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親は心配していない?

2010年5月24日

  • 筆者 小原篤

図:子どものメディア接触で懸念・問題点拡大子どものメディア接触で懸念・問題点

図:メディア接触の影響の評価拡大メディア接触の影響の評価

図:マンガ・コミック、雑誌に対し、日本PTAとして取り組むべき内容(複数回答)=以上は「平成21年度 マスメディアに関するアンケート調査 子どもとメディアに関する意識調査」(日本PTA全国協議会)より拡大マンガ・コミック、雑誌に対し、日本PTAとして取り組むべき内容(複数回答)=以上は「平成21年度 マスメディアに関するアンケート調査 子どもとメディアに関する意識調査」(日本PTA全国協議会)より

写真:私が愛する「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶアッパレ!戦国大合戦」DVD(バンダイビジュアル) 「クレしん」は今回「見せたくない番組」2位でした拡大私が愛する「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶアッパレ!戦国大合戦」DVD(バンダイビジュアル) 「クレしん」は今回「見せたくない番組」2位でした

写真:自宅のマンガ棚です。息子に見せたくないマンガは……なくはない拡大自宅のマンガ棚です。息子に見せたくないマンガは……なくはない

 今回のコラムは少々長いので、忙しいアナタのために結論を先に書きましょう。

 日本PTA全国協議会の調べによると、小中学生の親たちはマンガが子供に与える悪影響について大して心配していないし、条例などによる規制も望んでいないことが分かりました。

 「ええっ?」「まさか!」と思ったアナタは、続きをお読み下さい。

 社団法人日本PTA全国協議会が「平成21年度 マスメディアに関するアンケート調査 子どもとメディアに関する意識調査」の結果報告書を発表しました。ウェブサイトにアップされているのでどなたでも読めます。同協議会が2002年度から継続的に実施しているアンケート調査で、対象は小学5年生と中学2年生の子どもと保護者。今回、保護者は3624人から回答を得たそうです。

●「親は性的・暴力的描写への懸念大」

 報告書は、千葉大教育学部の明石要一教授による解説から始まります。「メディア接触の問題点は何ですか」という質問に対し、「性的・暴力的な描写の多い書籍等が目にふれる所に置かれているのは好ましくない」という親が最多の87.2%いて、以下、2位は「メディアが多様となり、子どもたちの遊び内容や感覚が、大人にはわかりづらくなっている」73.3%、3位「インターネット等の利用において、知らないうちにトラブルに巻き込まれていないか心配だ」66.9%という結果だったそうです。

 これについて明石教授は、「親たちは(中略)メディアが送る(流す)情報の内容に対しては懸念を抱き、問題があると思っている。とりわけ、性的・暴力的な場面の描写には敏感である」と解説しています。

 また解説の〈マンガ・コミック、雑誌〉の項では、「テレビの見せたくない番組は小学生の親で3割を下回っているが、マンガでは60.1%と6割に達する。中学生の親でも55.4%と5割を超えている。親たちのマンガ・コミック、雑誌という活字への拒否反応は強いものである」と明石教授は指摘しています。

 見せたくない主な理由は、1位「安易な中絶や避妊等の配慮が足りない性行為、猥雑な性描写などいたずらに子どもの興味をかき立てている」78.2%、2位「レイプなどの性暴力や親しい間柄での暴力を肯定するような場面が多く描かれている」67.3%だそうです。

 「ちょっと待ってよ、すんごい心配してるじゃん! 冒頭の『結論』とぜんぜん違うじゃない!」と思ったアナタ、それでは私が解説いたしましょう。

●「マンガ・コミック」自体には好意的

 別に、親の6割が子どもに「マンガ・コミック、雑誌」を見せたくないと思っているわけではありません。明石教授の解説の後、調査結果の詳細の該当項目まで読み進むと、子どもに見せたくない「マンガ・コミック、雑誌」がありますか?と聞かれて「ある」と答えた小学生の親が6割いる、ということが分かります。マンガと雑誌全般についての質問ですから、そりゃ世の中には「18禁」のエロマンガもエロ本もたくさんあるので、そんなもの子どもに見せたくないのは当たり前です。

 中には、うんこやちんこといった下ネタばかりのくだらない(くだらないから子どもには面白いのですが)ギャグマンガを思い浮かべて「あんなもの見せたくない」と考えた親や、「子どもがマンガを読んでこのオモチャ欲しいとか言い出して困る。商品の宣伝みたいなマンガは見せたくない」と思った親も、たぶんいるでしょう。なので「拒否反応」といった大げさなものではありません。その証拠に、メディアに対する評価を聞いた質問で、「マンガ・コミック」について「非常によい」「まあよい」と答えた親は53.9%に上ります。

 「見せたくないマンガがあるか」という質問の後に、見せたくない理由を問う質問が選択式(複数回答可)であり、「猥雑な性描写」や「レイプなどの性暴力」が上位を占めたというわけですが、それにしてもこの選択肢、ほかは「いじめ・恐喝」「援助交際・出会い系」「モラル逸脱」「固定的な性別役割意識」を挙げていて、妙に政治的に偏っています。報告書の末尾の調査票を見ると、テレビ番組の「見せたくない理由」を問う質問には「エッチな場面が多い」のほかに「言葉が乱暴である」「内容がばかばかしい」「夢がない」といった選択肢があるんですけどね。

●当たり前の価値観を問う内容

 「メディア接触の問題点」として「性的・暴力的な描写の多い書籍等が子どもの目にふれる所に置いてあるのは好ましくない」(解説と詳細結果では微妙に文面が違います)という親が87.2%いて1位になった点ですが、これは文面にその理由があると思います。「好ましくない」がポイントですね。ちなみに、明石教授の解説では「メディアが多様となり、子どもたちの遊び内容や感覚が、大人にはわかりづらくなっている」が2位でしたが、詳細結果を見るとこれは誤りで、2位は「マスコミの情報をう呑みにせず批判的に捉える情報リテラシーを子どもたちに身につけさせたい」75.5%でした。明石先生はなぜ「情報リテラシー」をすっ飛ばしてしまったんでしょうね。

 この質問は、7つの文を挙げてそれぞれに対し「非常にそう思う」から「全くそう思わない」まで5段階の答えを選ばせる形式になっています。例えば3位の文章がもし「メディアが多様となり、子どもたちの遊び内容や感覚が大人にわかりづらくなっているのは好ましくない」という文面だったり、4位の文章が「インターネット等の利用において、知らないうちにトラブルに巻き込まれてしまうのは好ましくない」だったら、順位はどうだったでしょう? 逆に1位の文章が「性的・暴力的な描写の多い書籍等が子どもの目にふれる所に置かれていないか心配だ」だったら?

 要するにこのアンケートの文言は、「子どもの目につくところにエロ本があって困るよね」という状況を指しているものではなく、「子どもの目につくところにエロ本があるのはよくないことだよね」という至極当たり前の価値観を語っているので、「そう思う」回答が多くなるのは至極当然と言えるでしょう。

 そして、「子どもの教育のための社会環境で、今いちばん困っていることがあれば具体的にご記入ください」という質問に対しては、1位「ゲームの悪影響」6.9%、2位「遊べる場所の少なさ」6.2%、3位「子どもに携帯電話を持たせることへの不安」5.7%という結果でした。「雑誌・マンガやビデオの内容が子どもに与える悪影響」はなんと20位(1.0%)です。ね、大して心配してないでしょ?

●有害図書規制拡大派は少数

 さて今回のアンケートで、前回の本欄「非実在に実在する非実在」でも触れた「東京都青少年健全育成条例改正案」にかかわりがありそうな質問があり、興味深い回答結果が出ていました。

 「マンガやコミック、雑誌が子どもに影響を与えていることについて、今後PTAとしてどのようなことに取り組んでいくべきだと思いますか」(選択式・複数回答可)に対し、1位「出版業界に対して、有害図書等の販売自主規制や積極的な年齢対象の表示を要望する」47.6%、2位「コンビニや書店等に対して、一般の図書と有害図書を区分陳列する運動を推進する」45.2%でした。「有害図書等の範囲を現状よりも拡大する」は11.3%で、「その他」をのぞけば最下位の7位です。

 明石教授は解説でこう書きます。「『有害図書類に対して、自治体の有害図書指定等の規制を要望する』(24.9%)や『有害図書等の範囲を現状より拡大する』(11.3%)に関する数値は意外と低い。親たちは有害図書と思うマンガ・コミック、雑誌に懸念を抱いているが、条例等による自治体の規制や有害図書の範囲の拡大は望んでいない。関係者の良識ある自主規制に期待している」

 ね、条例などによる規制も望んでいないでしょ?

 今回はちょっとマジメな内容になってしまいましたので、最後に小ネタ。アンケートではテレビ番組の感想を自由に記してもらっていますが、こんなものがありました。

 「毎日、殺人事件など暗いニュースが多く、子どもに見せたくないと思うことがあります」

 「“サザエさん”が最近“今どき”風になってきて、昔っぽくない。(中略)“ドラえもん”が変わるのくらいイヤなかんじ」

 「アニメ番組に対して、いつも思うが、難しいわりに中味がなくわかりにくい」

 なーるほど。日本PTAの皆様、面白くてためになるアンケート&報告書、ありがとうございました。

「平成21年度 マスメディアに関するアンケート調査 子どもとメディアに関する意識調査 調査結果報告書」(日本PTA全国協議会、PDF形式)

プロフィール

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小原 篤(おはら・あつし)

1967年、東京生まれ。91年、朝日新聞社入社。99〜03年、東京本社版夕刊で毎月1回、アニメ・マンガ・ゲームのページ「アニマゲDON」を担当。09年4月から報道局文化グループ記者。

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