2009年5月25日
映画「ボルト」から (C)Disney Enterprises,Inc.
映画「HACHI 約束の犬」から (C)Hachiko,LLC
ディズニーのCGアニメ映画「ボルト」(8月1日公開)を見ました。主人公ボルトは、テレビ番組でスーパーヒーロードッグを演じ続け、スタジオの外の世界を知らないため自分を本当のスーパードッグと信じこんでいる犬です。
何だか「トイ・ストーリー」のバズ(自分をヒーローと思いこんでる人形)と、「トゥルーマン・ショー」を合わせたような話…と、事前には余り期待していなかったのですが、これがなんと驚きの感動作。ハリウッドのスタジオから遠く離れたNYで迷子になったボルトが、「現実」に目覚め落胆し、仲間のおかげで「普通の自分」を受け入れ、しかし、一緒に悪と闘ってきた(と思いこんでた)少女ペニーの愛情も演技だったのでは、と悩むドラマには、グイグイ引き込まれます。旅の相棒となるノラ猫ミトンズは辛辣な皮肉屋ですが、その奥に隠された情の厚さが徐々に見えてきて、ホロリとさせます。
ディズニーアニメでこれだけの感動は「美女と野獣」以来。ピクサーを率いて数々のCGアニメをヒットさせたジョン・ラセターが、低迷続くディズニーのアニメ部門のボスとなって企画から立ち上げた最初の作品だそうで、見事な手腕と言うほかありません。
さて、ボルトは耳が立って短毛で純白で、これはあの、いま日本で一番人気がある犬に似ているじゃありませんか。ピーンと私の頭にひらめくものがありました。見終わったあと、宣伝担当の方に感想を聞かれて一通り喋ったのち、私は言いました。
「宣伝にはソフトバンクのカイくんに来てもらったらどうです? 向こうは『自分が上戸彩の父親だと信じ込んでいる犬』ということにして」
結構ウケました。
この試写の2日後、今度は「HACHI 約束の犬」(8月8日公開)を見ました。ご存じ忠犬ハチ公の物語を、主演リチャード・ギア、監督ラッセ・ハルストレムという豪華な顔ぶれでハリウッドで映画化。失礼ながら見る前は、冗談みたいな企画だと思っていました。「マイライフ・アズ・ア・ドッグ」ってタイトルの映画で世界的に有名になった監督だからって、「ギルバート・グレイプ」や「サイダーハウス・ルール」を撮った人が、なんで忠犬ハチ公を? ハリウッド版「ハチ公」っていうと、ハチが難事件を解決したり人命救助したり、もしかして主の病気まで治しちゃってハッピーエンドだったりするの?
ところが、映画はシンプルで落ち着いた、てらいのない佳品というおもむき。ハチを名犬に仕立てたり、人間側のドラマを付け足して盛り上げたり、といった作為はなし。前半はリチャード・ギアが犬をひたすらかわいがり、後半は犬が駅前に座ってひたすら待つ。これでドラマは十分、と考えた製作陣は「犬のチカラ」を信じているのでしょう。よほど愛犬家がそろっているに違いありません。
さて、私が見たのは字幕版ですが、吹き替え版には北大路欣也さんがキャスティングされているそうです。北大路さんといえば、あの、いま日本で一番人気がある犬の声を担当されている方ではありませんか。試写後に宣伝担当の方に私は言いました。
「吹き替えを2バージョン作って、北大路さんにはリチャード・ギアの声のほかにハチもやってもらったらどうです? ちょうど飼い主に年頃の娘がいてボーイフレンドもいるから、ハチがカイくんみたいに『どこ行ってたんだ?』と問いただすとか」
これも結構ウケました。
とまあ、冗談はさておき、2作とも主を慕う犬のけなげさがグッとくるいい映画です。とりわけ犬好きの方は、ぜひご覧下さい。
1967年、東京生まれ。91年、朝日新聞社入社。99〜03年、東京本社版夕刊で毎月1回、アニメ・マンガ・ゲームのページ「アニマゲDON」を担当。09年4月から編集局文化グループ記者。