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「彼女ひいてない?」「ドンびきです」

2009年6月1日

  • 筆者 小原篤

写真新郎新婦に贈る寄せ書きにはオシイヌ(押井監督をイヌ化したキャラ)を描きました写真コンサートを収録したDVDボックス「Kenji Kawai Concert 2007 Cinema Symphony」(ポニーキャニオン)写真ブルーレイ・ディスク「イノセンス」(ブエナ・ビスタ・ホーム・エンターテイメント)

 「押井守好きのI君」として本欄にたびたび登場してもらっている友人が先日、結婚式を挙げました。私は、新郎の友人代表として披露宴でスピーチをするよう頼まれていました。「犬と鳥と魚とか口走ってよければ」「大いに歓迎です」「んじゃOK」という感じで引き受けました。

 人間、トシを取ると恥をかくことに恐れがなくなります。たとえスピーチですべっても、出席者の中でI君(と奥さん)以外とは、たぶんもう会わないし(おいおい)。

 というわけで、主賓あいさつが意表を突いたガンダムネタだったのにも勇気づけられ、都内某ホテルのシャンデリアきらめく宴会場で私はマイクの前に立ちました。

 「えー、結婚式のスピーチというと『夫婦には三つの袋が』とか言うらしいですが、オシイウイルスに冒された人間はこう考えます。世の中は三つの関係で出来ている。犬と鳥と魚です。I君は当然イヌで、イヌのI君にとって新婦はたぶん鳥でしたが、結婚後は魚かもしれません。魚と鳥をうまく使い分けられればもう、イヌを思うがままに操れます。頑張ってください」

 こんなことを聞かされて、花嫁はいったい何をどう頑張るというのでしょう? 露骨な解説をして新婚生活に余計な波風を立てたりしたらイヤなので、差し障りのないように言っておきますと、鳥は観念で魚は本能、とかまあそんなところでしょうか。あとは、大笑いしていた新郎に聞いて下さいね。

 私とI君のそもそもの出会いは、大学の文芸サークル。同人誌に書いた私の最初の原稿が押井守監督の「天使のたまご」の映画評で、I君の最初の原稿が押井監督の「紅い眼鏡」の映画評という、呪われた映画で結ばれた、呪われた関係なわけです。さらに、新婦を最初に紹介されたのも、押井作品に欠かせぬ作曲家・川井憲次さんのコンサート(07年11月)でした。「コンサート一緒に行きましょう」とメールしたら「すみません、彼女と行くんで」と断られました。彼女がいたことより、彼女と行くというその男気に驚きました。ふつう彼女を連れていけるようなコンサートではありません。

 案の定、キレにキレまくった怒濤のサウンド。大スクリーンに映画「イノセンス」のアンドロイド少女のザンコク肉弾戦が映し出される中、耳を突き刺すハイパー民謡コーラス! 陶酔の一夜の後、「彼女ひいてませんでしたか?」とメールしたら「ドンびきです(笑)」。

 同じ病を持つ者としてあわれみを覚えた私は、「イノセンス」の中から、この病に効くとっておきのセリフを引用してなぐさめました。

 「世間に自慢できる趣味じゃないけど、違法ではないわ」

 でも、アレを見せて聞かせてもフラれなかったわけですから、たいがいのことは許してもらえるんじゃないでしょうか。

プロフィール

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小原 篤(おはら・あつし)

1967年、東京生まれ。91年、朝日新聞社入社。99〜03年、東京本社版夕刊で毎月1回、アニメ・マンガ・ゲームのページ「アニマゲDON」を担当。09年4月から編集局文化グループ記者。

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