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本当ですか、大塚さん

2009年2月9日

  • 筆者 小原篤

画像三鷹の森ジブリ美術館配給による「ルパン三世 1st.TVシリーズ」ポスター写真語る大塚康生さん=スタジオジブリで画像「エメラルドの秘密」から、ショートヘアの不二子。左は変装したルパン写真大塚さん(右)と筆者=スタジオジブリで

 スタジオジブリとは取材相手としていろいろおつきあいがありますが、仕事を頼まれたのは初めてでした。「三鷹の森ジブリ美術館」配給で「ルパン三世」第1シリーズ(71〜72年)を劇場公開することになり、作画監督だった大塚康生さんのインタビューを同時上映したいので、その聞き手を私にやってほしい、とのこと。「もっと詳しい人がほかにいるのにナゼ?」とは思いましたが、大塚さんの楽しいお話が聞けるんならありがたい(しかもあとで原稿を書かなくてもいいからラクじゃん)とホイホイ引き受けました。

 大塚さんは「太陽の王子ホルスの大冒険」「未来少年コナン」「じゃりン子チエ」など数多くの作品を手がけてきた名アニメーターで、現在77歳。何を隠そう私は昔々、大塚さんのマネをしてハンチング(大塚さんのトレードマーク)を被っていたことがあります。「アニメ記者」となってから取材やパーティーなどで何度かお会いし、ときに現場の愉快な思い出話を、ときに現在のアニメに対する厳しい苦言をおうかがいしてきました。

 ルパン第1シリーズは、大隅正秋監督のもとダークでアダルトでアンニュイな世界でスタートしましたが、視聴率不振のため監督降板、演出が「Aプロダクション演出グループ」(高畑勲・宮崎駿)に代わり、ドタバタが加味されお色気が後退しました。子供の頃は後半のコミカル路線が好きでしたが、オトナになるにつれ前半のハード路線が輝きを増して見え、一粒で二度おいしい味わい深い作品です。自由人という点は不変でも、ルパンの持っていた貴族的な退廃は貧乏人の気楽さに替わり、愛車はベンツSSKからフィアット500になり…内実はツギハギでも知らずに見れば融通無碍(むげ)というか「いい加減」。そもそもこんな出発だったから、その後も作品ごとに顔や雰囲気が違う「ルパン」が産まれ、許容されてきたのではないかなあ、と思います。

 その第1シリーズを通して作画監督を務めた大塚さんにお話をうかがうべく、昨年暮れ、ジブリの会議室で待っていると、いつもの穏やかなほほえみと共に大塚さんが現れました。約1時間半、縦横に語っていただいたそのお話は(編集で短くされてはしまいますが)劇場でじっくりご覧いただくとして、ここでは私個人にとって印象的だったことを二、三ご紹介しましょう。

 一つは、明朗快活まんが映画の東映動画(現・東映アニメーション)出身の大塚さんが、大隅監督のダークな路線に初めから共感できたのか、とたずねた時のお答え。

 「いや、あまりできなかったです、実は。非常に不道徳的だと思っていましたね。後の子供向けのほうが好きなんです」

 ええっ、本当ですか。大塚さんによれば、大隅監督はキャラクターや世界観はかっちり揺るぎない人で、かつ大塚さん自身の信念「アニメーターは演出家を立てるもの」から、その路線に従ったとのことです。

 もう一つ。不二子はロングヘアのセクシーな美女から後半はショートヘアのキュートなおねえさんに変わりますが、どっちがお好きなんですか?

 「変わった方が好きですね」

 ええっ、私はロングヘアの方が好きなのに(ま、これは勝手な好みですけど)。いいんだけどなぁ、ハイライトの入った濡れた唇や潤んだ瞳、くすぐられたりひんむかれたりするお色気描写……(勝手な好みですけど)。

 さて上映は、東京・渋谷のシネマ・アンジェリカで3月14日から。高畑・宮崎演出による「7番目の橋が落ちるとき」(美少女を救うルパンが見どころ)、「エメラルドの秘密」(銭形のダンスが豪快で愉快)、「どっちが勝つか三代目!」(ルパンや銭形の大群がバカバカしくて大笑い)の3話と、大塚康生・宮崎駿インタビュー映像(約30分)を上映するそうです。「この聞き手うるさいなあ」とか思う方もいるかもしれませんが、大塚さんのお話は面白いので許して下さい。

プロフィール

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小原 篤(おはら・あつし)

1967年、東京生まれ。91年、朝日新聞社入社。99〜03年、東京本社版夕刊で毎月1回、アニメ・マンガ・ゲームのページ「アニマゲDON」を担当。08年4月から編集局編集センター員。

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