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ヒロシマ、わが愛

2009年7月20日

  • 筆者 小原篤

写真拡大「ウォレスとグルミット ベーカリー街の悪夢」写真拡大ニック・パーク監督=09年6月撮影写真拡大同人誌に書いた「ヒロシマ」ルポ写真拡大アレクサンドル・ペトロフ監督=07年1月撮影写真拡大ジョン・ラセター監督=09年6月撮影写真拡大ユーリ・ノルシュテイン監督=03年11月撮影

 粘土アニメ「ウォレスとグルミット」(W&G)シリーズのニック・パーク監督に、先日インタビューしました。取材するのはこれで3度目。いつも通りの穏やかなほほえみとささやくような声で、最新作「ベーカリー街の悪夢」(18日から公開中)について話して下さいました。写真を撮るたびに、カメラに向ける笑顔がウォレスそっくりだなあ、とついニマニマしてしまいます。

 W&G第1作「チーズ・ホリデー」(89年)を初めて見たのは、私が大学生だった90年夏、初めて行った広島国際アニメーションフェスティバルでのこと。「すばらしい一日」(原題:A Grand Day Out)という題でコンペティション部門に出品されたのです。たぶん日本での公開上映はこれが一番早かったのでないでしょうか。衝撃的な出会いでした。この時のフェスティバルについては、原稿用紙100枚分くらいの「観賞記」を挿絵付きで大学のサークル同人誌に載せました。その中で「すばらしい一日」についてはこんな風に書き残しています。

 「とにかく上手くて観客も笑い通し。十年も前から名作として親しまれてきたような雰囲気、最初の出会いで大好きな親友になってしまったような魅力を持った作品。大会中、最も観客の人気を集めたのはこの作品だったと確信できる」

 学生時代から作り始めた作品がこんな名作になっちゃうとは、どんな人だろうと興味津々でしたが、残念ながら監督は来日していませんでした。このとき新聞社の内定を貰っていた私ですが、W&Gシリーズが20年も続いて自分が何度も取材することになろうとは、もちろん夢にも思っていません。第一「アニメなんか新聞の記事にならない」と思っていましたし。

 ちなみに「すばらしい一日」をさしおいてグランプリをかっさらったのはロシアのアレクサンドル・ペトロフ監督のデビュー作「雌牛」でした。油絵をアニメートする超絶技巧を磨き上げ、その後も「老人と海」「春のめざめ」など力作を発表、この人にも2度インタビューしました。作品同様まじめ一本槍、物静かな思索家、求道家という趣の方です。 この年はジョン・ラセター監督がコンペ審査員を務めており、彼の特集上映もやっていました。上映は、電気スタンドがぴょんぴょん跳ね回る「ルクソーJr.」など短編9本。当時、彼はCGアニメの若きパイオニアで、フェスティバル会場近くのテキサス・メキシコ料理店の壁にブリキのおもちゃの絵をでっかく描き残して帰国した5年後、世界最初のフルCG長編アニメ「トイ・ストーリー」を完成さます。「ルクソーJr.」でラセター監督が切りひらいたCGアニメの未来に期待していた人も、アニメ産業やハリウッドをも揺るがすようなこんな巨大なものになるとは思ってもいなかったでしょう。ラセター監督にも先日、3度目か4度目のインタビューをし、プロデューサーを務めたCGアニメ「ボルト」(8月1日公開)について話をうかがいました。話しぶりにぐっと落ち着きが増したのは、ピクサーとディズニーという2大スタジオを率いる自信と貫禄でしょうか。おなかの貫禄もだいぶついたけど。

 こうして振り返ると「ヒロシマ」は私にとって出発点だったのだな、と思います。なので8月の広島の酷暑にもめげず、今も毎回(開催は2年に1度)出かけていくのです。ちなみに「観賞記」の最後はロシアのアニメ作家ユーリ・ノルシュテインさんに触れて締めくくっています。ちょいと飛ばした書き方ですが若気の至りということで許して下さい。 「ああ、そして、ノルシュテインの『外套』はいつ出来るのだろうか。グラスノスチで首の鎖を外されて、ペレストロイカでえさが貰えなくなったソビエト(そして東欧)アニメ界はどうなるのか。七九年の『話の話』の後、世界は『外套』を待っている」

 ノルシュテインさんにも、何度も取材したりプロ向けの講座にこっそり紛れ込んだりパーティーでお会いしたりできました。穏やかで真摯(しんし)、そしてユーモアをたやさぬ人柄に触れられたのは嬉しいことなのですが、歴史的名作「話の話」のあと30年かかってまだ新作「外套」が出来ないというのは、ある意味すごいことです。さすが、友人のアレクサンドル・ソクーロフ監督に「君は人生を楽しみすぎる!」と怒られたという逸話を持つ方です。

 先日、人形アニメーション作家の川本喜八郎さん(この方にも広島で初めてお会いしました)に「ノルシュテインは『外套』を3部構成で完成させるつもりなんだって」とうかがいました。数年前は確か「すでに出来た部分を第1部として間もなく公開し、すぐ第2部にかかって完成させる」という話だったのに、1部増えてるってどういうこと? 世界中のアニメ作家が崇拝する巨匠がやることは、破格のスケールというか何というか、まだまだ先は長そうです。それまでアニメ記者を続けていられるかなあ。

プロフィール

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小原 篤(おはら・あつし)

1967年、東京生まれ。91年、朝日新聞社入社。99〜03年、東京本社版夕刊で毎月1回、アニメ・マンガ・ゲームのページ「アニマゲDON」を担当。09年4月から編集局文化グループ記者。

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