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ロカルノ 濃い人うすい人

2009年8月17日

  • 筆者 小原篤

写真拡大講演後、サインを求められる高畑勲監督=7日、ロカルノで小原写す写真拡大名誉豹賞を受け取り、豹のトロフィーを高く掲げる富野監督写真拡大女の子のシャツのおなかに、プログラムを下敷きにしてサインを書く富野監督

 15日に閉幕したスイスのロカルノ映画祭の取材では、日本アニメ特集「MANGA IMPACT」の上映を見たり、富野由悠季さんや高畑勲さんらゲストの会見や講演を聞くだけではなく、アニメを見た観客や会見に来た記者ら、ヨーロッパの方々の感想を聞いて回りました。これがなかなか楽しくて、ちょっと病みつきになるくらい。

 「千と千尋の神隠し」を見たスイス人の若い女性は「宮崎監督のアニメは見たことがなかったけど、とても有名なので見に来ました。千尋の小さな友だち(坊ネズミとハエドリのこと)がとてもかわいかった」。確かに上映中、坊ネズミとハエドリは小さなしぐさまでいちいちドッとウケて、日本よりもよく笑います。ベルリン映画祭でも同じ反応だったなあと思い出しました。

 山賀博之監督のセミナーを受講したスイスの男子学生は「昨日、12年ぶりに山賀監督の『王立宇宙軍オネアミスの翼』を見た。最初に見た時は僕は幼かったし、吹き替えもよくなかったからだと思うけど、余り好きになれなかった。でも昨夜は、映画のイメージの豊かさに感動した。山賀監督が24歳であの映画を作ったなんて信じられない」。隣で聞いていたスイス人学生は「子供のころ見た『ドラゴンボール』を、国際映画祭で、大きなスクリーンで見られるのはとてもエキサイティングだ。MANGA IMPACTはいい企画だと思う。日本アニメは映画をとても豊かにしてくれる。米国映画だけ、実写映画だけでは偏ってしまう」。

 高畑勲さんとミシェル・オスローさんの講演後、高畑さんはサインを求める聴衆に囲まれましたが、その中に、「母をたずねて三千里」のムック本(日本で出版されたものです)を差し出した人がいました。「ルパン三世」のTシャツを着ているその中年男性はイタリア人。「MANGA IMPACTのために来た。ロカルノでは今のところ『太陽の王子ホルスの大冒険』と『千尋』を見たよ。僕の一番好きな作品は『となりのトトロ』。日本アニメには、日本の伝統的な文化が出てくるのが面白いね。『千尋』にいろんな神が出てくるだろ、それから『うる星やつら』にも。『北斗の拳』のようなバイオレンスから『赤毛のアン』『三千里』『未来少年コナン』といったシンプルな物語まで、伝統的な手がきの手法で何でも表現してしまうところが日本アニメのすごいところだ」

 強烈な日差しを避けて広場の片隅で私が一休みしているとき、映画祭のスポンサー企業の知名度調査をしているというスイス人の青年が話しかけてきました。アンケートに答えた後、今度はこちらがアンケート。「MANGA IMPACT? そんなのやってるの知らなかった。日本のアニメは余り見ないけど『AKIRA』と『攻殻機動隊』は好きだよ」。私が「2日後の夜にピアッツァ・グランデ(大広場)で『AKIRA』の野外上映があるよ」と教えると、カバンから映画祭プログラムを取り出し(持ってるくせに中身をロクに見てなかったらしい)「ホントだ!」。彼は少し離れたベンチに腰をかけプログラムをめくり出しました。「Wao,Jinro!」とか小声で叫んでます。「人狼」も好きとは、意外に濃い人だったのかもしれません。

 土曜の朝9時に人形アニメの川本喜八郎作品集を見に来たスイス人の中年女性2人組は、川本監督の名を聞いたことがなかったそうです。「歌舞伎や能といった日本文化に興味があるので、そんな世界を描いていると紹介されているこのプログラムを見に来ました。どの作品も画面のすべてが美しくて深い意味が込められているのに驚きました」。もうひとりは「私は画家で、仏教美術を勉強し始めたところなの。『死者の書』を見て、仏陀の絵を描くのが女性だというところにとても感動したわ。手作りの人形がすばらしい。衣装も織物もすべてきれい。この人形は誰が作ったの?」。川本監督です。「まあ、すごいわ!」

 日曜の朝9時に「劇場版ポケットモンスター ダイヤモンド&パール アルセウス 超克の時空へ」の記者向けの上映がありました。前の席に座っていた年配の女性に話しかけると、パリに住むフランス人の評論家だそうです。「テレビアニメは見ないけど、アニメ映画はよく見ます。ミヤザキは私の神よ。フランスでもとても人気。『千と千尋』はベルリン映画祭で見て、フランスでも孫娘と一緒に三度も見た。家族全員でファンです。日本アニメはすべてハンドメードなのが素晴らしい。ハリウッドのバーチャルでエレクトロニックなアニメはひどいものです。カンヌで『シュレック』がコンペティションに入ったとき見たけど、あれは私が今まで見てきた映画の中で最も醜いものでした」。映画に関しちゃあかなり年季の入った方とお見受けしましたが、ここまで熱く語るとは予想していませんでした。「『攻殻』もいいわね、『メトロポリス』もいい。あと題を忘れたんだけど、若い女の歌手が女優になろうとして…」。「パーフェクト・ブルー」ですね? 「そう! あの作品は、デザインは嫌いだけど題材はとてもいいわ。これから手塚治虫の短編アニメを見に行くの。ほかにアニメであなたのオススメはない? ぜんぶ見に行くわ」。えーと、それじゃあまず加藤久仁生監督の「つみきのいえ」と、ちょっと変わってますが「哀しみのベラドンナ」とか…。

 10日の夜は9時半からピアッツァ・グランデでアニメ4本立てがありました。富野監督が名誉豹賞を受け取るセレモニーの後、劇場版「機動戦士ガンダム」第1作が上映されました。ヨーロッパの石畳の大広場に、ザクのモノアイが光るボアーンという音がこだまし、「認めたくないものだな」や「おやじにもぶたれたことないのに!」がこだまします。ちなみに「坊やだからさ」では笑いが起こりました。年配のご夫婦に話しかけるとイタリア人の法律家だそうで「ロカルノは3度目か4度目だ。二人とも映画が好きでね。アニメは初めてだ。いや数日前に1本みたな、ネズミたちが人間と闘う話だが、何だったかな?」。奥さんがプログラムを指し「これよ、『ぽんぽこ』ですよ」。いやそれはネズミじゃなくてタヌキ…。どうしよう、タヌキをどう説明すればいいか分からない! もう一人、年配のスイス人男性にうかがった話が、今回の映画祭で最も印象的で感動的でした。「21歳になる3番目の息子が、この『ガンダム』というのが好きで、一緒に見に来たんだ。アニメのことはよく知らないが、この映画は色遣いがユニークだね。物語はどちらが敵でどちらが味方なのかよく分からなかった。闘いの場面が初めから終わりまで続くがそれは表面的なもので、闘いの裏側にはヒューマンドラマがあるね」

 翌日、富野監督は講演後に10代の女の子たちに囲まれサイン攻めにあっていました。シャツのおなかにサインを書いてもらった女の子は13歳のスイス人。「昨夜はじめて『ガンダム』を見ました。物語がとても面白かった。すきなキャラクター? あのちっちゃくて丸いロボット」。ハロか! サインにもちゃんとハロの絵が入っていて、よかったね。

プロフィール

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小原 篤(おはら・あつし)

1967年、東京生まれ。91年、朝日新聞社入社。99〜03年、東京本社版夕刊で毎月1回、アニメ・マンガ・ゲームのページ「アニマゲDON」を担当。09年4月から編集局文化グループ記者。

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