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牛よ死なないで

2009年10月5日

  • 筆者 小原篤

写真拡大映画「牛の鈴音」から (C)2008 STUDIO NURIMBO写真拡大ばあさまが登場する「母をたずねて三千里」DVD12巻(バンダイビジュアル)写真拡大映画「スノープリンス 禁じられた恋のメロディ」は12月12日公開 (C)2009 映画「スノープリンス」製作委員会写真拡大「フランダースの犬」DVD第1巻(バンダイビジュアル)

 夕暮れの田舎道をやせこけた老牛がヨタヨタ歩き、引いている荷車の上でおじいさんが居眠り。のどかでユーモラスですがジワッと泣けてくる、韓国映画「牛の鈴音」の1シーンです。腰の曲がった農家の老夫婦と年寄り牛の暮らしを撮ったドキュメンタリーで、日本公開は12月の予定。本国では今年1月に公開されるや口コミで評判が広がり何と300万人を動員、社会現象にまでなったそうです。

 冒頭が、牛の供養をする老夫婦。それから2年ほどさかのぼって、映画は2人と1頭の最後の日々を追います。牛の寿命は普通15年ほどなのに40年も生きているというこの雌牛が、いい味出しまくり。顔はでこぼこしてブサカワ、目は濁っていつも眠そう、ツノは頭に食い込みそうなほどひん曲がり、尻の毛はガチガチに固まってひび割れ、背中から腰は骨と皮だけのオブジェみたい。ボーっとしてても表情は何だか深遠で、足取りはヨロヨロでも田を起こし荷を引く姿は崇高ささえ感じさせます。一家の暮らしを長年支えてきたこの牛をはさんでのガンコじいさん(牛が好き)とガミガミばあさん(牛が嫌い)のやりとりは、漫才のようで笑えます。ちなみにこの毒舌おばあさんはすごいツンデレで、ずーっと「ツン」で通して最後の最後に最強の「デレ」を放って泣かせ、一番いいところをもっていってしまいます。ずるい!

 さてこの映画の試写を見る前から、私はある話を連想せずにはいられませんでした。今回のタイトルからお分かりになった方もいるかも知れませんが、不朽の名作「母をたずねて三千里」の第48話「ロバよ死なないで」。このサブタイトルと「ばあさま」というロバの名を思い出しただけで、鼻の奥がツーンとしてきます。「三千里」のオープニングで主人公マルコは毎回ロバに乗って荒野を進んでいきますが、物語の中で実際にロバに乗って旅したのは私の記憶する限り47・48話だけです。

 無賃乗車が発覚し貨物列車から荒野に放り出されたマルコが牛車隊に拾われ、年寄りロバ(20歳くらい)のばあさまを頭領から譲り受けて独りトゥクマンを目指しますが、3日目にばあさまが倒れて死んでしまいます。「僕が無理に歩かせたからだ。ばあさまごめんよ」とマルコは泣き伏し、路上に横たわる亡骸にひとすくいの土をかけ、歩いて旅を続けます。

 ばあさまは、眠そうな顔でマイペース、のろい足取りはマルコをいらつかせますが、黙々と歩く姿は頼もしいものでした。マルコの優しさと旅の過酷さを浮き彫りにした最期のカットの鮮烈さも加わり、登場話数は少ないものの忘れがたいキャラクターです。ちなみに「主人公が道を急ぐ余り自分の乗る動物をせき立てたためその動物が倒れてしまい激しく後悔するが置いていく」という展開は、「三千里」メーンスタッフである高畑勲さんと宮崎駿さんが若き日に出会ったロシアアニメの古典「雪の女王」に出てきます。さらに余談ですが、「ロバよ死なないで」の絵コンテは「ガンダム」総監督の富野喜幸(現・由悠季)さん、牛車隊でマルコの世話を焼くマヌエルの声は古谷徹さん(アムロ、飛雄馬)、頭領の声は加藤精三さん(星一徹)で、「口を出すな、決めるのはワシだ!」なんて一徹みたいなセリフを言います。ふと気になって調べたらマルコ役の松尾佳子さんは飛雄馬の恋人・美奈をやってました。すごい組み合わせ!

 名作アニメで動物が死ぬといったら「フランダースの犬」を思い出す方が多いでしょう。12月に公開される「スノープリンス 禁じられた恋のメロディ」(映画を三つくらい合わせたような題ですね)は、「おくりびと」の小山薫堂さんが、かわいそうな少年ネロと少女アロアの物語を下敷きにして脚本を書いた実写映画です。昭和初期の寒村を舞台に、絵が好きな貧しい少年・草太が裕福な商家の少女・早代と心を通わせますが、彼女の父親には疎まれ、祖父の病気で生活は苦しくなり…。

 物語は「フランダースの犬」を巧みに翻案していますが、草太がかわいがる秋田犬チビの扱いには不満があります。ネロは老犬パトラッシュを死なせたくなくてアロアの家に預けようとするのですが、草太にはそんな気遣いが見られないのです(しかもチビはまだ若い犬なのに!)。犬のほれぼれする演技と、山形・庄内地方で撮ったロケ映像の美しさが絶品なだけに、惜しい気がします。

 そういえば、11月21日公開のアニメ「マイマイ新子と千年の魔法」は、企画の原点が「『アルプスの少女ハイジ』のクララが歩けるようになった後のお話を作ってみたい」だったらしいですし、10月17日からTBS系で放映が始まるドラマ「小公女セイラ」は原作の「小公女」よりもアニメ版「小公女セーラ」に近い作品になるんじゃないかという匂いもします(大違いかも知れませんが)。名作劇場というのは、いろいろ話題を提供してくれますね。

プロフィール

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小原 篤(おはら・あつし)

1967年、東京生まれ。91年、朝日新聞社入社。99〜03年、東京本社版夕刊で毎月1回、アニメ・マンガ・ゲームのページ「アニマゲDON」を担当。09年4月から編集局文化グループ記者。

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