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その監督、更年期につき

2010年5月31日

  • 筆者 小原篤

写真:映画「OUTRAGE」は6月12日公開 (C)2010「アウトレイジ」製作委員会拡大映画「OUTRAGE」は6月12日公開 (C)2010「アウトレイジ」製作委員会

 2008年5月19日の本欄で「監督の更年期」という話を書きました。今回も同じネタです。ちょうど今月、43歳の誕生日を迎えたことですし。

 「北野武、『男の更年期』を語る」というインタビューが「SIGHT」2010年春号(ロッキング・オン・ジャパン)に載っていました。北野監督は1947年生まれ。インタビューによると2006〜07年は更年期で、気力がなくなり、気分にむらが出て、「性的にもね、どうでもよくなっちゃってたからね」。08年くらいにその不調を抜けて「オヤジからジジイに脱皮した」そうです。ちなみに、2年前から奥さんと週1で夕食を共にしており、間もなくできる新居では一緒に暮らすつもり、なんておよそ北野監督らしからぬ?衝撃の告白も。

 本欄「監督の更年期」では、宮崎駿、押井守、富野由悠季監督らの作品に見られるムードの変化に、更年期がかかわっているのではないか、と書きましたが、北野監督は率直な言葉で更年期が自作に及ぼした影響を認めています。

 「うん、『TAKESHI’S』はやっぱり、よく考えると、映画にはそれが表れてるよね。おかしくなってんのね。で、『TAKESHI’S』でダメで、少しはちゃんとやろうって思って、『監督・ばんざい!』じゃない? でも、あれも完全におかしいじゃない。そいで『アキレスと亀』で、少し……そんな当たった映画じゃないけど、あれはまあまあ普通の映画になったんで」「でも、今回の『OUTRAGE』は、もっと……すごい、かなりエンターテインメントだよね」

 興味をひかれたのでさっそく「OUTRAGE」(6月12日公開)の試写を見ることに。いやー、こんなにザックリした話とは思いませんでした。要するに、ささいなことからヤクザ同士の抗争がとめどなくエスカレート、最後には主な登場人物のほとんどが死んでしまう物語。

 耳に残るセリフは、「うるせえバカヤロー!」「なんだとコノヤロー!!」「うるせえバカヤロー!!!」「なんだとコノヤロー!!!!」。こんな調子で、あとは暴力また暴力。指つめは序の口、カッターで顔を裂き、鉄パイプでめった打ち、歯医者の×××で口の中を××××、ハシをこめかみに突き立て、舌を突き出させた状態でアッパーを見舞い、ピストルでパンパン、サブマシンガンでガガガガガ、手投げ弾でドッカ〜ン!

 抑制された暴力描写が北野監督の美学と思っていましたが、かなり様変わりの嗜虐(しぎゃく)ぶりです。もっとも「BROTHER」(01年)のまるでコントのような大杉漣の切腹シーンから、その変化の兆候はあったのですが。「OUTRAGE」を見ていると、スクリーンの向こうに、タマを盛大にぶっ放して「か・い・か・ん」とほほえむ北野監督の顔が見えるようです(実際に、弱小ヤクザの組長を演じてパンパンぶっ放してますけど)。

 表面は血みどろですが、虚無感は消え、ある意味、能天気に近い明るさが支配しています。これが、更年期を抜けた解放感、というものなのでしょうかねえ。

プロフィール

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小原 篤(おはら・あつし)

1967年、東京生まれ。91年、朝日新聞社入社。99〜03年、東京本社版夕刊で毎月1回、アニメ・マンガ・ゲームのページ「アニマゲDON」を担当。09年4月から報道局文化グループ記者。

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