現在位置:
  1. asahi.com
  2. エンタメ
  3. 映画・音楽・芸能
  4. コラム
  5. 小原篤のアニマゲ丼
  6. 記事

「手がき」と言ったら笑われた

2010年3月1日

  • 筆者 小原篤

写真拡大「プリンセスと魔法のキス」から、右端がナヴィーン王子 (C)Disney Enterprises,Inc.写真拡大ティアナは変なカエルにキスをせがまれる写真拡大ティアナ(左)と王子はカエルの姿に写真拡大ジョン・マスカーさん(手前)とロン・クレメンツさん=東京都内で

 ディズニーが伝統の手がきアニメを久々に復活させた「プリンセスと魔法のキス」(3月6日公開)を見ました。冒頭、幼い女の子ティアナとシャーロット、そしてティアナの両親らの演技を見て、不安がむくむくを頭をもたげてきました。動きが硬くてこなれていない、表情が平板でニュアンスに乏しい。ディズニーアニメ伝統の弾むような躍動感が伝わってこない。ああ、やはりブランクが大きかったのか? 私は4年前のインタビューを思い出しました。

 2006年6月、私はピクサーのCGアニメ「カーズ」のプロモーションで来日したジョン・ラセター監督に尋ねました。「ディズニーの手がきアニメを復活させるおつもりは?」

 ラセターさんはクワッと目を見開き、大きな口を開けて「ハイ!!」と日本語で答えました。私の思いは「よくぞ言ってくれました」、彼の思いは「よくぞ訊いてくれました」といったところでしょうか。

 ディズニーは04年公開の「ホーム・オン・ザ・レンジ」(日本はビデオ発売のみ)を最後に、手がきの長編映画はやめる、という方針を打ち出しましたが、代わりに作ったCG作品もパッとせず、06年1月にピクサーを傘下におさめると、ディズニーのアニメ部門をラセターさんに託しました。ハリウッド大手はみなCG一色、ラセターさんはその先頭を突っ走る旗手ですが、元はディズニーのアニメーター。それも「ナイン・オールドメン」と呼ばれたディズニー黄金期のアニメーターに教えを受けた人なので、期待を込めて質問をしたところ上記の答えが返ってきたわけです。

 「こんな話をするのはあなたが最初だが」(たぶんこれリップサービス)と前置きして、ラセターさんはまくしたてました。「いまハリウッドのスタジオはどこも、手がきアニメはもう受けないと考えているが、ストーリーがつまらなかったのを手がきのせいにしているだけだ。手がきの素晴らしさは宮崎駿さんの作品を見れば分かる。私はディズニーこそ手がき作品を作るべきだと考えているし、いずれ作るだろう」

 そしてラセターさんの製作総指揮のもとで出来上がった復活第1弾が「プリンセスと魔法のキス」。シャーロットが「いつか王子様が」と夢見たり、ティアナが「星に願いを」かけたりして名作へのオマージュを織り込みつつ物語は進み、成長したティアナが亡き父に代わりレストラン開業を実現してみせると意気込むくだりが、ミュージカルシーンとなって描かれます。ここは、輪郭線のないグラフィカルなキャラクターが躍るキレのいい画面で、本作のジョン・マスカーとロン・クレメンツ監督のコンビが作った佳編「ヘラクレス」(97年)を彷彿とさせます。

 さて、変なカエル(実は王子)にキスしたら自分までカエルになっちゃったティアナは、沼地でジャズ好きの親切なワニと出会います。このワニが、まさにゴムマリが弾むように伸びて縮んで、歌って踊ってトランペット吹いて。ようやくディズニーアニメらしい生き生きした動きに出会い、ティアナと王子同様「ああ、助かった」という思いです。描いたアニメーターは、「アラジン」(これもマスカー&クレメンツ)でランプの精ジーニーを担当したエリック・ゴールドバーグだそうです。

 恋より仕事のティアナ(カエル)とちゃらんぽらんの無責任王子(カエル)の道行きは二転三転、最後まで念入りにヒネリにひねったストーリーはラセターの貢献度が高いのではと推察しますが、手がきアニメのクオリティーとしては(特に人間のキャラクターの演技に)欲求不満が残るところ。うーむ…。

 監督コンビが来日したので、さっそく直撃インタビュー。見た目は大企業のエグゼクティブ風、受け答えはにこやか穏やか。なのでちょっと挑発的に切り込んでみました。

 「ひとつ不満がありまして」と切り出すと、マスカーさんがイスから逃げ出すフリ。「人間の動きが、特に冒頭ですが、硬い気がしました。たとえて言えば、ゴムマリが弾むような動きではなくピンポン玉が弾むような…」

 マスカーさん「人間のキャラクターは誇張せず、ナチュラルな演技でいいんです。後になって出てくるカエルやホタルは、もっとマンガっぽい『伸びて縮んで』というスタイルでやっているでしょう?」

 クレメンツさん「思いがけない指摘ですね、後で見返してみましょう」

 私「では、ブランクはあっても手がきの技術は失われていない?」

 クレメンツさん「懸念は抱いています。この映画は、ゴールドバーグらベテランが若いアニメーターを訓練しつつ作りました。手がきの技術は、作り続けていかないと維持できない。今後も作り続けていくことで、技術を継承し次の世代へ伝えていきたいと思います」

 はてさて、私のメガネが曇っていたのか、期待が高すぎて辛い点をつけてしまったのか? 動きの良し悪しは劇場で観客の皆様にお確かめいただくとして、ディズニーにはぜひとも、CGだ3Dだと騒ぐハリウッドの流れに押しつぶされずに手がきの伝統を守り続けてほしいものです。

 ちなみに、私はふだん録音機器を使わずノートにメモ、というやり方で取材します。今じゃ少数派なので珍しがられることもあります。今回のインタビューでも、ノートにグチャグチャと書きなぐる私の手元を監督コンビがしげしげと眺め「テープを使わないんですね」。私がペンを掲げて「手がきです」と言ったら、通訳抜きで通じたらしく「ハッハッハ」と笑ってくれました。

プロフィール

写真

小原 篤(おはら・あつし)

1967年、東京生まれ。91年、朝日新聞社入社。99〜03年、東京本社版夕刊で毎月1回、アニメ・マンガ・ゲームのページ「アニマゲDON」を担当。09年4月から編集局文化グループ記者。

検索フォーム
キーワード:


朝日新聞購読のご案内