現在位置:
  1. asahi.com
  2. エンタメ
  3. 映画・音楽・芸能
  4. コラム
  5. 小原篤のアニマゲ丼
  6. 記事

プリズナーNo.6は永遠に…

2009年1月26日

  • 筆者 小原篤

写真パトリック・マッグーハン(65年)=AP/CBS−TV写真「プリズナーNo.6」DVDボックス(東北新社)

 「パトリック・マッグーハンが死んだ!」

 16日の朝、新聞を開いて思わず声を上げました。ダレソレ?というのが大方の反応かもしれません。弊紙に短く載った訃報では「刑事コロンボ」の出演・演出歴に触れたのみでしたが、伝説のカルトドラマ「プリズナーNo.6」を作り、主演した人であります。

 ところはロンドン。スパイらしき男が上司に辞表をたたきつけ、家で旅支度をしていると、玄関の鍵穴から催眠ガスが!昏倒から目覚め窓を開けるとそこはロンドンではなく、リゾートホテル風の奇妙な「村」で、男は「No.6」と呼ばれる。辞職の理由を聞き出そうとする村の指導者「No.2」から様々なワナをしかけられ、村外へ脱出しようとすれば不思議な白い球体に阻まれるが、抜群の頭脳と鋼の精神力を持つNo.6は、No.1の正体を探り自由を取り戻そうと抵抗を続ける。

 ――というのがあらすじで、67〜68年に英国で放映された(69年にNHKでも)全17話のドラマですが、こんなものを本当にテレビでやったのか?OKを出した局のプロデューサーはクビにならなかったのか?視聴者から苦情は来なかったのか?と心配になるくらい、ひねりにひねったヘンな作品です。偽の脱出作戦といった手の込んだワナはサスペンスの醍醐味にあふれていますが、洗脳やら逆行催眠やら人格交換といった心理攻撃ネタが多く、見る者に緊張を強い神経をピリピリ刺激しますし、ちょっとテーマパークっぽい外観の村で人々がインチキくさい選挙に熱狂したり人間を駒にしたチェスに興じたりといったビジュアルは、とってもシュール。これじゃあ台所で洗い物をしながらチラ見というわけに行きません(そんな視聴者は想定していないでしょうが)。

 全体主義対自由の闘い、東西冷戦下の強迫観念の反映、官僚主義や管理社会への批判といった見方をされるようですが、主人公の素性や辞職理由や敵の正体など核心部分を「空白」にした寓話なので、いかようにも解釈が可能で古びることはありません。「村」に満足し「外」に出ようとも思わない呆けた顔の住人に目を転じれば、現代に生きる我々の似姿に思えます。ネットや携帯といった万能感を満たすものに囲まれ、あらゆる欲望に対応して先回りした商品が用意され、自由に振る舞っているようで特定の選択肢に誘導されている、そんな生活は王様のようで実は奴隷なのではないか?個人の手に負えないほど複雑で巨大なシステムの「外」へ出ることは可能なのか?それは果たして「自由」と言えるのか?なあんてことをモヤモヤと考えさせるのです――なあんてことを偉そうに書きましたが実際にこれをやったのが映画「マトリックス」。映画の終盤に「プリズナーNo.6」の映像が一瞬だけ出てきます。インスピレーションをくれた作品に敬意を表したのでしょう。

 万人受けは絶対しませんが世界中にマニアックなファンがいるこのドラマ、押井守が心酔し「エヴァ」の元ネタの一つなどといわれ、見たい見たいと思っていたところ02年にDVDボックスが出ました。一気に見る時間はないので途切れ途切れに見て、「あとディスク1枚で最後だなあ、いずれヒマが出来たときに見ることにしよう」……などと「村の住人」よろしくボケェーと時を過ごしていたら今回の訃報。17話見るのに何年かかってんの!とおしかりの声が飛んできそうですが、てんで筋金の入っていないユルいファンで、どうもすみません。

 お詫びと追悼の思いを込め、DVDをセット。息子がやってきて「どんな話?」と聞くのであらすじを説明してやると、「わかった!それぜんぶ夢なんだよ。催眠ガスっていうのがヒントだね」。

 「そのオチは禁止されている!」なんて子供に言っても仕方ないので視聴続行。もちろん夢オチなんかではなく、ナゾをナゾのまま残しながら物語を軽やかに解体、爽快感さえ残す鮮やかな幕切れでした。うーん、カッコいい。

 製作総指揮、監督、脚本、主演パトリック・マッグーハン。「答えはすべて、シリーズのエピソードの中にあると言っておこう」(01年、日本版DVDスタッフの質問状への回答)という言葉を残し、09年1月13日、ロサンゼルスで死去、80歳。死因は、明らかにされていません。

プロフィール

写真

小原 篤(おはら・あつし)

1967年、東京生まれ。91年、朝日新聞社入社。99〜03年、東京本社版夕刊で毎月1回、アニメ・マンガ・ゲームのページ「アニマゲDON」を担当。08年4月から編集局編集センター員。

検索フォーム
キーワード:


朝日新聞購読のご案内