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バッタ君ラピュタに行く

2009年11月2日

  • 筆者 小原篤

画像拡大「バッタ君町に行く」は12月19日から渋谷シネマ・アンジェリカなどで公開画像拡大ハニーとホピティは相思相愛画像拡大虫たちのモブシーンがいっぱい写真拡大DVD「天空の城ラピュタ」(ウォルトディズニースタジオホームエンターテイメント)写真拡大「のっぽさん」高見映さんがバッタに扮するDVD「NHKみんなのうた グラスホッパー物語」(ポニーキャニオン)

 「アニメーターをやるやつは見ておくべき」と宮崎駿さんが言っています。12月19日にリバイバル上映される米アニメ映画の古典「バッタ君町に行く」のことです。以前はこの映画に対して批判的だったと記憶していますが、リバイバル公開の配給をする三鷹の森ジブリ美術館の用意した資料では、「時代を超えるものを持っている」と称賛しています。アニメーターが「動かせるものは何でも動かしてやるぜ」と熱いエネルギーを注ぎ込んでワーッと沸き立つような動きを見せてくれる作品で、自分も「ポニョ」でそういう大騒ぎをちょっとやったがなかなかフライシャーのようにはいかなかった、とか。

 「バッタ君」は、ベティ・ブープやポパイを世に送り出し、ウォルト・ディズニーの最大のライバルとされたフライシャー兄弟(マックスとデイブ)による最高傑作。ディズニーによる世界初の長編アニメ「白雪姫」(37年)に負けじと長編製作に挑み、39年の「ガリヴァー旅行記」に続いて完成させたけど、真珠湾攻撃の直後という公開時期がミスマッチだったか大コケして、彼らの最後の長編になってしまったといういわく付きの映画です。41年公開ですから、宮崎監督と同い年ですね。

 都会の真ん中の草むらに住む虫たちが、火事(人間によるたばこのポイ捨て)や洪水(庭のスプリンクラー)に遭っちゃあ大騒ぎ、ついには高層ビル建設で住処を追われてさあ大変。リーダーとしてはちょっと頼りないホピティ(バッタ)が、虫たちを率いてビルの鉄骨を上へ上へ。しかし、果たしてホピティの言う通り、ビルのてっぺんに「楽園」なんてあるのかしら? というのが大変ざっくりまとめた粗筋です。

 宮崎監督の言う通り、虫たちが動く動く。そして柔らかな描線、格調高い美術、しゃれたジャズナンバー。古色蒼然としているかというとそうでもなく、ヒロインのハニー(ハチの女の子)は目が大きくまつげパッチリ、ぴょいんと伸びた触覚がアホ毛っぽくキュートに揺れます。しかもハニーとホピティがチューするとき2人(2匹)の触覚がピーンと直立するところがグー。なかなかあなどれません、フライシャー兄弟。

 さて、宮崎監督とフライシャー兄弟と言えば、新「ルパン三世」最終回「さらば愛しきルパンよ」と「天空の城ラピュタ」に登場したロボットのモデルが、フライシャー版「スーパーマン」の「メカニカル・モンスターズ」に出ていたロボットであることがよく知られています。そんな予備知識があったためか、「ラピュタ」のあの有名なセリフ「見ろ、人がゴミのようだ!」を聞いた時、「バッタ君」のラストのセリフ「下をご覧よ、人が小さな虫みたいだ」を思い出したのです。記憶が定かではありませんが、なぜか「ラピュタ」より前に「バッタ君」を見たことがあったのです。

 「人がゴミのようだ!」は、空に浮かぶ戦艦から大勢の兵士が落ちていくのをラピュタから見ていたムスカが喜々として言った言葉です。「人が小さな虫みたいだよ」は、ビルの屋上から下の大通りを眺めた子供の虫のセリフ。大きな人間たちにまさに虫けら扱いされ続けた虫たちが、今は「虫のように小さな」人間を見下ろしているという皮肉が込められています。今回、リバイバル上映用のニュープリントを試写で見ていて「発見」がありました。虫たちの草むらの隣に住んでいた作曲家(人間です)の妻が、建設中の高層ビルを見て「このてっぺんに家を建てられたらいいわね、天空の城よ(our castle in the air)」と言うのです。ちなみに「天空の城ラピュタ」の英題は「Laputa:Castle in the Sky」ですが、「ゴミのようだ」と「虫みたい」の二つのセリフは両方とも「天空の城」から発せられたわけです。今になって気がつきました。

 ちなみにこの作曲家が作ったヒットソングとして劇中に流れる曲のタイトルは「We’re the Couple in the Castle」。いたいけなシータを嫁にしてラピュタで2人で暮らそうと目論んだムスカが歌いそうな曲です。そういえば「バッタ君」でも金持ちのおっさんのビートル(カブトムシ)がハニーを無理矢理嫁にしようとするんですよね。天空の城を捨てて大地に帰る「ラピュタ」のラストは、大都会の空中庭園で虫たちがはしゃぐ「バッタ君」に対する宮崎監督の返答だったのでは、というのはうがちすぎる見方でしょうか。反対にもし「ラピュタ」が、ムスカとシータが天空の城から地上を見下ろし「見ろ、人がゴミのようだ!」というセリフで終わるとしたら……こえー、超こえー。

 というわけで「バッタ君」、昔のちょっと地味なアニメではありますが見どころ(妄想どころ?)はいろいろです。ちなみにこの映画をどうプロモーションしようか頭を悩ませているジブリ側の担当者に私が提案したのは、「のっぽさんに、グラスホッパーのカッコで六本木ヒルズを登ってもらったらどうでしょう?」。すみません、無責任に勝手なこと言って。でもいいアイデアだと思うんですけどね。

プロフィール

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小原 篤(おはら・あつし)

1967年、東京生まれ。91年、朝日新聞社入社。99〜03年、東京本社版夕刊で毎月1回、アニメ・マンガ・ゲームのページ「アニマゲDON」を担当。09年4月から編集局文化グループ記者。

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