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記者ってヤツは…

2009年4月13日

  • 筆者 小原篤

写真ロサンゼルス・タイムズのスティーブ・ロペス記者=東京都内で写真「路上のソリスト」から、ロペス(ロバート・ダウニー・Jr.)とエアーズ(ジェイミー・フォックス) (C)2008 DREAMWORKS LLC and UNIVERSAL STUDIOS

 新聞記者でコラムも書いて、なんてことをしている同業者の大先輩に、先日インタビューしました。米ロサンゼルス・タイムズのスティーブ・ロペスさん(55)。自らのコラムを原作とした米映画「路上のソリスト」(5月公開予定)のプロモーションで来日したのです。

 映画は、心を病んだホームレスの音楽家エアーズ(ジェイミー・フォックス)とロペス(ロバート・ダウニー・Jr.)の交流を描く、実話を基にしたヒューマンドラマです。コラムのネタにいつも困ってるロペス記者、自転車ですっころんで顔面強打、なんて自らの不幸も「やれありがたや」とばかりにすぐネタにします(これも実話)。まさに転んでもタダでは起きぬ記者魂。同僚たちは、顔の派手なキズをからかったり、「なんでオレの特ダネよりオメエのケガの方が読者の反響が多い」と噛みついたり。このへんも何だかリアルです。

 おまけに社内では、あっちで「部数や広告収入の減少が止まらない」と偉い人がボヤき、こっちで「早期退職で君の退職金はこれだけ優遇され…」なんてヒソヒソ話が行われ、不景気なこと不景気なこと。ロペスさん本人も私が自己紹介すると「君の会社はどうだい?」。こちらの不景気な話をすると「どこも同じだね」。ええ、そうなんです。さて劇中のロペス記者はそんなシビアな状況の中、エアーズのことを書いたコラムが引き起こす波乱をくぐりぬけ、彼との心のつながりに希望を見いだすのです。

 記者という肩書きをしょっての人付き合いというのは、いろいろ難しいものです。そこはそれ、下心やら打算やら腹づもりやらがあったりなかったりで、それも承知で付き合って下さる相手はむしろ気楽です。エアーズのように、駆け引き抜きに純粋な気持ちをぶつけ、「僕の神様だ」とまで言って頼ってきたら、きっと困るでしょう。ネタになるからと言って近づいたことが、何だか卑しく感じられてしまうこともあるでしょう(仕事なんですけど)。

 映画を見て、思い出したことがあります。私に向けられた、ある少女の笑顔です。彼女の笑顔は純粋そのものでしたが、そのことが余計に私の心をしめつけたのです。

 今から18年前、まだ記者1年目の私は、6歳の女の子が砂のサイロに落ちた事故を取材しました。約20分間「生き埋め」状態になりながら奇跡的に命を取り留めた、という記事は社会面トップになりました。続報を書けとの指示を受け、父親や消防署員に取材し、さらに彼女の病室に赴きました。

 両脚のももからつま先まで包帯に包んだ姿は痛々しく、事故の話になるとおびえるという彼女の前で、私は母親と世間話をし、母親に甘えたり絵本を読んだりする彼女を見つめました。彼女の写真を撮るためカメラを用意してきたのに、撮影したいと言い出せず帰りました。そんな訪問を何度か繰り返した後「これ以上先には延ばせない」と思い「撮らせてくれませんか」と切り出しました。ゴツい一眼レフではおびえさせてしまうかもと思い、用意したコンパクトカメラを構えると、女の子は私に向かって、はにかむようなほほえみを見せたのです。

 私の訪問を、彼女は嫌がっているものと思っていました。でも訪問を嫌がっていたのは私でした。やましさにとらわれ卑屈になっていたことに気づいた私には、その邪気のないほほえみはこたえました。お礼もそこそこに病室をあとにし、駐車場に通じる非常階段を駆け下りました。いたたまれなかったからです。

 私はすぐに紙面に続報を書き、そしてこの少々感傷的な取材余話は後日、社内誌に書きました。そして今またこのコラムにも。ね、記者ってヤツは…。

プロフィール

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小原 篤(おはら・あつし)

1967年、東京生まれ。91年、朝日新聞社入社。99〜03年、東京本社版夕刊で毎月1回、アニメ・マンガ・ゲームのページ「アニマゲDON」を担当。09年4月から編集局文化グループ記者。

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