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時代を映す「マンガ家マンガ」

2009年2月2日

  • 筆者 小原篤

写真辰巳ヨシヒロ「劇画漂流」上(青林工芸舎)写真小林まこと「青春少年マガジン 1978〜1983」(講談社)写真島本和彦「アオイホノオ」(小学館)写真大場つぐみ・小畑健「バクマン。」(集英社)

 「マンガ家マンガにハズレなし」――マンガ家を描いたマンガは秀作が多いとよく言われますが、確かにその通り。最近立て続けに、面白くてタメになるマンガ家マンガを読みました。

 「劇画漂流」上・下(青林工芸舎)は、辰巳ヨシヒロが自らをモデルに「劇画」という新たな表現の確立に挑んだマンガ家たちを描いた作品です。時代は終戦から60年安保まで。雑誌に投稿するマンガ少年がやがて貸本マンガの売れっ子へと成長する青春物語であり、アクの強いさいとう・たかを、キザな佐藤まさあきら個性的な面々が登場、エネルギッシュな大阪の貸本業界が描かれます。

 印象的なのはリアルな生活感、言い換えれば、生々しい「カネ」と「性」。作品の持ち込みに原稿料の受け渡し、安食堂のママと初めての大人のキス、女子高生とぎこちない抱擁…。マンガにも「訥弁(とつべん)」というのがあるのでしょうか、絵も語り口も派手さはまるでありませんが、出版社に漂うインクの匂い、狭い下宿にこもる汗とカビの匂いがじんわり伝わってきます。

 「青春少年マガジン 1978〜1983」(講談社)は、小林まことが自身のデビューから「1・2の三四郎」でブレイクするまでをつづります。梶原一騎、柳沢きみお、しげの秀一らが登場する中、ドラマの核を担うのは、同時期にマガジンで活躍した小野新二、大和田夏希、小林の「新人3バカトリオ」。酒を飲んではバカ騒ぎ、人気を競って意地の張り合い、文字通り我が身を削る週刊連載の過酷な作業の果て、3バカには哀しい別離が待っています。帯には「実はボロボロ泣きながら描きました」という小林の言葉。笑いとナミダの熱血マンガ青春譜です。

 「青春少年マガジン」の「熱血」がストレートなら、ほぼ同じ時代を描いている「アオイホノオ」(小学館)の「熱血」は自己演出的、遊戯的、デフォルメされたパロディーの趣があります。作者島本和彦が自らをモデルとして、マンガ家志望の自意識過剰・自信過剰な青年を描きます。マンガ雑誌を開いては、「ナイン」のあだち充に「女の子が可愛いだけではダメなんだ!」とダメ出しし、「うる星やつら」の高橋留美子に「俺だけは認めてやろう!」と言い放つ。女の子を相手にアニメ話に漫才の物まね、マンガ本に埋もれた部屋で通販の器具を使い独り筋トレ、といった青春はリアルではありますが、切ない生活感というより、バブル前夜のモラトリアムなお気楽さが漂います。

 「バクマン。」(集英社)は、作・大場つぐみ、画・小畑健の「デスノート」コンビが週刊少年ジャンプに連載を始めた注目作です。時は現代、中学生のサイコーとシュージンの2人が作・画を分担し少年ジャンプデビューを目指す物語なので、上記3作のような作者自身の回想的要素はありませんが、読者にとってはどうしたって二重うつしとなりますし、単行本に大場のネーム(下書き)とそれを基にした小畑のネームを並べて載せるなど、作者側もどうやら意図的です。

 大場と小畑という作者コンビが、サイコーとシュージンというマンガ家(の卵)コンビを描き、そのサイコーとシュージンがマンガの中でマンガを生み出す、というメタな仕掛けは、いろんな深読み、勘ぐり、邪推を誘います。作中でサイコーが語るマンガ家と編集者の逸話はウワサか実話か。実在のジャンプのヒット作を引き合いに「何がウケるかなぜ売れるか」とてらいなく考えるサイコーとシュージンは作者自身の投影か。サイコーとシュージンの創作過程は、大場と小畑のネタばらしではないのか。たとえば、「実は好きだったの、応援するわ」的なヒロイン(超かわいくて声優志望でクラスメートのお嬢様)は何だか主人公に都合が良すぎますが、コレは大場と小畑がぬけぬけとウケ狙いの要素を入れ、そこを読者に見抜けと挑発しているのではないか…とか。設定も筆致も、精緻で技巧的。言ってみれば洗練の果ての人工美で、「劇画漂流」の生活臭からはずいぶん遠くへ来たもんです。

 同じマンガ家マンガながらこの4作は、それぞれの時代の持つ異なる空気が、それぞれの作者の作風とマッチしているように見えます。時代が作者を作り、その作者が自分の視点で時代をつかみ出す、そうして抽出された結晶がこれらの作品なのでしょう。ただ、こうしたマンガ家マンガ、とりわけマンガが熱い時代(今だって熱いと言えなくはないでしょうが)を舞台にしたマンガがたくさん出てくるのは、マンガ自体が自らの過去を懐かしんでいるようで、これはこのメディアが成熟から老いへ入ったことを示す現象なのではないか――まあ、これも勘ぐり、邪推の類かもしれません。

 本当は「少女漫画」(松田奈緒子作、集英社)と「ビアティチュード」(やまだないと作、講談社)もオススメしたかったのですが、長くなりましたので今回はこのへんで。

プロフィール

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小原 篤(おはら・あつし)

1967年、東京生まれ。91年、朝日新聞社入社。99〜03年、東京本社版夕刊で毎月1回、アニメ・マンガ・ゲームのページ「アニマゲDON」を担当。08年4月から編集局編集センター員。

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