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ネズミには勝ち組も負け組もない

2010年1月11日

  • 筆者 小原篤

写真拡大「ちゅうずもう」より (C)2010 Studio Ghibli写真拡大三鷹の森ジブリ美術館は日時指定の予約制。0570・055777(ごあんないダイヤル)写真拡大行司はカエルが務めます写真拡大完成記念イベントで小学生らの質問に答える山下明彦監督=三鷹の森ジブリ美術館で写真拡大最後はみんなで記念写真写真拡大映画館で待ってるよ!(このマスコット人形、人気だそうです)

 「ねずみのすもう」というお話は、リアリズムという点において、ある困難な問題を抱えていると言わざるを得ない。乱暴な言い方をすれば、つまりウソだ。たいがいどの本でも、このじいさんとばあさんは貧乏だ貧乏だと、まるで自慢するみたいに書いているが、そんな家でネズミにモチを振る舞えといっても無理であろう。せいぜいが、豆腐にみそを塗って焼いた田楽か、さもなければそばの団子だ。団子の中に塩づけの青魚など入っていたら、大変なごちそうである。あるいはこの年寄りは、長者の家のネズミに自分の家のネズミが負けるのが、どうにも我慢ならないくらいの負けず嫌いで、どうだ我が家はネズミのためにだってモチつきくらいいつでもできるのだと、つまらない見栄を張ったのかもしれぬ。そんな心根の曲がった者であれば、長者のネズミに窃盗を促し、モチ代に置いていった金を横領隠匿する、という結末にも合点はいくが、これでメデタシメデタシではどうにも道徳上、自分の子供には聞かせられぬ。そこで私は考えた。貧者の一灯のように、真心込めて差し出したごちそうが、勝ったネズミも負けたネズミも、じいさんばあさんもあまねく幸せにするような、そんな物語を作れぬものか――。

 などと太宰治の「お伽草子」風の「ねずみのすもう」を書いてみましたが、ボロが出るので(もう出てるか)ここらへんでやめときます。余談ですが、いいですよ「お伽草子」。気弱な浦島太郎を愛のこもった毒舌でネチネチいたぶる亀とか、潔癖冷血美少女のウサギに惚れてしまったがために泥船で溺死する不潔中年のタヌキとか、たまりません。亀によれば(太宰によれば)「言葉といふものは、生きてゐる事の不安から、芽ばえて来たものぢやないですかね。腐つた土から赤い毒きのこが生えて出るやうに」だそうです。私のこのコラムも、そんな毒きのこを使った丼みたいなものですかね。あ、でもここからはマトモな話です。

 東京の「三鷹の森ジブリ美術館」で今月から短編アニメ「ちゅうずもう」(約13分)の上映が始まりました。原作は昔話の「ねずみのすもう」。企画・脚本は宮崎駿さんで、「ハウルの動く城」や「ゲド戦記」に中心スタッフとしてかかわったアニメーターの山下明彦さんが初監督を務めました。稲がとれない山の村の人々がどんなごちそうを食べていたかについて民俗学者の宮本常一さんが書いた文章を宮崎さんが読み、そこに登場する田楽と塩サンマ入り団子がとてもおいしそうなので、「ねずみのすもう」でモチの代わりにこれを食べさせる話をアニメにしようと思い立ったのがことの始まり。でき上がった映画は、田楽と団子でハラを満たしたネズミたちが、老夫婦の精一杯の励ましにこたえて緊褌一番、土俵で大暴れ。ああ頑張った、ああ面白かったと、敵も味方もネズミも人も最後はみんなで大笑い。ちんけなカネの話など一切なく、お金持ちになってメデタシとしないところが宮崎さんらしいなあと思い、失礼ながら勝手な妄想を膨らませ、冒頭の拙いパロディーを書いてみたわけです。

 しわくちゃヨボヨボのじいさんばあさんが、相撲で我が家のネズミがヘタヘタと負けてしまうのを見た翌朝、ガバッと立ち上がり無言のまま、猛烈な勢いでサンマ団子と田楽を作り上げるところが見どころです。並んだごちそうにワラワラとネズミたちが寄ってくる、というコンテを山下監督が書いたところ、宮崎さんから「このネズミたちを、礼儀を知っている侍と思ってほしい」と注文がついたそうです。もしかしたら「このメシ、おろそかには食わんぞ」(「七人の侍」)のイメージが頭にあったのかもしれません。山下監督がコンテを書き直し、ネズミたちが並んで歩み出でかしこまって座るシーンに。私が美術館のイベントで小学生たちと一緒に見た時、ここで笑いが起こりました。ネズミのキャラに芯を通すと同時に、楽しい場面にもなっているのはさすがです。そしてネズミたちのかぶりつくごちそうのうまそうなこと。

 クライマックスの相撲大会は、キャラクターが盛大に伸びて縮んで動き回るマンガ映画に。山下監督曰く「トムとジェリーのような派手に動くマンガ映画を、一度おもいきりやってみたかった」。土俵を取り囲むたくさんの観客(ネズミ)のリアクションも相まって、ワッと沸き立つシーンになっています。3月末まで上映するそうなので、機会があればぜひどうぞ。

 ジブリ美術館の短編アニメは過去にも6本作られローテーションで上映されていますが、私のお気に入りは「星をかった日」。少年が植木鉢で小さな星を育てる幻想的なファンタジーですが、見目麗しい家出少年ノナ(声・神木隆之介)を拾うのが、大人の色香を漂わせた美女ニーニャ(声・鈴木京香)で、庭で働くノナを2階からちょっとけだるそうに眺めたりしているスリップドレス姿のショットが、ジブリアニメらしからぬ?ムードでこれがまた――おっといけない、また「毒きのこ丼」に戻りそうなので、今回はこのへんで。

プロフィール

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小原 篤(おはら・あつし)

1967年、東京生まれ。91年、朝日新聞社入社。99〜03年、東京本社版夕刊で毎月1回、アニメ・マンガ・ゲームのページ「アニマゲDON」を担当。09年4月から編集局文化グループ記者。

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