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注文の多い「人脈さん」

2010年4月5日

  • 筆者 小原篤

写真拡大「ニッポン人脈記:いつもアニメが」第1〜5回 写真拡大「ニッポン人脈記:いつもアニメが」第6〜10回写真拡大勝間田具治さんには東映アニメーションで話をうかがいました 写真拡大宮崎駿さんにはスタジオジブリで取材しました。

 弊紙夕刊1面(一部地域は翌日朝刊)の大型企画「ニッポン人脈記」で、東映アニメーション(旧・東映動画)を軸とした連載「いつもアニメが」を10回にわたって書きました。

 3月18日掲載の第1回では、「美少女戦士セーラームーン」の声優・三石琴乃さんとカナダ人歌手HIMEKAさんを取り上げ、以下、「ゲゲゲの鬼太郎」編で鬼太郎役の野沢雅子さんにたんたん坊の夢を見る話をしてもらったり、「マジンガーZ」編で演出の勝間田具治さんに時代劇の殺陣とロボットアクションのかかわりをうかがったり、「太陽の王子ホルスの大冒険」編で宮崎駿さん、高畑勲さん、鈴木敏夫さんを結びつけた1本の電話のことを書いたり。4月1日掲載の第10回で「ハートキャッチプリキュア!」のCGダンスについて書き、なんとか連載は終わりました。

 昨年10月から準備を始め、ふだんの仕事もこなしつつ計30人にインタビューし記事にまとめるのは大変ハードでしたが、それよりもキツかったのは「人脈記」専従班(ここではまとめて「人脈さん」と呼ぶことにします)からの注文の数々。いやもう人脈さんの注文と来たら、カンベンしてぇー!と悲鳴を上げたくなるくらい、キビシイものでした。

 みんなが目にする1面の記事です。想定する読者は、アトムくらいは知っていてもマジンガーZとガンダムの区別はつかず、ましてやセーラームーンやワンピースなんて見たことも聞いたこともない――そういう前提で書き進めなくてはいけません。予備知識のない人にも分かりやすく、詳しい人にも読みごたえがあり、専門用語を使わずしかし正確に記述し、説明調を排して人間ドラマを主軸にし、その時代にこの作品が果たした本質的な役割をつかみ出すような独自の解釈を……。人脈さんの設定するハードルは高いです。

 「使えない言葉」がいろいろある点については、私もハナからあきらめておりました。原画、動画、絵コンテ、シリーズディレクター、フルアニメにリミテッドアニメなどなど。新聞読者にとってなじみの薄い「専門用語」であり、連載の中でその都度説明を入れるのもみっともないしリズムを崩します。アニメ作りの苦労話を書くのにこうした言葉を使えないのは痛いのですが、仕方ありません。

 しかし私は甘かった。人脈さんは、もっと手強い相手だったのです。

 人脈さん「セルという言葉は、読者には分からないと思う」

 なるほど、では「透明なシート」としましょう。記事では「透明なシートに絵を写し、筆で色を塗り」という書き方にしました。

 人脈さん「アニメの『演出』というのは何をするのか分からない。説明を入れてほしい」

 うーむ、これは意表を突かれました。話を書く脚本家と絵を描くアニメーターがいれば出来るってもんじゃないのですが……。しかも「演出」って連載の中に何度も出てくるのに。仕方なく「演出を担当した」を「スタッフだった」に言い換えたり、演出家が登場した後「脚本をどんな絵にするか、アニメーターらに指示する役回りだ」みたいなくだりを加えたり。

 人脈さん「変身ヒーロー物というのが分からない。説明を入れて下さい」

 ひえー! 「わっはっは、分かりました」。

 どうしたかと言いますと「変身して悪と闘う男の子向けヒーロー番組」と直しましたよ、はっはっは。掲載された記事は、さらに人脈さんが書き換えた言い回しになっていましたけど。

 ほかにも、こんな風に笑って済ませられないアレやコレやの面倒な問題が発生しましたが、連載は終わったし新年度が始まったし、なんと映画担当から論壇担当に持ち場も替わっちゃったので、ここはキレイさっぱりと、新たな気持ちで仕事にのぞみましょうかねえ。それでは。

プロフィール

写真

小原 篤(おはら・あつし)

1967年、東京生まれ。91年、朝日新聞社入社。99〜03年、東京本社版夕刊で毎月1回、アニメ・マンガ・ゲームのページ「アニマゲDON」を担当。09年4月から報道局文化グループ記者。

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