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アラフォー 夏の課題図書

2010年7月26日

  • 筆者 小原篤

写真:「ゲームの父・横井軍平伝 任天堂のDNAを創造した男」(角川書店)拡大「ゲームの父・横井軍平伝 任天堂のDNAを創造した男」(角川書店)

写真:「作曲家・渡辺岳夫の肖像」(P−Vine BOOKS)拡大「作曲家・渡辺岳夫の肖像」(P−Vine BOOKS)

写真:BGMにはキングレコードから発売された「One Man’s Music:The World of TAKEO WATANABE 作曲家・渡辺岳夫の世界」アニメ・特撮編(オープニング映像を集めたDVDつき)をどうぞ。ドラマ編も発売中拡大BGMにはキングレコードから発売された「One Man’s Music:The World of TAKEO WATANABE 作曲家・渡辺岳夫の世界」アニメ・特撮編(オープニング映像を集めたDVDつき)をどうぞ。ドラマ編も発売中

写真:「怪獣人生 元祖ゴジラ俳優・中島春雄」(洋泉社)拡大「怪獣人生 元祖ゴジラ俳優・中島春雄」(洋泉社)

 アラフォーの皆様に、この夏オススメの本を3冊ご紹介します(ホントはアラフィフの方も対象に入っていますけど)。子どものころの夏休みを思い出して、ジワーンと感慨にふけること間違いなしです。

 まずは「ゲームの父・横井軍平伝 任天堂のDNAを創造した男」(牧野武文著、角川書店)。子どものころから工作好きで大学の電子工学科を出た自称「落ちこぼれ」の青年が、花札会社に拾われて作ったものは、ウニョ〜ンと手が伸びる「ウルトラハンド」、相性チェックと称して女の子の手が握れる「ラブテスター」、ウルトラマシンや光線銃、そして1980年代初めに大ブームを巻き起こした携帯液晶ゲーム「ゲーム&ウオッチ」、全世界で1億台以上売れた「ゲームボーイ」などなど。

 私にとって懐かしいのは、ウルトラハンドと光線銃とゲーム&ウオッチ。実はどれも持っていなかったのに、しっかり遊んだ記憶はあります。友達のゲーム&ウオッチ(タコから逃げつつ宝をゲットするゲームだったかな?)を手がこわばるまでさんざ遊んだのは、夏の林間学校のバスだったか秋の修学旅行の新幹線だったか。

 横井さんの発想哲学は「枯れた技術の水平思考」。使い古された技術を使って思いがけないものを作る。すると、安く作れて、競合するものがないから高く売れる。これがキモです。「安く作らないと売れないというのは、単なるアイディアの不足なんです」と横井さんは語ります。

 「シャープのお偉いさんから『あのとき、ゲーム&ウオッチの液晶がなかったら、シャープの液晶はここまできていなかっただろう。縮小しようとしていた液晶工場がゲーム&ウオッチで盛り上がったので、TFT液晶(パソコンのディスプレイの主流方式)までつながったんだ』とよく言われます」という証言もあり、そうなると子どものころゲーム&ウオッチで遊んだことが、いま自室で使ってるシャープの液晶テレビにつながっているのかも、と思うと不思議な感慨にとらわれます(いや、でも買ってなかったから貢献してないか)。

 横井さんは1997年に交通事故で死去。本書最終章「横井は、最期の一瞬まで“横井軍平”だった」という結びが切ないです。

 2冊目は「作曲家・渡辺岳夫の肖像」(加藤義彦・鈴木啓之・濱田高志編著、P−Vine BOOKS)。

 「巨人の星」「アタックNo.1」「天才バカボン」「キューティーハニー」「子連れ狼(おおかみ)」「非情のライセンス」「アルプスの少女ハイジ」「魔女っ子メグちゃん」「フランダースの犬」「キャンディ・キャンディ」「あらいぐまラスカル」「白い巨塔」「無敵超人ザンボット3」「機動戦士ガンダム」…………!! 手がけた作品をこうして並べるだけでクラクラ、ゾクゾク。子どものころ親に怒られつつテレビにかじりついていた日々を思い出します。

 本書は、1万曲を作った男の56年の生涯と「ナベタケメロディー」の創作ドラマをつぶさにつづります。コンプレックスをバネにした猛烈な働きっぷり、そして「ハイジ」の取材で訪れたスイスでアルプスの山々を見ながらボロボロ涙を流したエピソードが印象的。堀江美都子さん(キャンディ・キャンディなど)、前川陽子さん(キューティーハニーなど)、大杉久美子さん(フランダースの犬など)ら女性歌手の回想から浮かび上がる「ダンディーなおじさま」像もステキです。

 堀江さんによれば「キャンディ・キャンディ」主題歌のレコーディングの日、渡辺さんはスキップしながらスタジオに入ってきて「ミッチ、これはね、一〇〇万枚売っちゃうからね」と言ったそうです。よほどの自信作だったんですね。以前みたNHKのアニメソング番組で作曲家の田中公平さんが絶賛していたのが、この主題歌の最後「キャンディ〜キャンディ〜〜」の前に挿(はさ)まれる「ネッ」。堀江さんは本書でこんな風に話しています。

 「あの『ネッ』に関してはレコーディングの時に先生から、『ここが大事!』って。『この、ネッで一〇〇万枚売れるから』って言われたんですよ」

 その言葉通り曲はミリオンセラーに。ネッ、読みたくなったでしょ?

 さて最後は超重量級、モニュメンタルな1冊です。何せ「ゴジラの中の人」の話ですから。「怪獣人生 元祖ゴジラ俳優・中島春雄」(中島春雄著、洋泉社)です。

 1954年の第1作「ゴジラ」から72年の第12作「地球攻撃命令 ゴジラ対ガイガン」までゴジラの着ぐるみに入って数々の熱演・名演を残し、もはや生ける伝説と化した中島さんが81年の生涯をふり返ってたっぷり語ります。

 海軍できたえた体はダテじゃない、自慢は胸囲100センチ、スタミナだったら誰にも負けぬ、やれと言われりゃ何だって、たとえ火のなか水のなか、着ぐるみ着たままプールに潜り、火薬で眉毛が焦げたって、中島ゴジラはひるまない。撮影が終わればオヤジさん(円谷英二特技監督)がニッコリ笑ってねぎらってくれる。「やあ春ちゃん、今回も死ななくてよかったね」

 ゴジラのまんまでちょいと一服(首ののぞき穴からたばこをプカリ)といった撮影中のスチル写真の数々だけでも、おなかいっぱいになるくらい楽しめます。「七人の侍」で宮口精二さんに切られる野武士を演じた話など、ゴジラシリーズ以外の話もたっぷり。

 中島さんはこれだけの仕事を成し遂げゴジラシリーズに欠くことのできない存在だったのに、東宝の扱いは最後まで大部屋俳優のまま。それを示す退職時のエピソードが、その直前の円谷監督の死とあいまって、苦いもの悲しさを漂わせます。

 本文は語りの形式で、中島節の名調子が楽しめます。「ゴジラの逆襲」撮影時、アンギラスを演じた先輩・手塚勝巳さんと屋台で飲んでいて何かで意見がぶつかったことがあったそうで

 「『この野郎、表に出ろ』ってテッチャンが言った。『ああ、上等ですよ』 僕は、店の屋台の外に出たんだよ。さあ、本気のゴジラ対アンギラスだよ」

 さて対決の行方は? それは本書でお確かめ下さい。

 子どものころ、夏休みにはよくテレビでゴジラ映画をやっていて、食い入るようにブラウン管(死語)を見つめたものです。レンタルビデオなんてなかった時代、アラフォーの夏の思い出です。というわけで、単にノスタルジーにひたるだけでも十二分に楽しいこの3冊、日本文化を創(つく)り上げた男たちの物語として読んでも結構です。お休みがとれた方は、家族サービスの合間にぜひどうぞ。

プロフィール

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小原 篤(おはら・あつし)

1967年、東京生まれ。91年、朝日新聞社入社。99〜03年、東京本社版夕刊で毎月1回、アニメ・マンガ・ゲームのページ「アニマゲDON」を担当。09年4月から報道局文化グループ記者。

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