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メビウス、メリエス、メトロポリス

2009年5月11日

  • 筆者 小原篤

写真今回の講演&企画展「メビウスの世界」のパンフレット。表紙はメビウス描き下ろし写真講演するメビウスさん=京都精華大で写真大友克洋さん(左)とりんたろうさん写真マジックでボードに直に描いていくメビウスさん写真これで完成写真聴いていた学生たちが絵の前に集まり記念にパチリ写真こちらは9日の明治大学でのシンポジウム。大好きなメビウスの絵をバックに語るマンガ家の浦沢直樹さん

 先日、京都精華大学へ行ってメビウスの講演を聞いてきましたので、今回はそのお話を。

 メビウスさんはフランス・マンガ界の巨匠でイラストレーター。映画「エイリアン」「トロン」などのコンセプチュアル・デザインを担当したことでも知られています。端正なタッチで描かれるSFやファンタジーの世界は、どこか懐かしい無骨なメカやユーモラスな怪物が飛び交い、大友克洋さんや宮崎駿さんといった日本のクリエーターにも影響を与えました。

 講演は、定員700人の会場に立ち見も出る盛況。71歳、銀髪の哲学教授といった趣のメビウスさんは、穏やかな口調で語り出しました。「80年代初期に手塚治虫さんの招きで日本を訪れ、日本マンガに出会った。大友さんの作品にはとても衝撃を受け、買って帰った本を仕事机の左に置き、それから数ヶ月間、常に参照していました」。へーえ、大友さんからメビウスさんへの影響もあったんですね。

 自分自身がキャラクターとして登場し、時に「怪物化」する「インサイド・メビウス」という作品については「現実のしがらみの中で生きている自分を、高みからのぞいてみたい。そんなイカロス的欲望があって描いた。高みに達するのは難しいが、実現してもその後には必ず『落下』が待っており、それは笑える要素です。これはいわば自己批評でもある」。

 「バンド・デシネ(BD=フランス伝統のマンガ)は小さな産業で閉じているが、私は映画に参加したおかげで知名度が上がった」との言葉に、司会の竹熊健太郎さんが「知名度のほかに、アーティストとして映画で得たものは?」と質問すると、「知名度は大事ですよ」と苦笑いした上で「BDの仕事を1週間中断し、映画のためにデッサンなりデザインをして渡し、また元の仕事に戻る。1年くらいたって映画が出来るとマスコミが『すごい』と言ってくれる。BDの方は何も言ってくれない。でもいいんです!」。メビウスさんが愉快そうに話すので、場内も爆笑。

 フランスでも人気の日本アニメについては「70年代に大ブームになり、親たちは抵抗したけれどたくさんの作品が放映された。これは一種の文化戦争だが、文化の成熟につながる。日本政府が日本アニメの普及に努めているそうだが、いいことだと思う」。

 後半は、大友さんとアニメ監督りんたろうさんが加わりました。2人が携わった映画「メトロポリス」について、メビウスさんは「アニメ史に残る大傑作だと思う」。作品の成り立ちなどについて自ら質問もしたので、これはリップサービスではなく本気のようです。「『AKIRA』や『メトロポリス』は黙示録的。そういう作品はめったにないが、お二人はそれを作り上げた」

 これに対しりんたろう監督は「フランスは僕にとって『三大作家』を生んだ特別な国。ジョルジュ・メリエス、ジュール・ヴェルヌ、そしてメビウスさん」。大友さんは「メビウスさんの作品に初めて出会ったのは70年代。見たことのない世界観に圧倒され、イマジネーションを使って描くということを改めて教えられた」。

 「ファンとして聞きたい」と大友さんが質問しました。「絵が衰えないのはどうして?」

 「こうだと答えられる質問ではありませんが、探究し続けることだと思います。絵を描くことは、私にとって常に喜びなんです」

 「朝起きてテレビとか見るんですか? 何を見るんですか?」。ほんとにただのファンみたいな質問です。

 「1日中みてます。絵を描きながらつけっぱなしです。楽しみと仕事を両立できて、おすすめですよ」。なんかイメージが違うなあ。ワイドショーとかテレビ通販とか午後のロードショーとか見ながら、あんな透徹した世界が描かれていくのでしょうか(想像する番組が間違ってる?)

 メビウスさんは現在、CGアニメの企画が進行中で、BDの人気シリーズ「アルザック」の新作も秋頃に発表する予定。日本のマンガ家とは作品の形式も創作ペースも違いますが、10代後半に作品を雑誌に発表して以来、息の長い活躍ぶりです。「いまだに新しい、美しい。新しいものほど洗練されている。日本のマンガ家は描きすぎなんです。どうでもいいことをダラダラ描いているから絵がダメになっていく。メビウスさんとは心構えが違う」と大友さん。

 そんな大友さんに竹熊さんが質問。「大友さんは最近、映画ばかりでマンガ描いてませんよね?」。答えに詰まる大友さんに「あれ? これタブーでした?」とトボケたふりしてたたみかける竹熊さん。「また描きますよ。ええ、描きたいですね」と言い、大友さんは苦笑して顔を伏せました。

 講演のラストは、メビウスさんによる「ライブ・ドローイング」。壇上に用意された白いボードに向かうや、あたりもつけず下書きもせずマジックでスイスイ、ハケでグイグイッと塗って「オーケー!」。スタスタとステージを下り、約3時間の講演を締めくくりました。

プロフィール

写真

小原 篤(おはら・あつし)

1967年、東京生まれ。91年、朝日新聞社入社。99〜03年、東京本社版夕刊で毎月1回、アニメ・マンガ・ゲームのページ「アニマゲDON」を担当。09年4月から編集局文化グループ記者。

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