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遙かなる河の流れの「おくりびと」

2009年3月16日

  • 筆者 小原篤

写真「おくりびと」から、山崎努(左)と本木雅弘(右)写真モッくんと広末涼子(右)は夫婦役写真DVD「お葬式」(ジェネオンエンタテインメント)写真DVD「シコふんじゃった。」(角川エンタテインメント)写真DVD「鉄道員」(東映ビデオ)

 1本の映画が意外な大ヒットになったり賞を取ったりしただけで、それが何かの時代の象徴ととらえるのはほとんど一種の妄想ではないか、と思いつつも、「傾向と分析」が好きな新聞社(本欄第1回を参照)に籍を置く記者の習い性で、ついついいろんなことを考えてしまいます。遅ればせながらようやく見た、「おくりびと」のことです。

 葬儀の折に遺体を棺に納める「納棺師」が山崎努、その仕事に就く元チェリストが本木雅弘、その妻が広末涼子。こういうキャストなわけですが、葬式と山崎努と来ればどうしたって伊丹十三監督の「お葬式」(84年)を思い出します。その連想は実際の映画を見ても裏切られません。有無を言わさぬ強引さ、揺るがぬプロ意識、そしてワケあり熟女(余貴美子)が寄り添っているあたり、この山崎納棺師は若干枯れていますが伊丹映画のキャラっぽい。「ここんとこ陽気がいいからヒマだけどねー」なんてセリフの毒気を含んだリアリズム、焼いた白子や骨付きチキンにかぶりつくねちっこい描写も、伊丹調です。

 「おくりびと」は、アニメやマンガ原作の映画など若者向け作品がのさばる市場にシニア世代の観客を呼び込んだわけですが、思えば「お葬式」も、「こんな縁起でもない企画当たらない」といった予想を覆して大ヒットしたのは、動物映画やアイドル映画ばかりで「見たい映画がない」と嘆いていた中高年の渇きを癒してくれたからでした。

 さて、慣れない納棺師の世界にモッくんが驚き戸惑い笑いを誘うシーン、こちらは周防タッチです。「シコふんじゃった。」(92年、周防正行監督)ではりりしいまわし姿でしたが、この映画では、とある理由でオムツ姿(これが爆笑もの)を披露。しかし肉体美は変わりません。納棺師として見せる優雅な所作は、モッくんが僧侶を目指して修行する「ファンシイダンス」(89年、周防監督)を思い出させます。さすがモッくん「こんなステキな納棺師に送られたいわ」と思わせます。

 「シコ〜」の主人公は、「大学というレジャーランド」を満喫し卒業を控えた学生で、映画もモラトリアムな空気に満ちています。しかし公開年を確認したら、すでにバブル崩壊が始まっていたんですね。そんな映画がヒットしてしまうあたりのズレたノンキさが、余計に時代を象徴している気がします。入社2年目だった私も、不景気の実感なんてまるでありませんでした。ちなみに、ご存じの方も多いでしょうが周防監督は伊丹監督の弟子筋。それを思いながら「おくりびと」を見ると不思議な感慨にとらわれます――なんていうのは少し思い込みが過ぎるでしょうか。

 思い込みついでに書いてしまいますが、広末を「時代のイコン」だと感じた映画があります(ちょっと大げさですけど)。大ヒットした「鉄道員」(99年、降旗康男監督)です。見た私は心の中でつぶやきました。「これは援交映画だ」

 この映画に感動された方、「妄想もいい加減にしろ」なんて怒らないで下さい。仕事一途に生きてきた男が「無垢な少女」に癒されゆるされ浄化される、という物語の構図が、援助交際におぼれる中高年男性の心理にハマるなあ、と思ったのです。そうであれば、幼くして死んだ子がセーラー服の美少女(広末)になって現れ、暖房の効いた室内でも仕事着(分厚いオーバー)を脱がない初老の男(高倉健)と差し向かいで鍋をつつく、という何とも奇妙な光景が、絶妙な暗喩となるのです。

 ちょうど「鉄道員」を見る直前に、公開中だった「ロリータ」(エイドリアン・ライン監督)などをネタに「美少女への幻想」をテーマにした記事を書き、援交にも触れたのでこんな不届きな連想が働いたのですが、その数カ月後、広末はやはり援交的なイメージを匂わせる「秘密」という映画に出演、私の妄想をより強固なものにしてくれました。娘(広末)の体に死んだ妻の心が宿ってしまい、娘であり妻である女と同居することになった中年男の物語。これを監督したのは「おくりびと」の滝田洋二郎監督です。

 「おくりびと」で、無残な遺体にショックを受けたモッくんは衝動的に広末の体を求めます。救いを求めるようなその行為に応えるのは、肉感的な美女ではなく「無垢な少女」の面影を残す広末であるべき、と滝田監督は考えたのではないでしょうか。そして「おくりびと」の後半は、「鉄道員」のように家族を見送る涙と哀しみに彩られます。そこに静謐(せいひつ)な趣を加えるのが雪国の風景であることも、共通しています。

 「お葬式」を見たとき親を送るくらいの年齢だった観客の方は、「シコふんじゃった。」公開の頃にわが子を社会に送り出し、「鉄道員」あたりで定年を迎え、今は自分や配偶者が送られる側というトシになって「おくりびと」を見ているのかも。なんだか妙にキレイな図式ができました。

 人生が映画か、映画が人生か、あ〜あ〜河の流れのように〜。よくわからないシメですみません。

プロフィール

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小原 篤(おはら・あつし)

1967年、東京生まれ。91年、朝日新聞社入社。99〜03年、東京本社版夕刊で毎月1回、アニメ・マンガ・ゲームのページ「アニマゲDON」を担当。08年4月から編集局編集センター員。

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