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いぬのきもちがわかる人だ

2009年6月29日

  • 筆者 小原篤

写真拡大アルチンボルド「ウェルトゥムヌス(ルドルフ2世)」 Skokloster Castle,Swedenイラスト拡大犬が集まって人の顔に。ちゃんと押井監督に見えますか?イラスト拡大顔の部分のアップはこんな感じ写真拡大インタビューの折に撮った押井監督の写真。私のイラストを持って見ているところです

 東京・渋谷のBunkamuraザ・ミュージアムで開催中の「奇想の王国 だまし絵展」(〜8月16日)を見てきました。お目当ては、16世紀のイタリアの画家ジュゼッペ・アルチンボルドが、果樹園を司るローマ神話の神に見立ててハプスブルク家の皇帝を描いた「ウェルトゥムヌス(ルドルフ2世)」。野菜と果物のオバケとか、野菜の男体盛りとかではありません(当たり前ですね)。ほかにも、額縁から抜け出しそうな男の子とか、掛け軸から飛び出してくるような幽霊とか、古今東西のだまし絵が100点以上。黙ってじっくり鑑賞、というより「わーすごい」「あれ?ダマされた」とか言いながら楽しむものなので、息子(小2)を連れて行ったらケラケラ笑いながら見ていました。

 皇帝陛下のご尊顔をこんなたわけた絵にするなんて、これはアングラの風刺画か?と思いきや、錬金術に凝っていたルドルフ2世は、農作物から肖像をいわば錬金術的に作り上げてみせたこの絵がいたくお気に召し、アルチンボルドに貴族の最高位を与えたとか。生涯独身で趣味に没頭、政治的には無能だったというこの皇帝、オタク心の持ち主だったのかも知れません。

 アルチンボルドと彼の工房はほかにも、鳥や魚や本だけで顔を描いた奇怪な絵を残しています。それを映像化したのが、チェコのシュールリアリストにしてアニメーション作家のヤン・シュバンクマイエル監督による「対話の可能性」(1982年)という短編アニメ。本物の野菜や金物や文具を寄せ集めた3人の人間が互いを喰らい合うグロテスクなユーモア。ガラクタと食べ物をグチャグチャに混ぜてたたいて潰して刻む下品極まる(ホメ言葉)フェティシズムがたまりません。これを見たのがきっかけで、シュバンクマイエルもアルチンボルドも好きになりました。

 日本にも同じようなだまし絵があります。浮世絵師・歌川国芳が、人体を寄せ集めて人の顔にしてみせた「寄せ絵」です。今回の展覧会でも、最も有名な「みかけはこはゐがとんだいゝ人だ」(1847−48年)など何点かが展示されています。

 実は、好きが高じて自分でも寄せ絵を描いたことがあるのです。アルチンボルドのような細密描写は無理ですが、線が主体の国芳タッチなら真似できると思い(あくまで真似事ですが)出来上がったのが犬を寄せ集めた押井守像。すみません、また押井ネタです。

 入社3年目の愛知・豊橋支局勤務時代、かつて所属していた文芸サークルの同人誌に押井守論を寄稿した際、添えるイラストのつもりで描きました。が、文章は載ったのにイラストは使われず。しかし7年後の2000年12月、学芸部(当時)に移っていた私は新作「アヴァロン」公開を控えた監督に初めて取材する機会を得ました。そして厚かましくも、インタビュー終了後「すいません、監督に見てほしい絵があって…」とイラストのコピーを差し出しました。

 「へえー」と、監督が見入って相好を崩したところをパチリ。この写真、紙面にも使いましたが、監督の伸ばしたウデの先には私の寄せ絵がひらめいておったのです。「髪の毛がラブラドールってのがいいね」。いや、私はもう少しゴツいニューファンドランドのつもりだったんですけど…。「もらっていいの?」「もちろんです、光栄です」

 などというやりとりを思い出しつつ、息子に自作の寄せ絵を見せました。「さっき見た『みかけはこわいがとんだいい人だ』を真似たんだよ」「じゃあね、これは『いぬのきもちがわかる人だ』ってタイトルにしなよ」

 そういえば題がありませんでした。

 「いぬのきもちがわかる人だ」。いいね、決定。

プロフィール

写真

小原 篤(おはら・あつし)

1967年、東京生まれ。91年、朝日新聞社入社。99〜03年、東京本社版夕刊で毎月1回、アニメ・マンガ・ゲームのページ「アニマゲDON」を担当。09年4月から編集局文化グループ記者。

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