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ジョーダンじゃなーいわよーう尾田栄一郎さん

2009年11月23日

  • 筆者 小原篤

写真拡大映画「ONE PIECE FILM STRONG WORLD」から (C)尾田栄一郎/「2009ワンピース」製作委員会写真拡大「ONE PIECE」第1巻(集英社)写真拡大「ONE PIECE」最新55巻

 人気マンガ家にインタビューできる機会は限られています。週刊連載を抱えているマンガ家は世界一忙しい人たちだからです。記者なんぞにホイホイ会っちゃあくれません。週刊連載はおろしたてのパンツのようにキツいのだと鳥山明先生もおっしゃっていましたよ、会ったことありませんけど。このコラムも週刊だから、いやーキツイキツい(うそ)。

 人気マンガ家に取材を申し込む狙い目は(1)賞を獲ったとき(2)作品が映像化されたとき(3)連載が終わったとき、この3つです。先日インタビュー記事を書いた「ONE PIECE」作者・尾田栄一郎さんは(2)のパターン。長編アニメ第10作「ONE PIECE FILM STRONG WORLD」が12月12日に公開されるのを受け、取材の時間を取っていただきました。

 「よろしくお願いします」と尾田さんにごあいさつすると「前にお会いしてません?」。「ええ、10年前に」。憶えていて下さったとは感謝感激です。

 99年秋、「ワンピ」がアニメ化された機会をとらえ本欄の前身「アニマゲDON」にご登場いただいたのです。その後、尾田さんがメディアに登場することは少なく、結果的に貴重なインタビューとなりました。「少年マンガは冒険なんだ、旅だ、仲間なんだ。友情とか愛とか、書く方は恥ずかしいと思うけど、子供たちはストレートに受け取ってくれる。だから王道から逃げちゃいけない。僕は、奇をてらうより『ど真ん中』をかいてワクワクさせたい」。すがすがしくそう言い切った表情を思い出します。あの時は連載開始から2年余、単行本は10巻で累計1650万部だったのが、今や55巻で累計1億7千万部のモンスタータイトルに成長したことを思うと感無量です。

 10年ぶりにお会いした尾田さんは、血気盛んな若武者から風格ある剣豪へと変貌を遂げた趣でした(無精ひげのせいかもしれませんが)。アニメ10作目にぜひ力を貸してほしいと映画製作サイドから口説かれた尾田さんは、「プロットだけなら」とうっかり引き受けたばかりに、オリジナルストーリーを書き下ろし(しかも一度完成させたものを自ら破棄し全面書き直し)、コスチューム&クリーチャーデザインの設定画120枚以上を描き、アレをチェックしコレもチェックし、どんどん深入りしてしまった結果、スタッフから「製作総指揮ってことでいいですか?」「そうですね」という感じで、今回の映画で「製作総指揮」を務めることになった、とか。

 尾田さん「こんなコトになってしまったのは事故です、交通事故」

 私「ああ、もらい事故みたいな?」

 尾田さん「そうそう、ハッハッハ」

 10年前のインタビューでは「ラストのイメージはもう出来ているけど、そこにたどりつくまで何年かかるかな」なんてお話をなさっていましたが、10年たってどこまで進んだかというと、スタートを1、ゴールを10として「今は9、と言いたいけど5くらい」。ひえー。尾田さんは今34歳、読者の父親の世代になりつつあるんですが…(私のようなオッサン愛読者もいますけど)。

 「SBS(単行本名物、読者の質問に「尾田っち」が愉快な回答をするコーナー)で会話するみたいに対話しているので、読者との距離が離れていくような危機感はないですね。子供のような世代の読者がナマイキなことを言ってきたらそれはそれでかわいいと思えてくるかも」。ちょうど私の息子(小2)が「ワンピ」にハマったところなのですが、彼が何歳になったとき完結するのかなあ…。

 無事インタビューを終え「ありがとうございました」とごあいさつすると、イタズラっぽい笑みを浮かべて「じゃあ、次は20年後に」。ええ?! 「待って下さいよ、今回が10年ぶりで、次は何で20年に増えるんですか?」

 「そうだなー、じゃあ20周年のときに」「ああ、そうですね、そのときはぜひ」

 ………そのときも、連載つづいているの?

プロフィール

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小原 篤(おはら・あつし)

1967年、東京生まれ。91年、朝日新聞社入社。99〜03年、東京本社版夕刊で毎月1回、アニメ・マンガ・ゲームのページ「アニマゲDON」を担当。09年4月から編集局文化グループ記者。

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