2009年12月28日
「借りぐらしのアリエッティ」 (C)2010 GNDHDDTW
宮崎駿さん=スタジオジブリにて
劇場版「メタルファイト ベイブレード(仮)」 (C)2010劇場版メタルファイトベイブレード製作委員会
「踊る大捜査線 THE MOVIE 3」 (C)2010 フジテレビジョン
ちっちゃな女の子は好きですか?
好きですかそうですか、来夏公開のスタジオジブリの新作「借りぐらしのアリエッティ」は、身長10センチくらいの小人の少女と普通の人間の少年の淡い恋物語だそうで、鈴木敏夫プロデューサーは16日の製作発表会見で「宮崎(駿)はこういうシチュエーションにもえるんですね」とおっしゃっていました。東宝のウェブサイトのニュースでは「燃える」と書かれていましたが、いやいやそこは「萌える」じゃないの? 鈴木さんはさらに「非常にかわいい女の子を描くので、『お前はスケベだな』なんて言ったんですけどね(笑)」なんてお話もされましたが、いえいえこれは宮崎監督に向かって言ったわけではなく、「アリエッティ」の監督に抜擢されたアニメーターの米林宏昌さんに対しておっしゃった言葉です。
米林さんは36歳。ジブリ映画の監督としては最年少になるのだそうです。若手に任せる企画を考えていた宮崎さんが、20代のころ読んでアニメに出来ないかと考えていた英の児童文学「床下の小人たち」(メアリー・ノートン作、岩波書店)を思い出し、それでいこうという鈴木さんに「監督だれにする?」と訊いたら、鈴木さんがその場の思いつきで「麻呂がいい」と言ったという、とてもドラマチックな?経緯で監督になったそうです。「麻呂」とは、ちょっとおっとりしたところがあるという米林さんのあだ名です。
脚本は、宮崎さんが物語の舞台を現代日本に移して書きました。自分が監督する作品では結末が決まらないまま作画に入ってしまうのですが、新人監督にそんなムチャはできません。老婆の暮らす古い家の床下で、小人一家が人間のものをこっそり拝借してひっそり暮らしているのですが、14歳のアリエッティがうかつにも人間の少年(12歳)に姿を見られてしまい…。16日に公開された数十秒の映像は、キャラクターも背景も正統ジブリ調というべき絵柄でした。
さて、最近の宮崎さんと鈴木さんの話はどうも面白すぎるきらいがあります(別にウソをついているというわけじゃありません)。会見の日に報道陣に公開した宮崎さんのビデオメッセージによると、米林さんに任せた理由は「人がいなかった。もう一つはカンです。それしかない」「野心を持って新しい作品を作りたいという人間がこのスタジオから次々出てくるはずだったが、中にも外にもそういう人がいない。誰かいないかという時そこに麻呂がいたから『お前やれ』。才能はあるけど監督をやるためにジブリに来た人じゃない。丁か半か、賭みたいなもの」「いやなヤツだったらやらせません。いいヤツです。でも映画っていいヤツには作れませんからね、ハハハ」。
鈴木さんも鈴木さんで、とっさに米林さんの名を挙げたのは「アニメーターとして世界のどこに出しても恥ずかしくない腕がある。それと、麻呂は昼飯を食べにジブリの屋上へ上がるとき、部屋にいる僕と目が合う。会社で毎日顔を合わせる人というのもそんなにいないので」。さらに「アニメーターとしては一番うまいが監督としては未知数。やってみないと分からない。完成してもお蔵入りする可能性だってある。実際、ある若い人の作品を見て宮崎はお蔵入りを主張したことがある」。いやー、スリリングですねえ。
鈴木さんは、米林さんについてだけ面白いことを言ったわけではありません。「宮崎が原作を読んだのは40年前。これは!と思ったものに対する彼の記憶は大したもので、実は今回、脚本を書くにあたり彼は読み直しておりません!」。すがすがしいですね。さわやかな風が駆け抜けていきますね。「私は61歳で、宮崎は年が明ければ69です。あるとき彼は私に『70までやってほしい』と言ったんです。ゾッとしましたね、本人79歳までやろうってことでしょ? 心配なんですよ、宮崎駿がいつか『老害』になるんじゃないかって」。今度はヒヤッとした風が流れていきますね(ちょっと計算が合ってない気もしますけど)。ジブリは、竹取物語を題材にした高畑勲監督の新作も控えているはずですし、宮崎監督の次作はいつになるんでしょうねえ。
「借りぐらしのアリエッティ」の制作は若干遅れ気味らしいですが、とりあえず公開を楽しみに待ちましょう。ちなみに来年夏は、定番の「ポケモン」「NARUTO」に加え「メタルファイト ベイブレード」の劇場版も参戦。さらに「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶアッパレ!戦国大合戦」「河童のクゥと夏休み」の原恵一監督が森絵都の小説をアニメ化する「カラフル」もあり、東宝だけでアニメが5本! 実写では7年ぶりの「踊る大捜査線」第3作もやってくるという大変にぎやかな夏になりそうです。
というわけで、思い切り先走った来年のお話をしたところで今年はおしまい。それではみなさま、良いお年を。
1967年、東京生まれ。91年、朝日新聞社入社。99〜03年、東京本社版夕刊で毎月1回、アニメ・マンガ・ゲームのページ「アニマゲDON」を担当。09年4月から編集局文化グループ記者。