーム・ビデオから発売中写真DVD「アルビン 歌うシマリス3兄弟」は20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパンから12月17日発売予定写真「トロピック・サンダー 史上最低の作戦」は11月22日公開写真戦争映画のパロディーがふんだんに盛り込まれている (C)2008 DreamWorks LLC.All Rights Reserved.

 先日とあるトークショーで、「宮崎アニメはつじつまの合わない展開が目立つ。対照的なのがハリウッド作品で、脚本をロジックで固めていて――」なんていう話が出ました。「えー、そーかなぁ」。それを聞いていて心の中でつぶやきました。「ハリウッドの娯楽作って、見せ場を優先してスジが強引だったりお座なりだったりしない? アレだってそうだし、アレなんかもう…」。というわけで、思いつくままに挙げてみました。公開済みの作品についてはネタバレもありますので、ご注意の上お読み下さい。

 トークで引き合いに出されていたハリウッドのCGアニメ「カンフー・パンダ」(08年7月公開)。確かに、ダメダメ主人公が意外な力を発揮しヒーローに、という筋立ては常道で、オーソドックスな作りです。でも不満なのは、肝心の「主人公が強くなるきっかけ」がどうもハッキリしないところ。観客が「エッ!」と驚き、しかしそれまでの伏線から「なるほど!」と納得する、そんな展開であるべきなのですが、「ここらへんで強くなるのがこの手の映画のお約束だから」といったお座なりな感じがしました。

 でもこの作品はアラが目立たない方。ペンギンがダンスをするCGアニメ「ハッピーフィート」(08年3月公開)は、主人公の境遇が180度変わる大展開の場面をすっ飛ばします。故郷から遠く離れ水族館で廃人(廃ペンギン)のように生きる主人公が、忘れかけていたダンスを思い出し、踊り始めます。サカナ食って泳いでヨチヨチ歩きする普通のペンギンしか知らない人間はビックリ! 「さあ、主人公はTVタレントに? それとも研究所送り?」などと予想しましたが、次の場面は、主人公が発信器をつけ南極の故郷に帰ってきて人間たちが跡をつけてくる、というものでした。おまけに主人公は、人間と言葉は通じないけれど故郷の仲間たちの窮状をダンスで伝えた、とまで言います。余りに意表を突かれて笑ってしまいましたが、「水族館でどん底」→「故郷に歓喜の帰還」という見せ場をつなぐ理屈が思いつかなかったんでしょうか? なのでこの作品がアカデミー長編アニメ賞を獲ったのにはとても驚きました。みんな気にならなかったのかな…。

 鮮烈だったのは、アニメじゃありませんがウィル・スミス主演のSF大作「アイ・アム・レジェンド」(07年12月公開)。「うーん、困ったなあ」「どうした?」「この脚本さ、この人物がこの事実を知ってないと話が成り立たないけど、どうやっても知りようがないんだよね」「神様のお告げってことにすれば?」「そうか! じゃ、そうしちゃおう」なんてやりとりが、脚本家とプロデューサーの間で交わされたんじゃないのかなあ、まさかなあ…。ちなみに、「どうしてそんなことを知っている?!」「…神様のお告げよ」というセリフは本当に出てきます。冗談みたいな話ですが、冗談ではありません。

 強引な展開も、開き直ればギャグです。今年9月に公開された「アルビン歌うシマリス3兄弟」は、売れない作曲家(ジェイソン・リー)が人語を操るリスの3兄弟(CGキャラ)と出会います。「リスがしゃべってる!」と作曲家が仰天すると、リスたちは「でもコトバが出ちゃうんだ」――これでスルー。クライマックス、カゴに閉じこめられさらわれたリスたちを救うべく、作曲家が車で追います。しかしひょいと肩に現れたのはリスたち。「どうやって逃げてきたんだ?!」「僕たちしゃべれるんだから逃げ出せるんだよ」――これでスルー。もう何というか、頭なんて使うだけ損だよ、と言われているようなものです。

 こういう底が抜けたバカバカしい展開は笑って済ませられますが、そうでない作品もあります。12月5日公開予定のピクサー最新作「WALL―E ウォーリー」は、主人公ロボットの恋物語もCGの出来も実に素晴らしいのですが、地球の環境破壊を物語の発端としながら「大量消費社会はずっと続くよ」「環境問題はほっとけば解決するよ」と考えているとしか思えない脳天気さが映画を覆っています。物語の前提がなし崩しなのですが、まだ公開前なのでこの話はいずれまた。

 正しいバカ映画があるとするなら、頭もお金も使って笑わせてくれる映画でしょう。11月22日公開の「トロピック・サンダー 史上最低の作戦」は、落ち目のアクション・スター(ベン・スティラー)、下ネタ過剰コメディアン(ジャック・ブラック)、役にのめりこむやり過ぎ演技派俳優(ロバート・ダウニーJr.)の3人が、戦争映画のロケで、監督にダマされ本当の戦場に放り込まれるという物語。

 のっけから、コメディー映画とは思えぬ豪勢な戦場シーンに驚き、黒人兵を演じるために黒人になる手術までしちゃった俳優を演じるダウニーJr.の迫真メークに大笑い。弾を食らった兵士の腹からはらわたが抱えきれないくらいあふれ出るブラックなギャグでまた大笑い。「俳優は撮影と思いこんでいるが実は…」という設定と「特殊効果マンが活躍」という見せ場が三谷幸喜脚本・監督の「ザ・マジックアワー」とかぶっていますが、この作品もテーストこそ違え「マジックアワー」に負けず劣らず、ネタを詰め込み伏線を張ってラストに収れんさせる手際が見事です。強引で底抜けに見えて、実はアタマがいいわけです。

 このコラムも、ギャグを盛りつつ巧みな仕掛けや伏線があってそれが鮮やかにオチにつながる、という展開を目指しているのですが、ついつい底が抜けて「悪のり」というおしかりを読者の方から受けることがあります。自戒しなくては…。

プロフィール

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小原 篤(おはら・あつし)

1967年、東京生まれ。91年、朝日新聞社入社。99〜03年、東京本社版夕刊で毎月1回、アニメ・マンガ・ゲームのページ「アニマゲDON」を担当。08年4月から編集局編集センター員。

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