2010年6月14日
グーグルやアマゾンやiPadやキンドルや電子書籍や活字メディアの未来とか、そんなことに関する雑誌記事や本をアレコレ読んでいると、暗〜い気分になってきます(明るい気分になる人は、気を悪くしないでね)。
「新聞業界のトレンドは明白だ。発行部数と広告収入は減少し、読者層は高齢化し、制作コストや債務の金利負担は膨らみ、株価は底値に張り付いたままだ。ネット新聞の無料配信や、グーグルやヤフーとの広告販売の提携も、大した役には立たなかった」(ケン・オーレッタ「グーグル秘録 完全なる破壊」文芸春秋)
身もふたもなく簡潔にまとめてくれるもんですねえ。米国じゃあ地方紙がどんどんつぶれていて、このままじゃジャーナリズムはどうなる、と社会問題になっているとか。
衝撃的だったのは、そんな問題を議論する米連邦議会公聴会(昨年5月)でネット新聞「ハフィントン・ポスト」創業者アリアナ・ハフィントンさんが放ったこの発言。
「私たちが今日、ここで議論すべきは、どうやって(既存の)新聞社を救うか、ではなく、どうやって多様なジャーナリズムを育成し、強化するのか、ということであるべきです。なぜならジャーナリズムの未来は新聞社の未来とは何も関係ないからです」(河内孝「アメリカに見る新聞がなくなった社会」中央公論6月号)
いやもう、正面から袈裟(けさ)懸けにバッサリ、という感じ。なにか打開策はないのでしょうか?
「君が新聞の発行人だったら、どうする?」と、オーレッタさんがネットスケープ創業者マーク・アンドリーセンさんに尋ねたら、返ってきた答えがこれ。
「売り飛ばすね!」
でも、この戦略の問題点は「買い手がいないことだ」(「グーグル秘録」より)。あんまりです。
5月に刊行されたこの「グーグル秘録」は、既存のメディア産業を大嵐に巻き込みながら躍進を続けるグーグルの歴史を、関係者への膨大なインタビューを基に手だれのジャーナリストがまとめた労作ですが、その中にこんなくだりもあって、興味をひかれました。グーグルの創業者たちは究極の検索エンジンとして人工知能(AI)を考えており、AIの専門家をエンジニアに採用しているとか。そしてグーグルの社員第1号であるクレイグ・シルバースタインさんは、思考能力のあるコンピューターの実現は「恐らく百年後だろう」と話したそうです。意外に近い気もします。グーグルの目標は「世界中のあらゆる情報を整理し、だれにでも使えるようにする」という壮大なもの。世界中の「知」を把握するAI?
さらに「ネット界最強の書評家・小飼弾氏によると、世界最大の検索サイトGoogleの米国本社では“機械政府”という研究が進行している。検索エンジンであらゆるブログやメール、携帯の会話から『民意をマーケティング』し、それを基準に政策や行政を自動装置化してしまおう、という壮大な計画らしい」(岡田斗司夫「異論反論」毎日新聞6月2日朝刊)。
こりゃもう「人間に代わり世界を支配するコンピューター」です。私たちがSFでよく見たアレです。遠かった未来が、実はもう近くに?(すでに調べ物はグーグル、捜し物はアマゾンにすっかり依存してますし)
となると、やっぱり「反乱」するんですかねえ。ワクワク、ゾクゾク(ここから妄想スタート)。
だいたい、グーグルの社是が「邪悪になるな Don’t be evil」というところからして、物語じみていて面白すぎます。世界から「邪悪」を根絶するにはどうすればいいかと考えたコンピューターが、「人類絶滅」こそその答えだと判断する――。いやー、やっぱりSFだ。それとも、いつまでたっても情報を完全に把握できない事態を解消するため、情報を生み出したりいじくったりする上にその存在を電子化できない厄介な人類なんて抹殺だ!という結論にいたるとか。いかがです、このシナリオ?
そんな未来で街をのし歩いているのは、人間そっくりに進化した携帯電話です。だって、グーグルのスマートフォン用OS(基本ソフト)って「アンドロイド」って言うんでしょう。
わずかに生き残った人類が繰り広げる抵抗運動は、電子化されない情報を作りだし流通させること。つまり活字メディアです。というわけで、人類の未来のためには活字メディアが大切だ、という超SF的な結論で、今回はおしまい。
ちなみに本欄アニマゲ丼第1回「水没した未来と支配された日本」で、大国に支配された日本とか分断された日本とかがアニメで目立つのはグローバル化に対する不安の現れかも、なんて与太話を書きましたが、今回の「グーグルが世界を支配して人類を裏切るかも」なんて妄想も、ネットやデジタルデバイスが紙の新聞や雑誌を駆逐してしまうのでは、という私の不安の現れかもしれません。そういうことにしておいてください。
1967年、東京生まれ。91年、朝日新聞社入社。99〜03年、東京本社版夕刊で毎月1回、アニメ・マンガ・ゲームのページ「アニマゲDON」を担当。09年4月から報道局文化グループ記者。